第952話 悲観と大胆 (叶・桜)

「………」

「………」



 カナタとサクラの部屋で、二人は強く抱き合っていた。正確にはサクラがカナタのことを離さないように強く抱き締めている。サクラの目は真っ赤に腫れ、カナタはそんなサクラをなだめるように撫でていた。

 そんな中でカナタはふと時計を見た。サクラに拘束されてからすでに3時間が経過しており、夕飯を食べたり入浴をしなければ眠るのが遅くなってしまうような時間帯になっていた。



「ね、サクラ。夕飯どうしようか」

「今日はいらない」

「そっか。じゃあお風呂は……」

「お風呂行くなら私も一緒に入る」



 サクラはどうやら本気で言っているようだった。カナタはサクラの考えていることを察し、軽く抱きしめ返す。



「俺のことが心配なのはわかるけど、ずっとこうしてるわけには行かないでしょ?」

「……嫌なの。もうカナタが死ぬの嫌なの。目を離したら死んじゃうかもしれない」

「大丈夫だって」

「大丈夫じゃなかったじゃない!」

「……ごめん」



 1時間半前に泣き止んだのにもかかわらず、再びサクラの眼は再び憂いを帯びてきている。カナタは自身が悪いことはわかっているので、どう声をかけたらいいかよくわからなかった。

 そしてそんな密着しあった状態のままさらに1時間が経ったころ、サクラが一人でに口を開いた。



「……お姉ちゃんってさ、あの時、あの日、あゆにぃに対してこんな気持ちだったんだね。ううん、あの頃はアムリタが使えるわけじゃなくて列記とした死、だったからもっと酷いのかな」

「うん……」

「正直、不純なことは全然してこなかったお姉ちゃんが、アナズムに来てからあゆにぃと何回も何回も身体を交えてる、その一番の理由がわかった気がする」

「うん?」



 サクラはカナタの顔をチラリと覗いた。そしてより強く抱きしめる。胸元に顔を埋め、全てをカナタに預けているようであった。

 


「……あゆにぃと叶は、私たちに対しての責任感がとっても強いよね」

「うん」

「じゃあ叶に責任を負わせるようなことをすれば、私から離れられなくなるし、私から離れて死んじゃうようなことは二度と起きないよね?」

「それはどうだろ……」

「ねっ?」



 カナタは声の切羽詰まった感じや震え方から、サクラは相当まいっているとわかった。そしてこのまま抱きつきあったままでいれば、今サクラが考えていることを実行されてしまうことも。



「不意打ちを受けて内臓を潰されちゃうようなことだって起きないし、心臓を取り出されることだってないよ! だから、私と……」

「それはダメだよ、2年後って約束したじゃないか」

「私にとって死なれる方が嫌なの。もう二度と死なないなんて保証できるの? 私だけじゃなくて、結局みんなを守りたいからってあゆ兄と一緒に飛び出していった結果がこれじゃない。だったら、私からもう離れられないようにした方がいいんだよ。私と一緒に戦場に出るか、私と一緒にここで待機するか、そうしなきゃダメなの」

「でも俺はサクラに戦いの場には出て欲しくないんだ」

「私だって……一緒だよ!」



 サクラはカナタを力一杯、ステータスまで使って押し倒した。カナタはここまでするのかと驚き、そして己の弱点を痛感してしまうほどに動きが止まった。



「私が力任せで叶を押し倒すなんて考えてなかったでしょ。叶のなかでは私は非力だもんね」

「あっ……えっと……」

「本当に昔から不意の出来事に弱いんだから。よくそんなので私を守るだなんて言えるよね。だったら今度は私から自分を守ってみてよ」

「えっ、な、なにを……これは念術!?」



 サクラは念術でカナタの身体の自由を奪った。そしてカナタの股上にまたがり自身の服に手をかける。そして躊躇うことなく脱ぎ去った。カナタの思考はさらに停止する。サクラはカナタが止まることをわかった上で見せつけるように次々と着ていたものを取り去っていった。そして。



「もうここまで来たらどうなるかわかるよね?」

「……いや……その……」

「目を閉じないで、逸らすのもダメ。私だって頑張ってるんだからちゃんと全部見てよ。愛してる叶だけの特別なんだから。でもやっぱり……念術で止めるなり、力ずくで私を振り払って止めるなりすればいいのに、驚いたまま私になにもできなかったね」

「………ぐっ」

「一旦驚かせちゃえば、そのあとずーっと驚かせ続けることで叶はなにもできなくなる。まあ、今は疲れてて眠いのもあるのかもしれないけどね。今の叶なら、やろうと思えば私でも……」



 そう言って思いつめたような表情でサクラはカナタの首に手をかけた。しかし本気ではないのか力は込められていない。



「叶はもう一度あのスライムみたいなのと戦おうと思ってるみたいだけど、記憶を読まれてさ、弱点なんて全部バレちゃってるんだもん。どうせまた殺される。夫が危ないことしそうなら止めるのも妻の役割でしょ?」

「こ、今度こそ気をつけるから! その、とりあえず服を着て、目のやり場に……」

「がっつり見ればいいよ。4年後には結婚してるんだから。でも結婚する前にまた死ぬくらいなら、本当にこのまま……責任を負わせて私から離れなくするよ」

「冷静になってよ桜!」



 カナタがやっとの力を振り絞ってそう叫ぶと、サクラは微笑しながら裸のまま、カナタの上へ倒れるように身体を押し付けた。カナタは再び固まった。



「そうだよ、今の私は多分、あゆにぃとお姉ちゃんが立て続けに死んじゃった時くらい慌ててるよ。冷静さなんて微塵もない。本当なら顔から火が出るくらい恥ずかしいのに、脱いだってなにも感じないもの。私のキャラにあってないっていうのも自覚してるつもり。でもね、それよりも、叶をどうにかしなきゃって思う気持ちの方が強いの……! ねぇ!」

「だ……ダメだよ、こんなの」

「それなら聞くけれど、叶、私が心臓や胃を抜かれて血を吐いて死んじゃって……モニター越しにそれを見てることしかできなかったなんてことになっなら、頭おかしくならない?」

「…………」



####


思ったより長くなりそうだし、どう考えても閑話の内容じゃないでござるな。本編でよかったでござるよ。というわけで前回閑話って言っちゃったでござるが、本編にしたでござる。次回もこれの続きでござる。


ちなみに、ゲーム……特にドラクエとかでは「雄叫び」や「誘うお踊り」など1回休み系の技は多数あると思うでござるが、カナタ君がもしゲームのキャラならばこういうのの耐性はほぼないでござる。

特に、もし相手が先制攻撃を仕掛けてきた上で一回休み系の技を使ってこようものなら、カナタ君だけ特別に2ターン休むことになる……それほどの弱さでござるよ。

そのかわり休み耐性以外はステータスやスキルなど、何から何まで完璧のパーフェクトスペックなキャラなのでござる。

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