第886話 豪雷注意
教室が騒がしい。いや、騒がしいっていうよりパニックになってるって言った方がいいかも。もはや何人も悲鳴をあげており、それはこのクラスだけじゃなくて他のクラスからも聞こえてくる。
さすがの先生もそれらを鎮めようとはせずポカンとしているようだ。
落雷はまさに連続的で、おおよそ10秒間絶え間なくずっと降り続けていた。数えるのも無理だった。
しかも雷が落ちるはずだった場所はどうやらずっと同じ範囲内、それも学校付近や敷地内だったのではないかと稲妻を見る限りでは思えた。避雷針を用意しておいたからなんとかなったけど。
……落ちそうな雷が何かに接触する瞬間スレスレで避雷針のある場所へと吸収される形で飛んで行くのは違和感だらけだったし、それに関しては改良が必要かもしれないけれど、なんにせよ効果自体はちゃんと作用してくれていたようで良かった。
もう少しで春だけどまだ一応冬だから、外で体育をしている生徒が誰もいなかったのも救いだね。
しかし俺の避雷針を除いたとしても、自然のものなんかとは思えない、誰かが意図的に雷を使って攻撃をしている感じの豪雷だったよ。まったく。
ちなみに雷が鳴り止むと同時に雨もどこかいってしまった。鳴り止まないのは悲鳴だけ。
「有夢、これって……」
「確実に昨日のだよね。夜のうちに用意しておいて良かったよ、避雷針がなかったら今回は死人が出たかもしれない」
「ふつう有り得るあんなの? 誰か魔法使ったのかと思ったわよ」
「使ったでしょ、お地蔵様が」
たったあれだけの魔法陣を上空に飛ばすだけで、時間差であそこまでの雷を起こせるんだ、ふつうにアナズムの人間としてみてもかなり強い。
「わ、わふん……今のって異変の一環かな?」
「多分そうだと思うよ」
みんながパニックになってるどさくさに紛れて、ちょっと席が離れているリルちゃんと翔がこちらに来た。普通は授業中に立ち歩いちゃ行けないけどね、緊急事態だから仕方ないね。
「雷がへんな挙動でどっか向かってくからなんもしなかったが……あれは有夢がやったのか?」
「うん、雷を集める避雷針のアイテムを作ったんだよ」
「それがなかったら確実に学校に直撃してたな……」
「だよね」
そういえば悲鳴が聞こえなくなった。
パニックは流石に収まってきたんだね。みんな、先生が何も言わないのをいいことに今の雷についてワイワイガヤガヤと話し合っている。
そんな中呆然としていた先生は携帯を取り出し、誰かと何かを数言だけ話すと、すぐに電源を切って教卓の上に立ち直した。
「お前ら、気持ちはよくわかるが静かにしてくれ」
その一言でピタリと騒がしいのは止まった。
「ちょっと職員室呼ばれたから行ってくる。各自自習しておくように」
先生はそれだけ言うと忙しそうに教室を出て行った。またすぐに騒がしくなる。
「ん、あゆちゃんとみかちゃん……と魔王とフエン殿、妙に落ち着き払ってるでござるな」
「そりゃ目の前で隕石落ちてきたんだ、あんな雷くらいどうってことないだろうよ」
イケザンと山上君がそう言ってくる。一瞬なにか知ってるんじゃないかとか言われるかと思ってヒヤリとしたけど、よく考えたら雷って自然現象だしそんなこと言われることはまずないか。
「あー、早引きになんねーかな」
「いやむしろ、あの規模の雷が降った直後に帰らせるなんてことはないんじゃないでござるか?」
「だよなぁ……」
おおよそ20分後、先生が戻ってきた。
先生の言うには、雨が晴れたとはいえ流石に外に出るのは危険なので、このまま一日分の授業が続くとのことだった。不満を抱く人も多かったけど、その方が確実に安全。
ただらこの授業に関しては授業時間が短すぎたためか、キリが良かったのかはわからないけど先生はそれ以降授業をしようとはシナしなかった。
特にそのあとは何事もなく授業時間が過ぎていき、帰りの時間となった。授業が早引きにならなかった人達も、いざ帰るために外に出るとなるとビビっていた。
そして俺と美花は、もちろん空き地の避雷針の元へと向かう。俺と俺が許可した人にしか見えないようになっている透明な避雷針はちゃんとそこにあった。
「これが頑張ってくれたのよね」
「うん。あ、貯めた電気は電力に変換して使えるようにしてあるよ」
「ふふ、なにそれ」
あれだけの雷だったからね、かなりの電力が作れてるはずだよ。お家の電気システムをちょっとだけ改造してこの電気を使えるように帰ったらするつもり。
「で、どうするの? もう雷終わったけどこれは取り外すの?」
「一応ね、雷の挙動がおかしかったから改良するためにも」
「へー」
そのあと俺と美花はお地蔵様を見に行った。今日はなにも変化がなく、元どおりのままだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます