第918話 ピピーの村再び 2
「てな感じです!」
ざっくりと世間から見たアリム・ナリウェイを語った。もちろん成上有夢に関しては一切匂わしていない。今までみんなに説明してきた通り、ミカとの出会いも幼馴染だったことは覚えてるが、それ以外はお互い覚えていない、ということにしたし。
「そうじゃったか……。この短期間で壮絶な体験をしたんじゃな、まだ若いというのに」
「もう永遠に後世に語り継がれるような英雄だけど、それでも記憶の元は見つからないのね」
いっそのことカナタやショーみたいに普通に呼び出されれば良かったのかもしれない。俺とミカは特殊で、髪の色や年齢もアナズムに合わせられちゃったから。……うん、それも今となっては大きな一つの謎なんだけれど。
「でも大丈夫なんです、こうしてなんとか巡り会えましたし。ねーっ」
「ねーっ」
俺とミカは互いに両手を握り頬を擦り合わせる。これは仲がいいことを示すためにたまーにお客さん相手にやること。本当は仲がいいことを示すんだったらその場でディープキスをしたいけど、流石にそれは引かれるからね。
血縁者とその現場を見たことがあるカルアちゃん、ローズの前でぐらいしかできないよ。
「そう、それなら良かった」
「しかし忙しすぎて飯を食べてないなどはないか? 成長盛りの時期なんじゃし……」
「それも問題はないです。ステータスが高いから実は仕事も早く終わったりします」
「私たち、スキルも活用してますし」
「そうか、ステータスとスキルなんて日常生活でちょっと使う程度でワシらには関係ないが、二人くらいになれば便利というか、必須なのかもしれんな」
村長の言う通り必須ではある。今のステータスがないと思うと絶対に仕事が追いつかない。いや、一日一杯やればいいんだけど、ミカとイチャつく時間がなくなる。
「そうじゃ、アリム、君を発見した時にワシと一緒にいたセインフォースの4人はどうしてるかわかるかね? 今、ふと気になってな。同じ冒険者なら耳に入っておらんか?」
「え、ああ、それならあの人たちは…………えっと」
「どうしたの?」
やばいやばい、正直に言ってしまうところだった。きっとあの4人が王国の重役の血縁者達だと知れば大騒ぎになる。でも俺のことはともかくアナズムでの事実を捻じ曲げることは難しい。
「まさか、何かあったの?」
「いえ……あの……」
「言うつもりなの? 私は別に止めはしないけど……」
「そう? んー……あの、絶対秘密にできます? 完全にここだけの話ということで」
そういうとガーベラさんと村長はお互い顔を見合わせた。二人は俺とミカに顔を近づけてくる。なるほど、内緒にするから話してほしいということだな。
「絶対秘密にしてくださいよ? そうでないと大変なことになりますからね」
「誓おう。話してくれい」
「実はあの人たち、この国の国王様とその側近達の実の息子、娘さんなんですよ」
案の定、二人は驚愕した。何か驚きの声を上げたいんだろうけど声が言葉になっていない。気持ちはかなりわかる。俺も最初は目が飛び出るかと思ったもんね。
「ということは、あのうちの誰かがこの国の王子様だったってことかい?」
「ええ、ルインさんがそうですね」
「何も何も、こんな辺鄙な村の依頼を受けなくても良かったじゃあない……ねぇ、あなた」
「そうじゃよ。ひゃー、あの時期はこの村にとんでもない人たちが密集してたんじゃな……」
たしかに俺もとんでもない人物だと数えたらそうなる。村長はしばらく口をあんぐり開けたままの表情をキープしていたけれど、やがて思い出したように外を振り向いた。
「どうしたんです?」
「いやな、そういえば9ヶ月くらい前、国から魔物用の対策を強化しろと手紙と補助金が突然来てな……ありがたく柵をより良いものにさせてもらったんじゃが……」
「なるほど、あの子達……じゃなくてあの方々が王子様だったというのなら納得ね」
へー、ルインさんそんなことしてたんだ。いつのまに。頼んでくれれば俺が直々にSランクくらいの魔物なら倒せるセキュリティシステムを作ってあげたんだけどな。んー、やっぱりそこまでする必要はないか。今で十分っぽいし。
「運命というのはあるんじゃな……」
「そうねぇ……」
「その通りですよ! ボクがあの時助けてもらってなかったら、今こうしてアナズム中を飛び回って活動なんてできなかったですし」
「そもそも魔神に対処できず滅ぼされたじゃろうて……」
た、たしかに村長目線で考えたら、あの時俺を助けなかったら魔神に村ごと消されていたかもしれないわけだ。国もめちゃくちゃになったしさ。死んじゃった人たちもそのままで……なんかそれってヒヤヒヤするね。
「何かこう、冷や汗出てきたわい……」
「どちらにせよ最初から助けるつもりだったけど、助けて良かった……なんて思っちゃうわ」
「えへへ、そうですね、助かりましたよ」
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