第788話 挨拶……! (翔)

「……わふ、じゃあまず私がどんな人生を歩んできたか言うべきだよね?」

「わふん、教えてよ」

「あ、その前に紹介しなきゃいけない人がいるんだ……ショー!」

「お、おう!」



 ついに呼ばれた。さっきまで蚊帳の外だったが、ついに俺が会話の輪の中に入るんだ。……それと同時に、挨拶するという事になるな。

 俺は、いつのまにか立ち上がった話をしていたリルの隣に立った。



「わぁ、すごく強そうでかっこいいヒトじゃない!」

「むっ……で、リル、その人は?」

「わ、私の彼氏だよっ」



 リルが俺の腕に抱きついてきた。ギョッとした顔でお義父さんは俺の方を見る。



「さっきまでそこに立っていた彼が…リルの彼氏?」

「わーふん、そうだよ!」

「娘さんとお付き合いさせてもらっています、ショー・ヒノと申します…!」



 俺は深々と頭を下げる。

 お義父さんの視線が痛い。



「人族……か。僕はね、狼族が相手なら許そうと思っていますがね、それ以外の種族となると一味違いますよ」

「ごめんね、彼ったらリルが生まれてからずっとリルに彼氏ができたらこう言うんだって言ってたから」

「い、いえ、構いません。当然のことですし」

「わふ……。良い子の人のようですね! でも! 狼族の相手として強くなきゃダメだ! せめて僕を超えられるくらいの強さをもってなきゃね! ……手合わせをしましょうか」



 お義父さんは構える。

 ええ……俺、周りからこの人が弱かったって何回か聞いてるんだが。リルとお義母さんが止めに入った。



「やめなよ、弱いのに」

「強いか弱いかじゃない。面倒を12年も見てなかったとしても、父親として……」

「パパ、本当にやめたほうがいいよ?」

「そ……そんなこと言ったって」

「ショー、冒険者カードを出してあげて」



 俺は仕方なく冒険者カードをお義父さんに見せた。

 リルの両親はそれを目を丸くして覗き込む。二人は一瞬で強く尻餅をついた。



「え、え、え、SSS……!!?」

「えっへん!」

「リルってば……どこでそんな性格も強さもいい人つけたのっ」

「わーふん、偶然が重なった結果だよ! あとで詳しく話すさ」

「……もう忠誠の証は渡しているの?」

「とっくの昔に渡してるよ」

「じゃあ私からいうことはなにもないよ。……貴方はどう?」

「み、認めざるを得ない……よね。娘を、どうか……私たちの分まで幸せにして下さい」

「……はい」



 ずっとしたかった、リルの両親への挨拶が済んだ。これで両方の親の公認カップルだ。

 今までと何ら変わらないが、もう少しだけ堂々とできるのかも知れない。……事の頻度を上げるという提案も飲んでしまおうか。



「結婚するつもりでいるの?」

「わふん!」

「け、けけけ、けっこ……」

「ま、私たちはリルの今の年齢で、リルを産んでいるわけだから……何か理由がない限り、早めに結婚して早めに子供作ってもいいかもよ」

「僕たちがやってきた事だから反対できないのは辛い……」



 そんなことは心配しなくていいんだがな。結婚するって約束し直したのは今より5年後だしな。

 お義父さんが頭を抑えてなにか悩んでるなか、お義母さんはリルに近づいて耳打ちをしてきた。

 聞こえてしまった。



「(……わふん、もうエッチはしたの?)」

「(……うん!)」

「(やるぅ!)」



 という内容だった。恥ずかしい。

 お義父さんが立ち直ると同時にお義母さんは耳打ちをやめる。



「そうだ、それでこの女の子……僕たちを蘇らせてくれたこの子だけど、友達?」

「はい! ボクとリルちゃんは友達ですね!」

「わふふ!」



 リルが嬉しそうに笑った。

 どうやら有夢に関しては二人は完全に感心しきっているようだ。人を生き返らせたりするような奴だもんな。



「じゃあそろそろ、リルの半生をきこうかな。それでショー君とどうであったかもわかるんでしょ?」

「どんな生活を送ってきたの?」



 二人は興味津々だ。リルは少し顔を曇らせた後、こう言った。俺に尋ねるようにしながら。



「……その、正直に話したほうがいいよね?」

「まあ……実の親だしな」

「まさか、本当の親が死んで悲しかった……だけの生活じゃなかったのかい?」

「うん。……全部聞いてくれる?」



 二人は俺とリルと有夢の表情から何かを察したようだ。有夢から、メッセージで話している最中に部外者は一旦部屋を出るから、用事があったら呼んでくれと頼まれた。

 俺はそれを承諾する。



「そんなにひどい12年間だったの?」

「ショーと出会う前までだから11年かな…。わふ、今思えばかなりひどかったよ」

「わかった、余さず全部きこう。僕達は聞かなきゃいけないんだ」

「……そうだね。リル、話して」



 リルはポツリポツリと話し始めた。

 5歳からの記憶を1年ずつ、なにをされたか、どう暮らしてきたか、どんな心境だったかを。 もうさすがに喋り慣れちまっているようだ。

 そして毎度のことだが、俺と出会った後の話は本当に嬉しそうに話してくれた。


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る