PARTⅡの3(11) そしてヒカリと2号が
玄関のチャイムが鳴った。
「こんな夜に誰かしら?」
謡がインターホーンに出て「どなたですか?」と尋ねると、
「おねえちゃん、ぼくだよ、あけてよ」
という子供の声が帰ってきた。
聞いたことがないのに聞き覚えのある、そんな感じの声だった。いきなり頭の中に、あの座敷わらしの姿が浮かんだ。
「あなた、あなたなのね?」
「そうだよ、ぼくだよ」
謡は玄関に走って行ってドアを開けた。あの白い着物を着ておかっぱ頭をした座敷わらしがそこに立っていた。
彼は水色のリュックサックを背負っていた。そのリュックは彼が背負うには少し大きいように思えた。
謡はさきほどの火事や破壊のニュースを思い出した。
「もしかして、居場所がなくなって、金田一温泉からやってきたの?」
三次元にとらわれる意識からしたら、おかしな話だった。しかし謡はごく当たり前のこととして質問した。座敷わらしはコクリと頷いた。
「わかった、中に入って」
謡は座敷わらしをリビングに連れて行って、父と祖母に紹介した。
「おとうさん、おばあちゃん、座敷わらしさんよ。居場所がなくなって、うちに来たんだって。置いてあげてもいいよね?」
高志は座敷わらしに、
「君は俺に宝くじを当てさせてくれたり、いつも助けてくれたりしてくれている座敷わらしさんかな?」
と尋ねた。座敷わらしはコクリと頷いた。
「ありがとう、いつも。勿論大歓迎だよ」
高志は嬉しそうに言った。
粟乃は戸惑いの表情を浮かべた。
「謡も高志もそこに座敷わらしがいるっていうのかい? あたしには何にも見えないわ」
座敷わらしは謡に向かって微笑んだ。
「大丈夫、おばあちゃんにもぼくの姿が見えるようにしてあげるから」
彼は粟乃にスタスタと歩み寄ってその小さな手で相手の手を取って、
「ほら、ぼくだよ」
と言った。
粟乃は突然手をつながれる感触を感じ、同時に座敷わらしが自分を見上げて微笑みながらそう言うのを見た。
「まあ びっくり 夢じゃないわよね ・・・」
粟乃はあいている方の手で目をこすった。
「ごめんね、びっくりさせちゃって、でも、見えるでしょ?」
彼は誰か特定の相手が自分を見たり触れたりすることができるようにすることができるのだ。
「うん、ほんとにいるのね、あなた、あったかい手ね」
「おばあちゃんもあったかいよ、とっても」
「まあ、嬉しいわ。はじめまして、会えてよかったわ」
粟乃は優しいまなざしで座敷わらしを見た。
座敷わらしはリュックを降ろし、ジッパーを開いて中から大きなぬいぐるみを出した。体長五十センチほどのナマケモノだった。
「あ、2号!」
高志は思わず叫んだ。 謡は父親に言った。
「おとうさん、ぬいぐるみじゃないの、それ」
「ああ、でも、そんな気がして、つい ・・・」
座敷わらしはそれを持って玄関に行き、コート掛けの横木にその手足の爪を引っ掛けた。
みなも座敷わらしのあとについて玄関に行って、その様子を見た。
「2号はぼくの親友だから、このままリビングへ連れてって」
と座敷わらしが言った。
「2号って言ったぞ」と高志。
「とうさんがそう言ったから、そう呼ぶことにしたのよ」と謡。
高志はコート掛けごと2号をリビングに運んで壁際に置いた。
「なんか、昔を思い出すな ・・・」
高志は2号を見ながら
「その子は2号って呼んであげて。それからぼくの名前はヒカリだから、よろしくね」
座敷わらしにはそういう名前があったのだ。
「一体誰が火事を起こしたり破壊行為をしたりしたの?」
謡は尋ねてみた。
「金のコウモリ達だよ」
「そう ・・・」
「さて、ぼくはもう疲れて眠くなっちゃったから、詳しくはあした教えるとして、そうだね、おとうさんとおねえさんの間で寝かせてもらってもいいかな?」
座敷わらしは可愛い顔で尋ねた。
「ああ、いいよ、な、謡?」
「あ、うん、いいよ。今晩は川の字で寝ようね、ヒカリ!」
「わ~い。嬉しい。 ぼくね、前から、人間の子供みたいに
ヒカリは高志のベッドで、二人の真ん中で目を閉じてスヤスヤと幸せそうに眠ってしまった。その寝顔を見ながら謡は思った。
――かわいいな。こんな弟がいたらよかったかも ・・・。
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