* 40 *
チャイムが校内に鳴り渡る。
5時限目の終わりを教えるその音に、もの足りないと感じた。
ゆったりと落ち着いた気分から離れたくないが、次の授業までサボるわけにもいかなくて、後ろ髪を引かれる思いで立ち上がる。
見下ろすと、すやすやと気持ちよさげな寝顔。
叩き起こすのは気の毒で、眠る名本さんをそのままにして、ここに来た時と同じルートで校舎に戻る。
建物の中に入れば、ちらちらとこっちを
名本さんと一緒にいたことが、胸が
気分ひとつで、感じ方も変わるなんて。
――単純すぎやしないか、オレ。
自分の感情に突っ込みを入れる。
好きな人と一緒にいることが、こんなに嬉しいなんて、思いもしなかった。
立ち返った教室は、午前中ほど息苦しさを感じなくてホッとした。
授業開始のチャイムが鳴り始めたのと同時で名本さんと男性教師が入室してきた。
「名本、遅いぞ」
「すみませ~ん。絵を
――ずっと寝っぱなしだったけど。
悪びれないで答える名本さんに、心の中で指摘する。確かに、スケッチブックは持っていたけど。
「絵もいいが、勉強もそれくらい熱を入れてくれ」
世界史担当の先生がぼやくと、クラス内に笑いが起こる。
「は~い」
6時限の授業は、
3時半を過ぎて、帰りのショートホームルームも終わり、鞄を持って席を立つ。名本さんの席に目を向けると、既に彼女の姿がなかった。
話しかけたそうな同級生を振り切って、教室を出て美術室へ向かう。
名本さんに謝るために。
勢い込んで入った美術室は、もぬけの殻。意気消沈しながらも、室内に足を踏み入れる。
もしかしたら、後から名本さんが来るかもしれない、と期待する自分がいた。
いつも名本さんが佇む窓に歩み寄る。ガラス窓を開けて、外を眺める。
厚みのある灰色の雲が垂れ込める空は、今にも泣き出しそう。
――そういえば……。
名本さんがここに立ち、いつも同じ方向を見ていたことを思い出す。
いつも熱心に。
興味が
グラウンドのサッカーゴールが最初に目に入る。
その近くにはサッカー部員がたむろしていて、その中に山谷の姿があった。
……名本さんが見ていたのって、山谷?
胸のうちに浮かんだのは、名本さんと山谷のやりとり。
オレに対する時と違う、少し緊張した名本さんの表情。
――もしかして……。
脳裏に
水気を含んだ風が吹き込んだかと思うと、雨がパラパラと音を立て始める。
今日は名本さんは来ない気がしてきた。
心残りのまま窓を閉めて、美術室から立ち去った。
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