第3話/3

 これまでのあらすじ。


 ミカちゃん、私は満足です。カラーズとしてまだ誰も捕まえてないけど、お金もないけど、もっと大事なモノに大事な部分を捕まえられてしまいました。


 わかりやすく言うと、イケメンと美少女と美少年とナイスミドルに囲まれました。肩身が狭いです。



 あらすじ終わり。





「へぇー! これが【カラーズ】のライセンスカードっ!すごいすごーいっ」


 うう。何でだろう。私だって初めてこの金属製のプレートを手にした時は同じようにはしゃいだよ? でも、え、うん。すっごく恥ずかしいよ?


 何でだろう、じゃなくて。ちゃんと解ってるんだ。恥ずかしい理由。


 ――そのライセンスは正真正銘、本物の私の身分証明。でも、そこに私の輝かしい戦歴はひとつも無い。まだ運転免許はないけど、ペーパードライバーというやつだ。つまり、


 同年代からもっと若い男の子までが一度くらいは憧れる、専業賞金稼ぎ【カラーズ】の証。それを手放しで、まるで自分のことのように喜んでくれているドロシーちゃんに、なんていうか申し訳が立たない。



 無鉄砲だと言われた。無軌道だとも。あと、無計画とも。でもねミカちゃん。私はそれでも止まってなんかいられなかったんだ。……そして、挙句の果てはやっぱりミカちゃんの予想通り。魔法使いの魔法がないままお城にやってきたシンデレラの結末なんて知れている。


「私って才能ないのかなぁ……」


 はしたないけど、テーブルに突っ伏してしまった。そりゃあね? 憧れで選んじゃったロンドンに、職権乱用(なんとカラーズは業務で外国に出る場合、格安で飛行機の利用ができるのだ!)して来ちゃったけどさ。こうやってすっごい、すっごいレオ様とお話できちゃってる運命とか待ってたんだけどさ。灰被ったまんまじゃ駄目だよう。



「……才能、ね」



 そんな私の痴態に少しも動じない、見た目よりもずっとオトナなカカシくんは一言、私の言葉を繰り返すと、カップを置いた。


「でもハイネはカラーズになれた。しかもまだ学生ハイスクールでしょ? そんなの、世界中でもそうはいないと思うよ」


 うん、フォローありがとう。でも私と同い年くらいで企業立ち上げて市場遣り繰りしてるカカシくんに言われても説得力ないかも。


 なんとびっくり。私と一緒にテーブルを囲んでいるこの人たち。お仕事は流通関係だそうだけど、社長は誰? と訊いたところ、レオ様、ドロシーちゃん、スズさんは揃ってカカシくんだと言った。


「ちなみにハイネの嬢ちゃん、成績は?」


 ううう。レオ様は優しい。優しいけどその質問は意地悪ですー!


「……射撃は、下の上。合格点ギリギリ。あと運動テストも下の上。合格点ギリギリです」


「ふわぁ……色々やるんだねぇ。ね、ね。他には何をやったの?ハイネっ」


「あと他には……学校のテストみたいな筆記試験がいくつか……」


「その成績はっ?」


「……学校休んでまで勉強したけど、ギリギリ合格」


 スズさんはコーヒーカップを置いて、一拍の間を置いて、



「……才能、あるんじゃないか?」


 ギリギリでなんとか踏み越えるボーダーラインとか? 私はまた突っ伏した。



「で、どうすんだい嬢ちゃん。縁があって、なによりハイネの嬢ちゃんは可愛いからな。ホテル代くらいなら俺が奢ってやるし、帰るってんなら帰りのチケット代くらいくれてやる。俺たちゃカラーズじゃねえけどな、これくらいは弁えてるぜ。“何をしたいか”。それがこの世で二番目くらいに重要なんだよ」


「私のしたい、こと。……しなきゃならないこと、じゃなくて?」


「くはッ!そいつはこの世で三番目くらいにじゃねえか!」


 レオ様はそう言って笑った。


 したいこと。



 ――正直、ピンとこない。



 私にはしなくちゃいけないことがあって、それは山積みで、でもそれは大事じゃないみたいで。




「したいこと。……あぁ。ミカちゃんにお土産買うって言ったんだっけ」


 私はやっぱりバカみたい。



「……そっか。じゃあ、まずはそこから始めようか、ハイネ」


 カカシくんは落ち着いた様子でそんなことを言う。


「僕もレオの方針には賛成かな。ホテル代も日本へのチケットも、ランチもディナーも僕らが払って良い。それでも、君の友達へ渡すお土産は、君自身のお金で手に入れないと駄目だ――ハイネ。君は“旅行者”じゃないものね?」



