閑話 武人談義の部屋 (リクエスト)

 目を開けると、謎の軽快なBGMが鳴り響いている謎の部屋にいることに気がついた。俺は今、長めのソファの左端に座っているみたいだ。これは一体なんなんだろう。多分夢なのだろうが……。



「皆さんはじめまして、今週から始まりました『リルの武人相談部屋』司会のリル・フエンです」



 声がした方を向いてみると、リルが普段着ないような全体的に布が長めの服を着てなんかの司会をしていた。『リルの武人相談部屋』とか言ってやがったな。これはあれか、テレビ番組という設定か。わけわからないのになんか乗ってやろうって気分になる。



「私好みの筋骨隆々な男の人や、武術を極めた人を二人呼んで話し合ってもらうという番組だよ。初回だからね、もちろんゲストはショー・ヒノだよ。私と言えばこの人だよね」

「え、あ、ああ。よ、よろしくお願いします……?」

「ショー、この番組は全アナズム中に放送されるからね、頑張ろうね!」

「お、おう……?」



 アナズムでテレビ放送だと? どういう経緯でリルが番組を持つことになったかわからねーし、そもそもなんでアナズムにテレビ局があるのかは謎だが、まあここはリルの面子を守るために真面目にやってやるか。



「そして談義してもらうのはこの方。代……えっと、何代目だっけ?  あ、そういうのは計算してないんだね。およそ五百年くらい前に賢者、そして導者としてアナズムに君臨したチキューのジャパン出身のカタナの達人。ジャパニーズサムライのゲンテンマルさんだよ」

「やぁやぁ! どうもでござる、どうもでござる」

「はぁ!?」



 俺の腕を斬っちまった奴じゃねーか!? 何悠々と短めの階段降りて観客席に手を振ってるんだ? こいつはあの幻転地蔵の元になったっていう奴だが、今は普通に敵だったはずだろ、リルは……いや、この番組のスタッフはこんな奴をどうやって呼び出したんだ? つーかいいのかこれ。なんか色々問題あるんじゃないのか? 荒事が起こる可能性とか考えなかったのかよ。ま、まあリルの手前じゃそんなことしねーけど……。



「じゃあそのソファの右端に座ってね。くれぐれもそれ以上ショーに近づかないように」

「……承知したでござる」

「ショーは嫌かもしれないけど我慢してね。私も我慢するし収録終わったらたくさんイイコトしてあげるからね」

「お、おう」



 それってアナズム中に放送される番組で言っていい事なのだろうか。そしてあの侍は呑気にお茶を飲んでやがる。とりあえず流れに任せるしかねーか……。



「じゃあまずあの出来事から話そうか。幻転丸さんは突然現れては私の大事なショーの腕を斬り落としたわけだ。あの場面は図らずも長年の剣の達人対若い武術の達人って感じになったわけだけどさ、長年剣術を極めた人間としてショーはどうだったかな?」

「それはもう立派でござる。未だ齢二十にも満たない少年だとはとても思えぬ立ち振る舞い。あれはほぼ不意打ちに近かったでござるが、見事、日野殿は己の武人的勘で、被害を腕だけにとどめたのでござるな」

「……つまり、本当の狙いは腕じゃなかったと?」

「そうでござるよ。頭から真っ二つにするつもりだったでござる」

「マジかよ」



 そう考えるとたしかにあれは俺の武術の経験が助けてくれたのかもしれねーな。下手したら俺以外のあの屋敷のメンバーじゃこの侍の言っている通り、真っ二つになっていただろう。



「そんなことしたら私が許さないけどね。でもショーが敵わない相手って私もまず勝てないから……。まあその話は置いておいて。ショーはどうだった?」

「どうだったも何も、突然襲われたから何か考える暇もなかったぜ」

「そうだよね。では幻転丸さん、貴方はステータスだけでなく本人の強さも戦闘において影響すると知っていたみたいだけど、そのことに気がついたのはいつだい?」

「導者として任命される二から三年前くらいでござろうか。初めはアリム殿のようにレベル上げばかりを考えていたのでござるが、ある暇な日、暇つぶしに、武士として武人として、久々に刀の鍛錬を行ってみたのでござる。そしたら次の日、ステータスは変わってないしスキルを新しく覚えたわけでもないにも関わらず、頭打ちだと思っていた拙者の強さが少し変わっていたのでござるな。それからでござる」

「なるほど!」



 この侍の理論でいけば、叶君とケンカしたエグドラシル神樹国のクルーセルってヒョウの毛皮を被った騎士の人の言っていたことは間違いじゃなかったわけだな。ただ、この話が通用するのはステータスがある程度頭打ちになった段階に至ったものだけに通じる話しで。叶君から聞いたあのケンカはどっちが正しいとかなかったんけだ。



「火野殿もそうなのでござろう? アリム殿よりステータスをカンストさせてから、元の本人の強さも影響すると気がつき、筋力増強と柔道の鍛錬を毎日何時間も繰り返してるんでござろうな! 若いのに誠、関心でござるよ。武人として!」

「あ、いや、俺の場合は筋トレも柔道も日課であり趣味なんスよ」

「つまり続けたいから続けてただけだと?」

「そ、そーっスね。アナズムという意味では今以上に強くなるつもりはなかったです」



 地球での試合を想定して鍛えてるからな。まさかアナズムにも意味があるものだとは思わなかった。レベルを上げて強いスキルを使えばいいだけだと考えてたからな。



「そうでござるかぁ! うむ、このような武人がいるなら日の国も安心でござるな」

「あ、そろそろお時間だよ」

「え、もうなのか? まだ五分くらいしか話してねーじゃねーか」

「いいんだよ、そういう番組だし」



 なんかよくわからんな。テレビ放送を始めたばっかりのアナズムじゃひとまず短い番組の方がウケるってことだろうか。



「今日はお二人ともありがと! 次回はエグドラシル神樹国の獣騎士団長クルーセルさんと、みんな知ってる最強の冒険者、武神ギルマーズさんをお呼びするよ! ではまた来週! ……ほら、二人ともカメラに向かって手を振って!」

「ま、また来週ー」

「で、ござるよー」


 

 なんだかなぁ……。



______

____

_



「そりゃ夢だよな」



 ったく、この屋敷にいると変な夢ばかり見るな。なんであんな夢を見たんだ。あの侍を敵対せずに呼べるとか非現実的すぎるだろ。他にもツッコミどころはあるがまあ……この際置いておいてよ。美花の言っていた有夢が蟻って設定で大量に出現する夢よりはマシか。あいつは嬉しそうだったが。



「わふー、ショーおはよ!」

「おう、おはよう」

「早速だけど今日はどんな訓練するんだい?」

「……ああ、そうだな……」



 さっきの夢がふと頭をよぎる。日々の鍛錬が戦いに役立つなら、もっと濃い内容にするべきかもしれねーな。



「有夢に前に作ってもらった柔道世界チャンピョン達のデータが入ったロボット相手に連続、休憩なしで組合してみようかな」

「わーふ、じゃあ私はショーがバテないように管理してればいいね?」

「おう、頼んだぜ」

「わふわふ、任せてよ」



 日々の練習が俺を強くする。……なんてな。




#####


あと4つでござるな!


・アリム×翔 【済】

・アリム×父親

・アリム×リル【済】

・アナズム女子メンバーによる女子会(アリム有)

・有夢×翔 (出会った当初) 【済】

・翔×リル(新婚生活)

・侍(幻転丸)×翔 (武人談義)【済】

・有夢家父×カルア 【済】

・ウルト×シヴァ

・ローズ×ラハンドやガバイナ 【済】

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