第778話 羞恥の後で (叶・桜)

「綺麗だったよ」



 カナタは顔を真っ赤にしながらそう答えた。

 その答えにサクラは満足しているのか、それとも恥ずかしがっているのかわからない表情を浮かべつつ、ベッドにうつ伏せになるのをやめて腰をかけ直した。



「そ、そうなんだ」

「うん。異性の見たなんて初めてだから、このくらいしか思い浮かばなくて」

「ほ、他にあったりしない?」

「それなら……うん、普段抱きつかれていてわかってはいたけど……あんなに毎日甘いものばかり食べてるのに痩せてるな……と」



 それを聞いたサクラは頬を膨らませつつ、何故だか嬉しそうな顔をした。



「バーーカ」

「うわ、久しぶりに聞いた」

「ふふふ……はーあ、ついに見られちゃった」

「ごめん」

「だからいいよ、謝らなくて。わざとじゃないんでしょ? なんか叶の反応見てたら気が楽になった…っていうか叶しかあの場にいなくて良かったって心底思ってる」

「そ、そうなんだ」



 サクラはなぜかニコニコしながら手招きをしている。カナタは彼女が隣に座れとジェスチャーしているのを読み解き、示された通りにする。

 サクラはカナタが自分の隣に座った途端、ぎゅっと、いつもより強めに抱きついた。



「ごめん、今抱きつかれるのはちょっと……」

「そういえば始めの方は抱きつくだけでも恥ずかしがってたよね。うん、あれが確かにかにゃたの弱点だった。最近は何も感じないの?」

「違うよ、慣れてきただけだよ……」

「じゃあ、なんで今はダメなのかな?」



 そう言いながらサクラは抱きつく力を強めた。カナタの身体に柔らかい感覚がよりはっきりと起こる。



「な、なんかテンションおかしくない? カラ元気ってやつ?」

「そうかも。でもなんか吹っ切れたのも本当。それより質問に答えてよね」

「さっきのこと思い出すからダメなんだよ! カラ元気とはいえ、付き合ってるからこうなるだなんて……なんかミカ姉みたいなこと言っちゃってさ」



 カナタがそういうと、サクラはキョトンとした後に何故か不敵に笑いだす。そして抱きつくだけでなく身体に顔を擦り付けてくるようにもなった。



「姉妹なんだから似てて当たり前じなゃない?」

「それはそうだね」

「そっか……私もやっぱりお姉ちゃんみたいな感性してるのかー」



 サクラはついにカナタに顔を埋めた。カナタは反射的にその頭を撫でる。



「えへへ……だから見ちゃったことに関してはそこまで謝らなくていい…よ。でも謝らなかったら許してないんだからね! ……あ、あとこんなこと言ってるけど恥ずかしいことには変わりないから……こういう偶然が重ならない限り、や、約束の時期が来るまでエッチなことはダメだからね?」

「わかったよ。俺もなんか慌てすぎてたかもしれない。少し話して落ち着いたよ」

「それなら良かった」



 サクラはカナタの身体に顔を埋めなおした。今度は意図的にサクラの頭を撫でるカナタ。

 しかし、そんな状況の最中、実はサクラは別のことを考えていた。



「(ほ、本当に私、お姉ちゃんみたいな許し方しちゃったよ……わーっ。そ、そして綺麗だって! えへへへへへへ。うん…実は今もまだすーっごくドキドキしてるけど、カナタだから許していいよね? ていうか私、普段からかにゃたを覗き見してるわけだから……批判なんてできないのよね…)」



 こうして、この一連の事件はサクラの中では幕を閉じた。カナタも冷静さを取り戻しはしたがいまだに悶々とはしていた。


 その夜、カナタは今日くらい別々に寝ようと提案したがサクラによってそれは却下され、いつも通り抱きつかれながら寝ることになった。

 まるで添い寝を始めたばかりの日のように、カナタは全く眠ることができなかった。



______

____

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「……どうかされましたか?」

「すいません、昨日彼女と色々あって寝不足で……」



 次の日、朝早くからオーナーと仕事の話をしていたカナタは大きなあくびをした。結局昨日はよく眠れなかったのだ。サクラが気になって。



「おや、おやおやおや」

「あ、考えてることと違うと思いますよ。俺ら、健全な付き合いなんで」

「……そうですか。昨日気分が悪そうでしたし、それを引きずっているんですかね? とにかくお身体は大事にしてくださいね。それで報酬などのことなんですが」

「ああ、いりませんよ」

「え?」



 カナタは、『報酬はいらない』『魔物の死体は譲る』『なんなら木の壁も直してしまう』『気になるなら宿泊費をタダにしてくれればいい』とオーナーに提案した。



「本当に言ってます?」

「じっさい、俺は彼女とデートしにきただけなので。それを貸しきりできた時点でそれでいいんです」

「死体を譲るというのと、木の壁を直してくれるというのは……」

「まあ気まぐれと……直さないと俺らが風呂に入れないからですね」

「混浴の方の壁は壊れてませんが?」

「健全なお付き合いしてるって言ったじゃないですか。実は俺らまだ14なので……」



 オーナーはSSSランカーなのにまだ冒険者になれる年齢じゃないことに驚き、まるで巷で噂のアリム・ナリウェイとミカ・マガリギみたいだと言おうとしたが、もし本人だったら困るのでそれに関しては口を噤んだ。

 実は半分正解みたいなものだということには気がつくはずもない。



「な、なるほど……では好きに直してもらって構いません。本当に報酬はいらない、というよりここの宿泊・貸切代金をタダにするってのでいいんですね?」

「はい」

「わかりました……ではごゆっくり」

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