 カカシくんの言葉は、すとんと私の心に落ちてきて、収まった。



「うん、うん。……忘れてた。忘れてないハズなのに、どっかに置いておいたのかな。私は【カラーズ】で、賞金首を捕まえにロンドンに来たんだった!」


 ライセンスカードが目の前で銀色に光っている。まだ一度も賞金首を捕まえたことのない私は、それを持つ資格があっても、プライドはない。今のところこのカードはただの身分証明で、ちょっと便利なアイテムに過ぎないのだ。……ちょっとだけ、切なくなる。



 レオ様はプライドなんて既に持って生まれているものと言ったけれど。


 私にはまだ、ないから。あるいはもう、ないから。


 レオ様のようには生きられない。それでもプライドを持って生きることは可能だと、カカシくんは言ってくれたのだ。


 切ないっていうのはそういうこと。同じでありたかったユメは、違うという現実を突きつけられて壊れてしまった。でも――



「うう。若輩者なので迷惑を主に金銭的にかけてしまいますが、ここはどうぞ出世払いということでご容赦くださいませ……!」


 私の駄目さを笑わずに、ただ優しく笑ってくれたこの人たちが、いつか私を紹介する時に、少しも恥ずかしくないように。今は甘えてでも、カラーズをやらなくてはならないと、思ったんだよ。
















































「そして私は、自分の甘さを再確認するのでした。なにこれ!」


 ロンドン! 賞金首に懸けられているが半端ないから選んだっていうのに賞金首がいなさすぎるんですけど!



「……ハイネ。情報はちゃんと吟味することが大切だぞ」


 スズさんの日本語が痛い。


 携帯でカラーズ公式のサポート機関にアクセスし(ドロシーちゃんに大好評だった。)、この街の賞金首情勢を見て愕然とした。



 起きている犯罪のレベルは世界屈指でありながら、犯罪の数そのものは日本に劣るものの、かなりの低ライン。総額だけなら百万ドルどころか一千万ドルをとっくに超えているのに!


「……ってこういう事になるんだぁ……アメリカくらいしかないんだね、玉石混交な場所……」


 そう。ロンドンではつい最近、二組もの世界最上級賞金首【ミリオンダラー】が同時に出現した。その両方の活動メインがヨーロッパで、それを捕まえようと構えている先輩カラーズさんたちの数も多くて、更にそんな大物の縄張りでお仕事をするような度胸のある賞金首さんたちは殆どいないのでした。


 私のような新米カラーズには、玉しかないってのは逆にきっつい。最初はお城の周りでレベル上げしないとボスに勝てないに決まってるじゃないか!



 そんなわけで素行は大変悪いものの、治安自体はたいへんよろしいロンドンで、私の実力に見合った賞金首は皆無と言っても良かったのである。


「でもでも、これじゃあ皆さんの力を借りてる分、かなり申し訳が立たないというかミカちゃんにお土産買えなくて戻っても友情崩壊の危機!? みたいな!」



 穏やかな午後の昼下がり。とあるカフェのテーブルに、私は三回目のキスをした。



「後は突発性の犯罪者を現行犯で捕縛した場合の懸賞金か。額も随分と下がるんだろ? それに――」


 レオ様はガラス張りのテラスから大通りを見ながら言う。なんてことだ。私の痴態は外から丸見えだった!


 いや、そうじゃなくて。


「そんな偶然で見つかるほど世の中甘くないですよぅ……」



 で、私は四度テーブルに突っ伏して大通りを眺め――




 道を挟んだ向こうに構えるパン屋さんで発生した銃声を聞いて、そのお店の窓ガラスが割れるのを目撃した。









































「――世の中! 甘ぁーッ!」


 思わず声に出してしまった。



 突如として日常が非日常に変わる。大通りを歩いていた人々は一瞬で足を止め。その場からダッシュで去る人、好奇心に殺される猫のようにパン屋に行っちゃう人、若干冷静に警察に電話してる人など、それぞれの反応を見せた。



 で、私にご飯とティータイムのお茶プラス、ケーキまで奢ってくれた(あ、“カフェ・ライラック”のショートケーキはマジウマでした。)人たちは……



「これはやるしかないよハイネっ!」


「ぶはははは! ツイてンなぁハイネの嬢ちゃんはぁ!」


「……才能、あるんじゃないか、だ」


「さ、ハイネ。行こう」



 賞金稼ぎわたしよりノリノリだったという!



