第1117話 送還

「あれ、デイスさん……!?」



 桜ちゃんが一番初めに、その女の人のことを見てそう言った。どうやらこの人が叶達や魔神達から噂に聞いていたデイスって人らしい。



「そうだ、この男はデイスを自分に取り込んでいた。アリム・ナリウェイへの嫌がらせとして地球へこの男が異変を意図的に起こすようになってから、その様子を探るために地球とアナズムの境目の門へ行ってもらっていたのだが、そこで捕らえられたようだ」

「そういえば連絡が取れなくなったって……あの、この人はいったい何者なんですか?」



 叶がそう、アナザレベルに質問をした。俺はデイスって人のことは話に聞くだけであってよくは知らないけど、アナザレベルの言い方からしてきっと重要な使命を負っていた人なんだろう。



「この女は二代目アナザレベルの孫娘の一人だ。早くから魔神の正体に気が付き、我の記憶を一番多く持つシヴァとコンタクトを取り、このアナザレベルを復活させようと協力してくれていた」

「そうだったんですか」

「ああ、何百年も良く頑張ってくれたものだ。……さて、目覚めるが良い」



 アナザレベルはデイスって人を自分の手で抱き起こした。無理やり立ち上がらせられた大勢になったデイスって人はゆっくりと目を開ける。



「おや……ワシは……」

「久方ぶりだな、デイスよ」

「おお、おお、神よ! とうとう御復活なされたのじゃな!」



 噂に聞いていた通り老人口調だ……。見た目は若い女の人だけど。でもよく考えたら若いのは見た目だけで、何百年も魔神達の補佐をやってたんだよね? 

 魔神はこのアナズムじゃずっと悪者だったから憎まれ役を何百年もかって出るなんて並々ならない大変さだったんじゃないかな。その上、二代目の孫娘ってことは、自分の祖父を裏切りつつ暗躍してたんだもんね。もしかしたらこの場にいる人間の中で一番辛抱強いのはこの人かも。



「良かった……本物の神が、本物の神が復活なされた……!」

「何百年も何百年も、本当にありがとうデイスよ。こうして我は蘇ることができた」

「そんなワシは信仰の元に主に従っていただけ。ただ、努力が報われるというのはなんとも……! よく見ればこの場に多く、見知った者がおりますな」


 

 デイスさんは真っ先に叶と桜ちゃんの元へ歩み寄ってきた。



「元気そうで何よりじゃ」

「デイスさんこそ、こんな大変なことしてたなんて」

「何百年も……」

「ほっほっほ、なに、ワシはシヴァ様の力の一端を受け取っておるのでな、時間旅行を自由にできる故、本当はそんなに年月はかかっておらんのじゃよ」

「……その声と口調、やはり、貴女はアモンさんですね?」

「おや、その声はメフィストファレスかの」



 デイスさんと光夫さんが昔話をし始めた。どうやら俺が戦った悪魔の軍勢の中にもデイスさんは悪魔に扮して紛れていたみたい。アモンだったっけ。そういえば一匹だけ撮り逃した悪魔がいたような気もしてたけど、それがデイスさんだったのかな。



「……とりあえずこんなものか。ではこの二代目アナザレベルを元の時代に送り返そうと思う。皆よ、なにか他にこの男に用事はないか? 恨みがあるならばやり返すなら今だぞ」



 アナザレベルが頃合いをみてそう言った。たしかに俺は二代目アナザレベルを恨んでるけど、特にやり返すことはない。

 光夫さんも幻転丸もそうだ。なにか憎しみを込めてやり返したいというより、二代目の側に居たくないから早く送り返してほしいみたいな顔してる。



「居ないようだな。ならばどうだ、デイス。自分の祖父へ何かいうことはあるか?」

「特にありませんな。混じっているのは血だけ。あとは我が主である神を冒涜した愚か者という認識じゃからな」

「酷い言いようだな。まあいい。では記憶もステータスも消して元の時代に返すぞ」



 アナザレベルは未だ眠っている二代目アナザレベルの額に手を当てた。再び二代目アナザレベルは光だし、しばらくするとその場から消滅してしまった。

 本当に元の時代に戻れたのかな? アナザレベルも結構二代目アナザレベルを恨んでたっぽいし、本当は殺しちゃったとか……ないよね? 流石にないよね? 神様だもんね。



「さて、これから我は各々の国王の元へ事情を説明しに行こうと思う。なんとも都合よく奴とその配下が起こした事件のおかげでこの国に各国の王が粗方集まっているからな。アリム・ナリウェイよ、あの世界から帰還してすぐで済まないが、付き合ってくれないか」

「うん、わかった」

「加えて、デイスとあと、一緒に二代目の作り出した世界へ行ったミカ・マガリギ、愛長光夫に幻転丸も用事がなければついてきてくれ」



 どうやらこれから自分が本物の神様だよってみんなに言いに行くらしい。たしかに今までのアナザレベルは勝手に襲名した偽物に近い存在だったって言わないと、信用を落としたままになるもんね。で、隣で俺が相槌を打てば良いのかな?

 アナザレベルは国王様達にメッセージを送ったあと、さっき言ったメンバーと共に瞬間移動でメフィラド城内へと移動した。城内には神様から呼び出されたからか王様レベルの偉い人たちが一同に並んでいる。

 たぶん、アナズムにとっては歴史的な日になるんだろうね。









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あと2~5話で最終話となります。

前回はお休みしてしまい申し訳ありませんでした。病院行ってお薬もらったら蕁麻疹、一応なんとかなりました。


余談ですが、『題名のない魔王』もご覧いただけたら嬉しいです!

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