第872話 旅行 (翔)
翌朝、俺たちは早くから馬車乗り場までやって来ていた。なんと出発時刻は8時から11時までの3時間の間いつでもいいという仕様。さすが個人で貸し切るタイプの馬車だ。
外見はどっからどう見ても王様とか成功している大貴族とかが乗るようなもの。果たして俺が乗っても大丈夫なものなのか。叶君なら白馬にも乗ってそうだしわかるんだがな。
「わふー……こんなのに私のっていいの?」
「当たり前だろ。俺と一緒に乗るのはお前以外に誰がいるんだ」
「…………わふっ!」
馬車に近づくなり御手らしい人が俺たちに近づいてきた。長年、馬車の係として城に仕えていたような人だ。
「ヒノ様とフエン様ですね?」
「はい、そうです」
「お待ちしておりました。……いえ、時刻より少し早いようですね。もう出発致しますか?」
「お願いします」
俺とリルは馬車に乗り込んだ。そこはまさに圧巻の世界。城の中よりも下手したら輝いてるぜこりゃ。
豪華絢爛という言葉がよーく似合う。一つでも壊したらうん十万と罰金……みたいなことになりそうだ。地球ならな。
「車内の説明は机上の冊子に書いております。お読みくださいませ」
「わかりました」
御手は外に出て、俺とリルは部屋の中に残される。
リルが興奮しすぎてキョロキョロしまくってんな。俺はとりあえず冊子を読んだが、どうやら部屋が2つにこの今要るリビング、トイレ、風呂……その他諸々のサービスが付いてくるようだ。
寝室はなく、このリビングからカーテンをまたいでダブルベッドが置いてある。
「わふーん! ベッド大きいねぇ!」
「俺たちが普段寝てるのより一回り大きいか? 有夢が用意したやつはちょうどいいようにできてるからな」
「つまりこれは大きすぎるんだね。……ん?」
リルが何かを見つけたようだ。ベッドの横に置いてある箱だな。なんかやけに怪しい気を放っている。
こう……開けたらこの豪華空間から別世界に飛ばされてしまいそうな予感がする。
「とっても怪しいけど……開けて見ていいものかな?」
「まあ、置いてあるってことはいいと思うが……なんか変な予感がするぜ?」
「わふ……でも開けないとなにも変わりないからさ」
リルは箱をそっと開けた。リルのそばに行き、俺も一緒にその中身を覗き込む。中は……。
「わふ、これさ……アナズムの避妊用の……」
「俺らがいつも使ってるやつだな」
「スケスケの服……」
「お、おう」
「これは……クンクン……た、多分これソッチのお薬だよ。あ、アナズムの大人用のおもちゃもあるね」
「つまりそういうことだな」
予感は当たってたじゃねーか。叶君はこんなのがあるなんて一言も言ってなかった気がするが……多分、一応まだあの子は中学生だし、卑猥なこれらは忘れることにしたんだろ。叶君と桜ちゃんの今の関係を見ると、美花と約束した通り年相応の行いでとどめてるから使った心配もないわな。
大方、先に叶君がベッドにこれが備え付けられているのを見つけて桜ちゃんに見つからないように隠したりしたんだろ。
さて……もしこれら1セットがあった場合。
有夢と美花ならどうするだろうか。まず間違いなく、時間は考慮するにしても、始めるに違いないだろう。
じゃあリルと俺は?
「ど、どうしようか?」
「どうしようかっ……て」
「わふーん」
リルがスケスケの服を掲げながら俺のことを上目遣いで見ている。リルはたまにあざといが、これは自然にやっているんだろうなと直感でわかった。
俺の返答次第ではしない、ということもあるだろうが、そちらを選ぶと恐らくめちゃくちゃしょげるだろう。
「それ着るのか?」
「うん」
「薬使うのか?」
「使って良ければ……」
「なんにせよ……とりあえず14時間後な」
「わふーん!」
嬉しそうな表情を浮かべて取り出したものを箱の中にしまいこんで行く。そういやリルはいつからこんなエッチな思想に……いや、出会った頃からだったな。俺のせいかと思うこともたまにあるけど、何回考えても俺が原因じゃねーわ。元からだわこれは。
「どうしたの? そんな険しい顔して」
「いや……なんでもねーぜ。んなことよりどうするよ、この移動時間」
「どうやら備え付けのお菓子とかはほぼ無限に追加してくれるみたいだし、ゲームでもしようじゃないか! あゆちゃんが作った自動再生する部屋ならまだしも、こんな高級そうな場所で筋トレするわけにもいかないし」
「そうだなー」
馬車移動はもしかしたら前に乗った馬車の方が良かったかも知れん。部屋の外が勝手に移り変わる程度にしか風景も楽しめないし。
「わふぇふぇ……本当のお楽しみは夜だからね……」
「お、おう」
「それはさておき、この狩猟ゲームをやろうじゃないか」
今日は夜まで変に動いて体力使わない方が良さそうだな……うん。
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