 じゃあ、と手早く会計を済ますレオ様。はやくはやくと急かすドロシーちゃんに引っ張られて外に出るカカシくん。……あれ? カカシくんの右足――


 一瞬の思考は、スズさんに肩を一度だけ叩かれて消えた。うん、そうだよね。そんなの、どうでも良いことだった。今も、きっとこれからも。




 パン屋さんの前で……というか流石に身の危険を察している野次馬さんたちは遠巻きに人だかりを形成していた。


 それをレオ様とスズさんは悠々と割って先に進み、それから私たちは続いて、パン屋さんの前。



 突発的な強盗犯は、レジの前で店員さんに銃口を突きつけていた。



 両手を挙げる店員さん。


 さっさと金をよこせと脅す強盗犯。妙な動きをしたら撃つぞ、だって。



「私、矛盾してると思うんですが……」


 動いて欲しいのか動かないで欲しいのか。



「だよねー」


 ドロシーちゃんはけらけら笑う。



「嬢ちゃん、ビビらねえのな?」


「あ、はい」


 短く答えて、私たちは店に入る。



 と、当然のことながら野次馬さんとパン屋さんと強盗さんの注目を浴びた。


 突然の闖入者に銃を持った犯人はパン屋さんを引き寄せるとそのこめかみに銃口を当てて――



「なんだてめぇら!!!」


 と、当然のように叫んだので、






「はいはーい!まほーつかいー!」


 ドロシーちゃんは勢い良く手を上げ。


「じゃあ、南瓜の馬車」


 カカシくんは息を吐き。


「……ネズミの馬、だ」


 スズさんは首をごきりと鳴らし。


「じゃあ俺はガラスの靴な」


 レオさんは四十五口径の拳銃を犯人に向けた。


「あの、えっと、賞金稼ぎ、です」


 私は若干照れながら名乗りました。



「カットー! NG! えぬじー!」


 魔法使いドロシーちゃんからまさかの駄目出し!


「え、ええ!?」


「ハイネっ! そんなんじゃ駄目だよ!」


 えええええええええ。


 ぷりぷり怒るドロシーちゃん。くそう可愛い。



「だからなんなんだよてめぇらぁぁ!!!」


 強盗さんが叫ぶ。



「はいはーい!まほーつかいー!」


 ドロシーちゃんは勢い良く手を上げ。


「じゃあ、南瓜の馬車」


 カカシくんは息を吐き。


「……ネズミの馬、だ」


 スズさんは首をごきりと鳴らし。


「じゃあ俺はガラスの靴な」


 レオさんは四十五口径の拳銃を犯人に向けて、撃鉄を起こした。


「え、えっと……シンデレラ、です……」


 なにこれしぬほどはずかしい。



「シンデレラごっこだぁ!? ふざけんな、こっちはマジでやってんだよ!いいからどっか行け! こいつの命がどうなっても良いのか!?」


「いや別に良いよ。俺たちゃ警察じゃねえし」


 レオ様は笑う。


 少しだけ、寒気がした。レオ様は本気でパン屋さんが死んでも良いって、思ってるのだろうか。

 

