第1072話 今日は休むべき

【ははは、ま、まあ一つだけ分かることならあるぞ!】



 シヴァが未だに幻転丸のことを笑いながら、みんなに向かってそう言った。ちなみに犬ロボットの姿のまま転げ回って笑ってるんだよ。どれだけお地蔵様に封印されてるのが面白いんだろうね。



「なぁに?」

【おそらく今日と明日はもう襲ってこない】

「それは本当か魔神よ」

【ああ、メフィラド国王よ、本当だとも。我らはアイツと対峙したことがあるからな。部下を多失ったりしたら最低三日は休むのだ】



 仲間想いっていうより手駒を失った悲しさって感じかしらん。というかやっぱりシヴァ達ってば偽のアナザレベルと出会ったことあるんだね。



【明日も空くなら、拙者、明日に情報を伝えようと思うでござるよ】

「先延ばしにしようとしてねーか?」

【断じてそんなことはないでござる! お主らの身を案じてのことでござるよ!】

【我もソイツの意見には賛成だ。今日はどれほどの強敵と戦った? ゆっくり身を休めるがいい】



 たしかに、たしかにもうすこし力を抜いただけでへなへなって地面に倒れこむことができちゃうくらい疲れてる。自他共に認める我慢強い俺でこうなんだから、ミカやカナタやサクラちゃんなんか、ヘットヘトに決まってる。休めるなら休みたいよね。



「わかった、ボクも休みたいし」

「……そうするか。澱んでいた空も晴れたようだしな。これ以上無駄に精神を披露させても良いことがないだろう。とりあえず今日は我々が勝ったのだ。……皆の者!」



 国王様がみんなに呼びかけた。いつもだったらもう少し考えてからみんなに呼びかけるてるはずだと思うんだけど、やっぱり疲れてたのかすぐに行動に移していた。多くの人がその場にヘタリ込む。とくに幻転丸やカオスブラックドラゴンに関しては伝説上の生物そのものだし、こうなるのも仕方ない。



「じゃあ帰ろっか」

「だな……」

「いつ起こるかわからない次の襲撃に備えて休まないと」

「光夫さんもウチに来ますよね?」

「……よろしいのですか?」

「というか他に行くとこないでしょう?」

「ありがとうございます」


 

 これで幻転丸とメフィストファレスっていう敵幹部二人を自宅に招き入れることになるけど……まぁいいか。もう大丈夫だと思うし。お父さん達もいる前で泊まっていいって言ったわけだし。

 カナタの瞬間移動で俺たちは屋敷に帰ってきた。とりあえず魔神達と幻転丸は同じ部屋に置こうかな。そう考えていたところ、なにやら大人達の方から賑わった声が。



「……おや、申し訳ない。今気がつきました! お久しぶりでございます、曲木会長」

「やはりその中身は愛長さんでしたか。お久しぶりです。二年ぶりですね」

「私からしたら百年ぶりなんですよー、これが」



 ミカのお父さんと光夫さんが商売をする時のボイスで話をしていた。どうやら一つの会社を運営している者同士、知り合いだったのかな?



「今思い出したことがあるんだけど」

「ん? どしたのミカ」

「そういやうちのカフェとラブロングサーカス団、三年前と二年前の二回、コラボしてるんだよね」

「……あっ! そういえばそうだったね!」



 カフェのコラボ先とかいちいち覚えてないから忘れてたけど、なるほど、だからあの二人は面識があるわけか。光夫さんも俺たち(子供)以外の知り合いがいて居づらそうな雰囲気がなくなったな。

 とりあえず光夫さんにお部屋だけ案内しちゃおうか。お客さん用の。



「おじさん、光夫さん、お部屋案内したいからお話後にしてもらっていいですか?」

「おっと、ごめんね。ではまた」

「ええ、また。申し訳ありません、では案内をお願いします」



 各自、自分の部屋に戻って休むように言ってから光夫さんを連れてお客さん用の部屋へ。ここにローズやカルアちゃん達以外を泊めるのは初めてだ。



「まさか美花さん、貴女のお父様が曲木会長とは思いませんでしたよ! 初めてお苗字まで名前を聞いた時、珍しい苗字なので気がつくべきでした」

「私もすっかりうちとコラボしてたの忘れちゃって。世間って狭いですね」



 お客さん用の部屋に着いたので、中の案内を光夫さんにしてあげた。案内が終わったら俺たちは早々に退出する。また迷惑かけてしまったことを彼はとても謝りたそうにしていたけれど、俺たちも休憩しなきゃいけないのでそれはまた今度にしてもらった。そもそもこの人だって自宅を氷漬けにされた上で無理やりこの世界に連れてこられて洗脳されてこき使われたんだ、謝るより休んだ方がいいよね。

 というわけで、やっと俺とミカは二人きりになった。何ヶ月ぶりだろう、いや、正確には半日程度だけど、なんか長い間ずっとオアズケにされてきたような気がする。

 俺は、我慢できなくて自分たちの部屋に戻るなり美花に抱きついた。まだお風呂はいってないのにいつものように柔らかくていい匂いがする。



「今日は色々あったね」

「色々ありすぎて頭が混乱してるよ」

「ああ、有夢をやっと独り占めにできるのね。どれだけこうしていたかったか」

「えへへ、俺もー」

「……かわいいっ。我慢できない……!」

「え、あ、そこまでは……ちょっ……!」

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