第874話 旅行 3 (翔)

「わほー……」

「なんだそれ、初めて聞いたぞ」



 1時間きっかり休んだらのち、俺らは外に出て観光をすることにした。外に出て木々を見渡すなりリルはおそらく感嘆してるんだろうが、今まで聞いたことない鳴き声をだす。



「わふぇ、ほんとだ。今度から使おうかな、感激した時に」

「いいんじゃないか?」



 たしかに感激したくなるような木だ。どれもこれもが神木と言いたくなるような立派な佇まいをしている。

 同じメフィラド王国なのに、首都的な城下町からここまで違うのってすごいよな。



「さて……何しようか」

「こういう場所に来たらとりあえず名産品を食べてみるとかいいんじゃねーかな?」

「いいねぇ……地肉とかないかな?」

「地酒みたいに言うなよ」



 とりあえず歩いて行くと、割と近場にこんな森の中なのに採れた、ヤシの実みたいな実にたっぷりと果汁が入ってるらしい木の実を売っている。

 二つ買って飲んでみることにした。



「見た目はヤシの実とマンゴーの合いの子だよな」

「マンゴーカラーのヤシの実だね。味は……」

「あれだな、20%果汁のりんごジュースみたいな味するな」

「だね」



 こういうのを地球に持ってかえったらどうなるんだろう。もちろん、地球にとっては外来種となるわけだからそんなことしちゃ絶対いけねーけども。



「しかし……エルフかエルフのハーフ、遠くてもクォーターくらいはあるであろう人ばっかりだね! 綺麗だねー、みんな」



 エルフのハーフやクォーターは結構存在自体が珍しそうな人もおり、例えば猫耳が生えているのに人間としての耳がエルフと同じようにとんがってるとか(もちろん美人)。

 エルフってもしかしたら遺伝子が強いのかもしれない。



「そういえばミカちゃんとあゆちゃんとサクラちゃんはエルフの血なんて混じってないはずなのにあそこまで可愛いんだろうね? 正直な話、エルフと同等かそれ以上だよ、やっぱり」

「さあ……神が与えたものかなんかじゃねーかな。あれらは。俺からしたらリルも十分あのレベルだが」

「またまたー。跳ね上がりそうになるくらい嬉しいけど」



 お世辞なんか言っていない。何人かのエルフと比べてみても見劣りしない、むしろ勝っている。贔屓目も抜きだ。

 リルは自分の肉親が両親以外わからないらしいからな、特に母方の祖父祖母以降にエルフの血が混じってるんじゃないかという推測があったら、俺は十分納得できる。



「わふ。私を褒めてくれるのはいいけど、もっといろんなところを回ろうよ」

「そうだな」



 リルの願いが当たったのか、それとも実は知ってたのか、この村特有の肉(よく出現する魔物の肉)が販売されていたりした。他の場所では滅多にみられない魔物だが、この村では頻繁に現れるるしい。

 リルはニコニコしながら串焼きを頬張っている。ドヤ顔しながら。



「言った通りだったろう?」

「おう、そうだな。……にしても5本も食べて夕飯入るのか?」

「よゆーさ、お肉は別腹。サクラちゃんのスイーツの原理と同じなんだよ」

「お、おう」



 また歩いて行くと、森を案内して見て回る催し物を出している店を見つけた。いわゆる森林浴ツアーだな。

 この森の中を練り歩いて行くだけらしいが……。



「あれ、あれ明日頼もうよ!」

「おー、そうするか」

「森の中を歩くというのはいいからね」



 さすがはずっと森の中にある村に居ただけのことはある。こんなに森ガールだとは知らなかったが。

 やはり宿で言っていた通り、幼少期の友達が木や草だったからか……。



「わふぇ、どうしたの?」

「いや、つい抱きしめたくなって」



 まわりの目があるが、カップルの旅行客と最初から思われてるだろうし気にしない。



「そっか! いくらでもギュッとしてくれればいいよ」



 このまま行くとリルはまた変なことせがんでくるので、ほとほどで抱きしめるのはやめた。

 それはそうと、十二分に村を見て回っただろう。

 そろそろ宿が夕飯を用意してくれる時間だということもあり、寝る前に飲むためにさっきの果物を買ってから、泊まっている部屋に戻った。



「随分と楽しんでるな」

「たのしーよー!」

「ここまで森好きなら、次の地球でのデートは山でも行くか?」

「行こう行こう! 木がたっぷりとある山がいいよ」



 自分の彼女の趣味がもっとよくわかっただけでも今回の旅行は収穫があったな。デート先に困ったら今度からは山か森に行けばいい。



「あっ」

「ん? リル、どうした」

「村を見て回る前は気がつかなかったけど……これ」



 リルが指差したのは、ベッドの淵に影になって隠れていた箱。どこかで見たことある箱。そう……馬車の中で見た箱。そういやここはカップル用の部屋だった。



「こ、今夜も……ね?」



 また計ってか、計らずかはわからないがめっちゃ可愛い上目遣いでそんなことを言ってくる。

 いやいやいや、馬車で移動して、その最中にして、んで着いたら村を歩き回って……いくら俺でも疲れが……。

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