第805話 焼肉食べ放題 2 (翔)

「あっつい」

「焼肉プレートの前だからな」

「二人とものことだよ……」

「わふーん」



 やっぱリルのこういう、甘えてくるところも好きなんだな俺。

 しかし、明確に好きだと言える場所ははっきりさせておかないとな今後。だが、いくら自分の彼女だからとはいえ身体に関して言うわけにもいかないし。



「わふ、お肉きた!」

「ん……おお、そうか」



 俺がリルの好きなところを言って抱きついてきてから、初めて離れた。塩タン四人前……ゴリセン達の分も合わせたら十人前がテーブルに乗る。

 


「俺らは大食いだからいいんスけど、フエン先輩はいきなりそんなに食べて大丈夫なんスか?」

「そこは心配ないんだよ、星野くん。私の一番の大好物はお肉! だからたくさん食べられるのさ」

「へぇ……」



 ステーキも大量に食ってたしな。今日はここでリルの食べられる限界を知ろうとも思ってるぜ。

 早速リルは自分より一番手前にあるスペースで肉を焼き始めた。俺も焼き始める。



「うー、匂いだけでお腹なっちゃいそう……」

「まだ食うなよ……焼けてない部分が多すぎる」

「わふぅ……そろそろかな?」

「いや、まだだろ」

「そろそろだよね?」

「まだだ……」

「こんな大勢の前でお腹なったら、流石の私も恥ずかしいよ。わーふー」

「もういいんじゃないか」

「わふん!」



 リルは、塩タンに飛びつくように箸を伸ばし、すぐさまタレをつけて口に放り込んだ。



「んーふぅ……!」

「うまいか」

「んふんふ!」



 嬉しそうな顔をしながら尻尾をパタパタさせる……って、今は尻尾は無いんだったな。



「可愛いっスね」

「だろ」

「なんというか、小動物っぽいな」

「ああ」



 小動物どころか狼なんだが。それはともかく非常に可愛いという気持ちはわかるぜ。

 リルは俺たちが言ってることが耳にも入っていないようで、次々と口の中に塩タンを一枚ずつ放り込んでは幸せそうな顔をしている。



「……部長、なんでそんなに嬉しそうな顔をしてるんスか?」

「あ、いや……ちょっとな」

「あんな、いいか星野。ダイエットしてるばっかりが女性じゃない。こうやって、美味しそうに食事をしているところが魅力的な人も多く、それにグッとくるってのもまた男なのよ。火野はそっちなわけだ」

「なるほど」



 まあ、ゴリセンの今言ったことは半分近く正解だが……本当にリルがものをうまそうに食ってる時が、俺にとって一番安心できるんだぜ。

 ……逆にリルが体調不良とかであまり食べなくなったら俺は過剰に心配するんじゃねーかな? うん、そんな気がする。



「よし、次々注文しよう!」

「次は何にするんだ?」

「カルビ!」



 タンを食べ終わったリルは、そこからペースを上げてどんどんと肉を頼み続けた。

 二人っきりならこれで食べさせあいとか挟むんだろうが、今日は周りの目もあるし、無いんじゃねーかな。



「あ、うまく焼けた! はい、ショー……あーん」

「ま、まじでここでやるのか? あー……」

「うわ、爆発すればいいのに」

「同感だ」



 なんだよ、あったじゃねーかよ。ふふふ。

 それにしても、リルは宣言通りに本気食いしてるな。それぞれメジャーな部位を最低でも二人前は頼んで一気に消費しちまってる。

 タンを食べ終わった頃に届いたライスも、もうなくなってるしな。



「フエン先輩って、こんなに食べる人だったんスね……」

「これであの体型を維持してるってわけだ」

「いや、普段食う量は普通なんだが、好きなものだとこうなるんだよ」



 本当に今みたいに、好きものの時は俺より食うからな。



「そういや、聞いたことあるっスよ。うちの学校のマドンナ、曲木先輩も食べても太らない体質だって」

「そこんとこどうなんだ? 幼馴染」

「あ? ああ、有夢も含めてみんな太んねーよ」

「へー、そうなんだ」

「美人って太んないようにできてるんスかね?」

「いや、特殊なのが集まっただけだろ、きっと」



 そう、有夢も美花も叶君も桜ちゃんもリルも、みんな太らねぇ。ちなみに俺は食った分は全て筋肉に行く。

 


「わふー、美味しい! 美味しい!」

「そうか。……もうだいぶ食ってるが、まだ食べるのか?」

「わふ、当たり前じゃないか! すいませーん!」



 この焼肉食べ放題の制限時間は2時間。ちなみにまだ50分も残っている。俺ももうだいぶ食ったんだがな、あ、まだ胃に入りはするぜ。



「……なあ火野、フエンさん、あんなにバクバク肉食ってるが……服大丈夫なのか?」

「え、何がですか?」

「ほら、臭いとか。よく見たらだいぶいい服に見えるんだが」



 ゴリセンがそう質問してくると、剛田と星野もたしかに、と言ってきた。

 しゃーないからごまかして説明するぜ。



「なんか、間違って同じやつ2着買っちゃったみたいで、もったいないから一方を雑につかって、一方を綺麗に使うように決めたらしいですよ」

「へぇ」



 やはりリルは会話に構うことなく焼肉を食い続ける。

 ……今回は流石に、リル、太っちゃうんじゃねーか?


 

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