閑話 病む日
最近、本編より閑話の内容を練る方が大変なんです。何故かはわかりませんが。そんな中、やっと思いついた話なので書きます。
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「むにゃむにゃ……おはよ……ん!?」
朝起きて伸びをしようとしたら、腕がなにかに突っかかった。ベッドの脇と俺の右腕が手錠で繋げられている。ミカは隣で寝てないし、起きたんだろう。となるとこれをやったのはミカということになる。よく考えてみれば足も動かない。どうやら右脚も繋げられているみたい。昨日は至って普通のプレイだったはずなんだけど、本当はこういうのがしたかったのかな?
「あ、あゆむぅ、起きたんだね」
「うん、起きたよ」
ミカがやってきた。朝ごはんを作ってくれていたみたいだ。手に包丁を持ってる。しかしミカの目が昔に戻ってるよ。口癖のように『私は有夢のもの、有夢は私のもの』なんて言ってた頃に。イチャイチャイチャイチャ、イチャイチャイチャイチャイチャイチャしてるうちにだんだん普通に戻っていったはずなんだけど。
「有夢、もう少しでご飯できるからね」
「片手ふさがってるんだけど、もしかしてアーンしてくれるの?」
「もちろん!」
「えへへー」
「ところで有夢、私の髪の毛と爪と血、どれが食べたい?」
「そんなのご飯の中に入れたらモサモサしたり硬かったり鉄の味したりして食べられないよ。ミカのご飯食べられないの嫌だよ。それに、どうせミカを食べるならミカ自身を食べたいな。毎晩してるように」
「そ、そうだよね! ごめん、変なこと聞いて」
「いいの、そういう日もあるよね」
ご飯に異物混入したらいけないって、カフェチェーン会長の娘なんだからよく分かってるはずなんだけど。それにしても今日はあれだね、だいたい趣旨はわかったよ。ヤンデレごっこだね。なかなかヤンデレの役が上手だよね。これに便乗して今日はミカに甘えて過ごすとしよう。
「有夢、ご飯だよ、食べて」
「あーん!」
「あーん……」
「もぐもぐ」
「どう?」
「いつも通り美味しいよ。でも朝ごはんなのに凝ってるメニューだね?」
「ふふ、有夢のために用意したの」
「そっかー、俺は幸せ者だなぁ」
「えへへ……」
「えへへー」
自分の分を食べながら俺に食べさせるのは結構大変そうだったけど、ミカはすごくニコニコしてやってたからこれで良いんだろう。片付けが終わるとミカが俺の隣にやってきた。顔全体に陰りが見える。役に入ってるねぇ。
「有夢、私から離れないでね」
「そっちこそ」
「ずっと私と一緒にいてね」
「もうすでに絶対離れられないように物理的にしたじゃない」
「有夢は私のもの、私は有夢のものだよ」
「その通りだね」
「私のこと好き?」
「次元を超えて好きだよ。そうでなかったらアナズムで再会しないって」
「えへへへ」
なんか迫力がこもった質問だったのに、答えてくうちにミカの顔がほころんでいった。拘束されて身動き取れないのだけが難点であって、あとは普通に楽しいよ、これ。
「それなら、私だけを見てね?」
「特に何もない日はほぼずっとミカのことしか見てないと思うけど」
「私、有夢のためならなんでもするから」
「俺だってミカのためならなんだってするよ」
「そ、そう? なら……もっと近づいていい?」
もじもじしながらミカはそう言った。おかしいな、演技だったとしてもなんでこんな初々しいんだろう。いつも近づいてるとかそんなレベルじゃないのに。……まさか、演技じゃなくて本当におかしくなっちゃったのかな。心配になってきたぞ。
「いいよ! いいけどさ」
「いいけど、なに?」
「なんかミカ、いつもと違くない? 最初は遊んでるのかなって思ってたけど……」
「遊んでなんかないよ、本気だよ?」
「だよね?」
「そんなことより、今から近づくから私を抱きしめてよ」
「手錠されてるから無理だよ」
「あっ」
……知能が低くなってる! 普段のミカはもっと賢いんだけどな。とは言ったものの、このおかしなミカはミカ本人であることもたしか。えっと……そうだよ、なんかショーやカナタから聞いた俺が死んだあとすぐのミカみたいなんだ。なんかの拍子に戻っちゃったんだね。これは……愛のパワーで元に戻さなくては。
「俺から抱きしめるの無理だから、ミカが俺を抱きしめてよ」
「うん」
「むふー」
「……有夢」
「よしミカ! 次はキスだ!」
「う、うん! する!」
まんまとミカは俺にキスをしてきた。それもなんだか初々しかった。……初々しいミカ、とっても可愛いね! なんだか癖になっちゃいそう。まあ元に戻ってくれる方が嬉しいんだけどね。
俺は口を合わせてきたミカを念術で動けなくした。
「あう、ひゃ、ひゃんで……?」
「なんか今日のミカおかしいからさ、元に戻ってもらおうと思って」
「………」
「こういうのって大体、キスすれば治るんだよ、うん」
「だったら……」
「元のミカだったら今から俺がすること、耐えきれるはずだよ?」
「え、ひょ、ひょっと……」
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「鼻下から顎にかけてがすごい疲労感を感じる」
「あ、喋り方に知性が戻った。元に戻ったんだねミカ!」
「まさか三時間離さずベロチューとは……ごちそうさま」
「うん、いつものミカらしい回答だ」
本当に元に戻るとは思わなかったけど結果オーライだね。なんであんなヤンデレ風に戻っていたか聞かないと。理由がわからないよ。別にゲームの時間を今までより増やしたりしてないし、別の女の人にうつつを抜かしたわけでもないのに。特に後者なんて天地がひっくり返ってアナズムと地球がくっついてもありえないのに。
「なんであんな、おかしい感じになってたの?」
「たまになるのよ、大体そういう日って有夢より早く起きちゃうの。いつもなら有夢のほっぺたを吸うなりして落ち着かせてるだけど、今回はうまくいかなくって」
「あれ定期的に出てくるんだ」
「うん、実は。迷惑かけてごめんね?」
「いいよ、なんか新鮮だったし」
ミカはどんなミカでも可愛いからね、全然許しちゃう。ミカはホッとしたような表情を浮かべてから口周りの唾液を拭った。その途中で何かに気がついたかのように手を止める。
「……あれ?」
「どしたの?」
「……私、さっきあったこと全部記憶に残ってるんだけど」
「うん」
「えっと、病んでる私への回答、あれ全部本心?」
「もちろん」
ミカはちょっと黙ってしまった。何かを考え込んでいるように見える。ん? 俺、なにか変なことでも言ったかしらん。
「あの……昔の私もアレだけも、有夢ってだいぶ……」
「だいぶ?」
「い、いや、やっぱりなんでもない。私のこと本当に好きで居てくれるんだなって」
「もちろんだよ、なんのために永遠に離れられないようにしたのさ」
「……! 有夢も大概だね」
「なにが?」
「ひみつ。それよりさ、有夢、まさかキスだけで終わりとかじゃないよね? この先もするでしょ?」
話を逸らすかのようにそう提案してきた。うーん、俺に何かあったのか気になるけど、まあいいか。提案に乗っかろう。ちょうどそんな気分だったんだ。
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本当に危ないのは一体どっちなんでしょうねぇ……。
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