第867話 血塗れの決着 (叶・桜)
<あれほどの鼻血……! あの雌豚、上位の美しさの称号を持っていたか! しかし……何か様子が……>
ダーキニーを襲っていた剣は動きを鈍らせる。それは桜が鼻血を出した叶に失神寸前になるほど驚いたためであるが、これを好機と考え剣を構え直し、剣を振り払って3人の元にかけて行く。
<どんな愛を見せたかはわからんが、隙がありすぎる! 死ねぇぇぇぇい! 愛を受けし者共よ、爆散しろぉぉぉぉおおぉ!>
あと数歩で斬り伏せられる、そこまでの距離まで近づいたところでダーキニーの足が止まった。
<なっ!?>
「うるさいよ、今俺はそれどころじゃないんだ」
叶の仕業だった。桜の叫びで一瞬で正気を取り戻した叶はまず胸から手を離し、念術で桜の服を正してやり、そのままダーキニーの足を止めた。
「やってくれたね。……じゃあね」
<何を……グボッ……は、は……?>
ダーキニーの胸元から何かが落ちてきた。されは赤く、鼓動を続けている。いや、その鼓動はあと数秒で止まろうとしているのだった。
激しい痛みとともに遠のいて行く意識。そして、血だらけの胸元。ダーキニーは自分が何をされたのか察した。
<ま、まさか復活してすぐ……! どうやって…わ、妾の……心の臓……ッ……グハッ>
探知からSSSランクの反応は消える。ダーキニーが倒されたことにより、ラーマ国王の体も動くようになっていた。
「ぷ……はぁはぁ……! 倒したのだよな!?」
「はい、えーっと一応桜のおかげで」
「色々と聞きたいことはあるが……とりあえずその出血……大丈夫か」
「わかりません、クラクラします」
叶はその場にへたり込んだ。自分の頭の処理が追いつかない。そして、未だ魂が抜けたようにボーゼンとしている桜を見る。次に、自分の手のひらをみる。
最後に桜のすでに直された特に露出のない胸を見る。
「ごふっ!」
「か、叶!? またか!」
「あぅ……かにゃた……?」
「あ、桜……気がついたんだね、ブフッ」
再び鼻血を出した叶だったが、なんとか今度は意識を保つ。桜はきょとんとした顔で鼻血まみれの叶をしばらく見つめると、やがて涙を目に浮かべて泣き出した。
「ごめんなさいっ! かにゃた、ごめんなさいっ! 私、調べて……一番いい方法を見つけたつもりだったのに、あの魔物のかなしばりをカ解除したかっただけなの!」
「う、うん」
「それがまさか、こんなに出血させる呪いが付いてたなんて……!」
「はて、本にそんな呪いに関する記述、あっただろうか」
首をかしげるラーマ国王。
そのつぶやきは誰も聞いていない。桜はさらにオロオロしている。
「ゆ、輸血しなきゃ……私O型だから、かにゃたに……」
「いや……ポーション飲ませてくれればそれでいいと思うよ。あと桜と俺に付いちゃってる血も落としておかないとね」
「そ、そうね!」
桜から手渡されたアムリタを飲みながら、叶は自分の外に出た血液だけをどこかに飛ばした。
みるみると叶の顔色が良くなっていき、桜もホッとする。
「良かったぁ……」
「ところで、あの、その……」
「帰ってから、帰ってからゆっくり理由は話すわよ……」
「ああ、たしかに帰ってからが一番いいね…….うっ」
「かにゃた!?」
「………大丈夫」
鼻血が再び出そうになったが、叶はなんとか堪えることに成功した。自分の腕を自分でつねったからである。少しでも思い出そうとすると蛇口から出てくる水のように叶の鼻から血が流れ出るだろう。
「……なあ2人とも」
「はい」
「な、なんでしょう!」
「あの間に2人になにがあったかは見えなかったが、とりあえず目的は達成することができた。余は心の底から感謝
している」
「いえ、とんでもない!」
「大したことはしてません!」
大した活躍をせず、血を吹き出したり、野外で胸を露出させる痴女行為をしていただけだと考えている2人は必死で否定した。しかしラーマ国王は笑いながら2人に礼を言い続ける。
「謙遜などする必要はないのだ。まずはサクラ、自動で戦闘してくれる剣については知っていたが、その剣が一本でSSSランクと対等に渡り合える……本人の実力は相当なものなのだろう」
「そ、そ、そんなことは……!」
「正直、叶を助けなくとも一人で倒せてしまうのではないかと思うほどだったが、相当信頼しているようだな?」
「あっ………」
ラーマ国王は礼のつもりでそういったのだが、桜にとってはこれ以上ない恥ずかしい言葉であった。今更、自分が単身であの魔物を倒せばよかったと気がついたのだ。
「次に叶、その移動するスキルはすごいな。攻撃にも使え、しかも直に心臓を抉れるなど……」
「あんな簡単に効くなら最初からやればよかったです。見える範囲の物体ならどうにでもできるので。確実な方法を取ろうとして失敗するなんて……あの、ほんとに桜ごめん」
「い、いいの……うん」
非常に申し訳なさそうな顔をお互いに浮かべている二人に対し、終わってみれば(自分から見て)簡単に且つ安全に、全く被害がなく、伝説に残されるほどのSSSランクの魔物を倒せてしまったことにラーマ国王は上機嫌であった。
実力を見せることができなかったことだけが残念だったが、それも敵との相性だと割り切ることにしたようだ。
「やはりメフィラド王国は人材に恵まれてるな……」
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