「なぁに死にゃしないような場所に当ててやんよ……死ぬほど痛いだろうが、泣くなよ? 男だもんなぁ?」


「賞金稼ぎ……!? くそっ! 動くな、動くなよ!?」


「あ、スズ! このお店のロールパン美味しかったよね! おじさん死んじゃうの、あたしは嫌だよっ」


「そうだな……少し勿体無い、だ」


 少しズレた会話をする二人。


 そんな時また、すとん、と。私の耳に声が入って来た。


「ハイネ、準備セット


 真横に立っているカカシくんの声。


 あぁ、そうか。とても信じられないけれど、四人はこうやって隙を作ってくれたのだ。本当、どこまで感謝して良いのかわからなくなってしまう。あるいは足りない。


 短く三回、息を吸って吐く。




 ――目の前には銃を持った強盗がひとり。銃口はパン屋さんに突きつけられていて、距離は……うん、大丈夫。思い切り走れば運動テスト下の上の私でも十分間に合う。


 頭によぎる、警戒の声。


『銃が私の方に向いちゃったら?』


 平気。


『撃たれたら死んじゃうかもよ?』


 平気だよ。銃は怖い。怖いけど――
















「……じゃ、まだ私は竦まない」


 蓮花寺灰音はなぜ、カラーズになったのか。また、どうしてカラーズになれたのか。


 その理由をたった一つ挙げるとすれば、才能じゃなくて――



 過去にあった経験から、危険に対する身体の萎縮を、よほどのことでもない限り感じないという肝の据わりようだけだ――



 一秒。


 私は駆ける。銃がレオ様に向いた。


 ゼロ秒。


 惚れ惚れする。

 強盗の持った銃の引き金が引かれるより速く、レオ様の銃が放った銃弾が、犯人の銃を撃ち上げる。



 二秒。



 レオ様は笑って銃を手放す。一瞬だけ見上げる。レオ様は言葉を出さず、銃を放した手は親指を立てていた。私は加速する。


 コンマ五秒。




 私はレオ様の銃を受け取った。ガラスの靴を受け取った。



 店内に押し入る。









 三秒――








「ハイネ=レンゲジ。カラーズの権限で、貴方を捕縛します」



 下から突き上げるように、犯人の顎にレイジングブルの銃口を当て……



 撃鉄を起こす。


「待った、待ってくれ」


 それがチェックメイトになった。





 こうして蓮花寺灰音は、やっとのことで。手助けもしてもらったけれど、とにかく。


 専業賞金稼ぎとしての幕をあげられたのでした。めでたしめでたし。そしてスタッフロール。ご愛読ありがとうございました!






























 最近の映画ってスタッフロールの後にもうワンシーンあったりするの多いよね。それを見る前に出て行っちゃう人はもったいないと思う。



 そんなわけで、私の物語にも、オチがありました。















「あぁうぅ……おとうさんおかあさん、灰音は感動で死にそうです……」


「その言葉何回目だったっけ」


 カカシくんのちょっと冷たい相槌も効きませんね!さておき。


 私は、レオ様たちの協力もあって、無事に強盗さんを換金した。


 五人で歩くロンドンの夕方は、きっと生涯忘れない風景。


「でもカカシくん、良いんですか? お土産選びは確かに悩んだけど……」


 私が手に提げた袋には、ウェッジウッドのカップが入っている。やっぱり、というかカカシくんのカップ選びのセンスはずば抜けていて、


『ハイネの友達なら、これが良いと思うよ』


 なんて言いながら、さくさくとオズボーンという名前のカップを選んでくれた。ちなみにペアカップである。


「値段もそう高くないしね。それに紅茶好きが増えてくれたら、僕も嬉しい」


 いつかで、君の友達と一緒に。と、そんな約束をしてくれた。


 さすがはカカシくん。ウェッジウッドのカップを持っている女子高生が日本でどれだけお嬢様なのかわからないで言っている。この少年社長め。



 こうして私のネロとパトラッシュから始まったシンデレラストーリーは――




「ぬぁーッ!? き、貴様らはー!!」



 雑踏から聞こえた、大きな叫びでもう一転するのでした。





「ぁン?誰だよてめぇ……ってなんだ、か」


「腰巾着言うな!これでも自分は世界警察本部けいぶひょっ」


「……うーわ。自分の役職噛んでるようじゃだめだめだよ、おにーさん」


「ううううるさい! ええい、ここで会ったが百年目! 覚悟しろ、【】!」



 ――【OZ】? この人は今、そう言ったのだろうか。


「覚悟もクソも無ぇだろコーハイ君よぉ……大体てめぇ、サクライはどうしたサクライは」


 サクライ。レオ様の言うサクライとは、今や世界警察にあって唯一無二、ただ一人『ミリオンダラーを捕まえる男』と言われている桜井警部のことだろうか。となると、この警部補(だよね)はその後輩で、結構な有名人だったりするハズなのだけど。



「あ、あのー……それより、【OZ】って」


「き、君は……そうか、人質か! ええいやってくれるな【OZ】! 非人道的にも程がある!」


 暴走する警部補さん。名前は……どうしよう思い出せない。これだから学科テストで良い成績を取れない私の頭。


「だいたい我が物顔で歩きすぎなんだよお前ら!日陰者らしく逃げ回れよ! いや、そんな事より【OZ】! ミリオンダラーの二番目! 【大強盗】はここでお縄につけぃ!」



 ――――。待って。


 私のばか。考えろ。思い出せ。散々聞かされたじゃないか。ミリオンダラーについて。そりゃあ私の目標はその中のひとつで、後はまぁどうでも良いかなーとか思ってたけど、あれだけ勉強したなら、あれだけ情報がタダ同然で公式ネットワークに溢れているんだから……!



