第66話 サヨナラも言えなくて

 ジルは、ソラに刺さった刀を乱暴に抜いた。


「ソ……ラ……?」


 俺は、ソラの体を抱きしめる。


「ご主人様……怪我はありませんか?」


「俺は、大丈夫だ。

 どうして、こんな真似をした?」


「だって、ご主人様怪我しているじゃないですか」


 ソラは、そう言って俺の頬に手を触れる。


「こんなのどうってことないぞ」


「ダメですよ……

 お薬塗らないと」


「ソラ、お前状況がわかっているのか?

 お前は、刺されたんだぞ?」


「……はい」


「だったら、まずは自分の心配を……」


 だめだ、うまく喋れない。


「私は、いいんです」


「何がいいんだ?」


「私が死んでも代わりはいますから……」


「ソラの代わり?」


「はい」


「そんなのいるわけ――」


 ダメだ。

 うまく喋れない。


「おい。

 お前らいつまで話している?」


 ジルが、そう言って俺とソラの間に刀を向けた。


「ジル……

 ソラ、待ってろ。

 今、コイツを倒してすぐにギルドに帰ろう。

 ギルドの中の誰かならソラを助けれるはずだ」


「……はい」


「それまで、死ぬなよ?」


 ソラは、返事をしなかった。

 ただ、ニッコリと微笑んだ。

 俺は、目の前にある刀にぐーぱんちをした。

 するとあっさりと折れる。


「ち……

 今日2本目かよ!」


 ジルが、そう言って怒鳴る。


「俺は許さない」


「許さないのは俺だ!

 ムラニシだぞ!ムラニシ!

 天下の妖刀ムラニシ!」


 ジルが、そう言って俺の体を何度も斬りつける。

 でも、俺にはダメージを与えれない。

 俺の怒りは、もう限界を超えていた。

 そこから何が起きたのかはわからない。

 気づいた時には、俺はギルドの病院のベッドの上にいた。

 そばには、万桜さんとかみさまがいた。


「ソラは?」


 俺の言葉に万桜さんが、つらそうな表情を浮かべる。


「死んだ」


 かみさまが、あっさりと答える。


「ちょっとかみさま!

 アンタには優しさがないの?」


「優しさだと?

 遅かれ早かれわかることだ。

 こういうとき妙な気使いは返って相手を傷つける」


「そんな……」


 俺の頭の中が真っ白になる。


「ソラさん。

 最後まで、昴君の心配してたよ」


 ソラが、死んだ……?

 俺のせいで死んだ?


「自分を責めるな」


 かみさまが、小さく言葉をはく。

 サヨナラも言えなかったのか……?

 俺は……

 俺は……

 俺は!

 俺の頭の中がぐるぐると回転するように心がぐらつく。


「なんとかカイは、捕獲出来た。

 兵長は、お前にカイの処遇を任せるそうだ。

 煮るなり焼くなり好きにしていいそうだ」


 カイがいる……

 ソラに一番近い存在が……

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