第1031話 精神とゲーム

「う……」

「よしよし」



 俺の心はひどくダメージを受けている、そう言っていいだろう。ミカにこうしてハグとナデナデをしてもらっていなかったら、今頃、アナズム中の偉い人達の目の前で泣きじゃくっていたんじゃないかな。

 カルアちゃん、あとリロさんとミュリさんも俺のことをミカと一緒に慰めてくれている。それ以外の人たちもみんな俺のことを心配そうに覗き込んでいた。



「アリムちゃんは本来の年齢もまだ十七歳だ。我々がどれだけ凄惨な状態だったかわからないが、それが相当こたえたとみえる」



 ラーマ国王の言う通りだ。

 アナザレベルの部下達が去ってから俺は頑張って毒ガスを全部抜き、ゾンビ達を一人残らず元に戻し、あの奥の部屋などで殺されていた国王様やラーマ国王、トールさんなど多数の人を助けた。かなりぐちゃぐちゃな死体もあったんだけど、アムリタは血痕さえ残っていれば生き返らせられるので、最終的に欠員は一人も出ず全員復活させることができたんだ。

 ただめちゃくちゃグロかった。たった一人で挑んで追い込まれた後にあの凄惨たる光景は俺にはきつかった。思えば直接大量の人間がぐちゃぐちゃにされてるのを見るなんて初めてなんだ。うん、魔物は動物を狩っている感覚に近いから大丈夫だし、サマイエイルの時はほとんどみんな外傷を負って死んだわけじゃなかったから良かったんだ。



「助けてもらった手前、こんなこと言うのはなんだけどよ……アリム・ナリウェイってステータスとスキル以外は戦士として全てが未熟なんじゃ……」

「別の世界じゃ一般人として暮らしておったんじゃ、仕方ないじゃろ」



 反論する余地はない。精神面ではとかく未熟だと思うし、なんなら今も鍛える必要はないと思ってる。別に歴戦の戦士とか英雄になりたいわけじゃないからね。全部やったほうがいい状況だからやっただけでさ。まだショーやカナタの方がその面では大人だと思うな。ミカが耳元で囁いてくる。



「有夢が考えてること、私はわかるよ」

「ミカ……」

「良くも悪くもゲームだって考えてるよね。サマイエイル倒す時だって直前までボス戦程度の感覚だったでしょ?」

「現実だからもうちょっと重く捉えてたけど、でもそんな感じだよ」

「私はそのままでいいと思うな。変に怖気付いたり気張ったりしたら、実力出せなさそうだし」

「んまぁね」



 そっか、そう考えると俺が今までアナズムに関することで心の底から本気を出して、辛い精神状態も乗り越えたのはミカやカナタが何かされた時だったっけ。



「それでどうする? アリムが落ち着いたら奴らからの手紙を読むか」

「今すぐ読んでしまっても構わないのでは? 彼女には後で知らせれば良いだろう」

「……そうだな、とりあえず休ませよう。それが最優先だろう」



 俺は医務室へ運ばれた。ここへ運ばれるなんていつ以来だろう。これで二回目だ。カルアちゃんにミカと俺が付き合ってるってバレた記憶がある。今回もミカがそばで俺をみててくれるみたいだ。まあ他にもたくさん看病したがってる人が付いてきてるからイチャイチャはできないだろうけど。



「有夢、とりあえず眠ったら?」

「……夢に出てきそうだからヤ」

「いっそ記憶を消せるアイテムでも作ったらどう? アイテムマスターの力ならそのくらいできるでしょ?」

「あー、そうしよっかな」



 精神面が鍛えられないから甘えるなとか、お城にこれだけ各国の人が大勢集まってたら何人かは言ってきそうだけどこっそりやれば問題ないかな。



「アリムちゃん、どうかご無理なさらないで」

「うん、でも今は精神的にきついってだけで身体の方はピンピンしてるからなんとも言えないなぁ」

「精神をおかしくしちゃう方が大変だと思いますよ。やはりここで休むのではなく、今日は帰宅なさった方が……」



 そうだよね、帰って秘密裏に記憶消して、ミカとイチャイチャした方がいいと思うんだ。というより本来はそれしか選択肢がないはずなんだけど……どうにもあの手紙が全部を止めさせる。気になって気になって仕方がない。どうせロクな内容じゃないんだろうけど、また戦争が起こる可能性が高いっていうのはこわいもの。

 何が怖くて、何を恐れてて……だめだ、よくわかんなくなってきた。こう考えるとゲームの主人公って本当にすごいね。何回そう考えてきたんだろ。



「ん、誰かこっち走ってくるね?」

「誰だろう」



 数人がドタドタと走る音が聞こえ始めたと言い出した。たしかに耳をすませば俺にも聞こえる。この医務室の近くのようだ。というか向かってきている。

 


「ちょっと私が様子見てくるよ」



 そう言ってこの場にいた一人であるリロさんが医務室の外へ様子を見に行った。それからしばらくしてリロさんは慌てた様子の兵士さんを連れてきた。たしか国王様達の部屋に残った人のはずだ。俺の顔を見るなり近寄ってきた。



「あ、アリム殿、今すぐ玉座の間へ!」

「え、でもまだ十数分しかアリムちゃんは休んでいないのですよ!?」

「し、しかし敵からの手紙の内容が……」



 結局先に読んじゃったのか。多分国王様以外の国の人たちが積極的に話を進めようとしたんだろう。やられっぱなしで帰りたくないって人も多いだろうし、情報は早く欲しい……みたいな。確実に俺に関することが書かれてるのはわかってたんだけどな。やっぱりそうだったんだね。

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