 たしか、


 


 活動場所は主にヨーロッパ。世界を騒がした『時計塔事件』の主犯が、【不思議の国ワンダーランド】と……【OZ】。



 パン屋さんに押し入った強盗犯を捕まえる時だって冷静だった私は、銃も向けられてないのに頭がぐちゃぐちゃだった。




「んで? てめぇが俺らを捕まえるって? へぇ……やってみろよ」


 レオ様の声は、変わらずに楽しそうだ。


 カカシくんは眠そうに欠伸をしていて、スズさんとドロシーちゃんは夕食の話をしている。



「ぬぐっ……」


 警部補さんは携帯を取り出し、


「せっせせセンパイ! OZを発見しました! えぇ!? 僕だけで捕まえろ? 何言っちゃってるんですかセンパイはぁー! 可愛い後輩にここで死ねと!? あっちょっ待ってくださいすぐ行くってアンタ今アメリカ……えぇ!? 着くまで頑張れってそんな無茶な!?あっちょっ切らないでー!」



「……よっし! やるか警部補! しっかし奪うもん無さそうだよなぁ……」


「ぐ、ぐ……ほ、本官はぁッ!」


 彼は、背筋を伸ばし……



「今日は非番だぁーーーーーー!!」



 と、一目散に逃げて行った。

 



 芸人ぽさが気に入っているのか、レオ様は上機嫌で肩を震わせていた。



「あ、そうそう! ハイネは何食べたい?」


 ドロシーちゃんが覗き込んでくる。

 私は、人懐っこいその仕草での問いに、答えられない。


「……今の、本当なんですか、レオ様」



「んん? あぁ、本当だよ。言ったろ? 仕事はで、ってさ」



 聞きたくなかったなぁ。レオ様は軽薄なようで、ひとつも嘘をつかなかったから。


 ナンパな台詞で私をナンパしたのも本当で。ご飯を奢ってくれて。


 みんな、私が、きちんと一人前のカラーズになるということも、本当に望んでくれて、できるよって言ってくれたのに。













「……【OZ】、さん。私は、蓮花寺灰音は、【カラーズ】、なんです」



「おう」


「うん」


「あぁ」


「うんっ」



 なんでもないように、頷いてくれるのに。



「だから、私はカラーズとして、あなたたちを、捕まえないと」




 レオ様は笑った。







「よっし。やるかい、カラーズ」





 だから、私は泣いてしまった。涙は出たけど、それでも無理やりに笑って――




「やります。それで【色】も貰って、女子高生なのにスゲーって持てはやされて、ミカちゃんと豪遊、ですっ!」







 ――レベル上げもままならないまま、ボス敵に挑んだのだ。






























 拝啓。おとうさん、おかあさん。私は元気です。

 もう駄目かもって思った賞金稼ぎ稼業も、なんとか頑張っていけそうです。たくさん凹んで、それでもちょっとは自分のことが好きになれて、いつかはでっかくなってやろうと思います。


 ロンドンから帰国した私は、春休みが終わって久しぶりに会ったクラスメイトのミカちゃんにお土産を渡して、今回のお土産話をしました。



「……そんなわけで、ロミオが野獣で魔王だったけどすっごい格好良いの! シンデレラでジュリエットはどうすれば良いと思う!?」


「…………ミーハー」


 ミカちゃんは相変わらず冷たくて、少しほっとしました。私はひょっとしてマゾなのかな。



 また、お手紙書きますね。


 ふたりが愛してくれた娘より。



 追伸――























「あぁぁぁやっぱり私って才能ないのかなぁぁぁぁぁ」


 私はテーブルに突っ伏した。ビギナーズラック、初回特典。そんな言葉が頭の中でぐるぐる回る。



「いやぁまだまだこれからだって。ハイネの嬢ちゃんはでっかくなるさ」


「そうそう! いつかあたしたちを捕まえられるくらいにねっ」



 私は今、イタリアにいます。ここは【大強盗】OZのお気に入りの店だとか。生ハム美味しいです。でもちょっとしょっぱいのは、私の涙のせいだよね。



「うぅ。なに余裕ぶってんですかぁ……あーもう! そんなこと言ってると本当に捕まえちゃいますからねぇっ」













 追伸。


 海の向こうで、大切なお友達ができました。



第3話【首輪物語/1】硝子の靴を履けるまで。 完

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