嫉妬

 部屋から出たシアンは、そのままドアに背をもたれて、先程キースにつかまれた左手首を右手でつかみ、見下ろした。


 やべえ。

 いつもより大きい胸の鼓動を感じる。


 ……西オルガンのジャックにいさん、思い出しちまったぜ。

 鼓動が収まるよう、深く息を吐く。

 つーか、あいつ、何かたくましくなったんじゃねえの? 修道士ってそんなもんか?

 考えにふけっていたシアンは、自分に向けられている視線になかなか気付かなかった。


「……うわ! なんだよ、デイー、そこにいたのかよ」


 あせって、シアンは思わず声がうわずる。

 廊下の窓辺にデイーがよりかかって自分を見ていた。


「……」


 彼はシアンに何も応えず、ただ見つめ返していた。


「なんだよ、お前」


「いや……夕食が出来たから、呼びに来た」


 デイーはシアンを見つめたまま、答えた。


「そうかよ、なら、行く」


 ドキドキしながら平静を装い、シアンは階段へと向かう。

 デイーはその後ろ姿を見ながら、先程シアンとキースの二人が再会した光景を思い浮かべた。


 ……お似合いだと思った。

 最初からセットで作られたペアの人形とか。

 それとおんなじだと思った。

 北の国の王子とお姫様。そのまんまだ。


 ……キースだかヴィンセントだか知らねえけど、なんだあいつ。

 イライラ、とデイーはドアの向こうにいるキースを睨みつけた。


 シアンに土下座してお礼言えってんだよ。

 あいつがどんな思いで、お前を救いだしたかわかんねえのかよ。


 割りに合わない、とデイー は思う。

 シアンがあんな目にあっても救い出す価値のある男か?

 ……そりゃ、いい男だったのは認める。

 シアンと並んでも引けをとらない。


 何かが胸の中を渦巻くような感情に、デイーは唇を噛んだ。

 サングラスをかけてて良かった。

 先程からその感情はもろに表情に出てたと思うから。

 デイーは、部屋の前を通り過ぎると階下に下りるために階段に向かった。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る