第764話 罵倒 (翔)

「か、感謝……」

「そうよ、感謝よ。去年までご飯、食べさせてあげたでしょう?」

「そこら辺の野草とか、魔物のフンとか……土とか取ってくるの大変だったんだぞ。なんてな」

「私達が育児放棄してたらもうあなた、この世にいないわよ?」



 すげー勝手なこと言ってやがる。

 


「ねぇ……質問していいかな?」

「あら、糞が何か言ってるわ。どうぞ、知りたいことなら言いなさい」

「わふん。なんで私を引き取ったの?」



 そのリルの質問に、二人は顔を見合わせてから大爆笑をした。そしてそれが終わると鋭くリルを睨む。



「クソ、あんたのクソ親共を私たちは恨んでたからよ」

「そうそう、あの木偶の坊とクソビッチのせいで俺たちはあのままじゃ村長になれなかったし……なにより二人とも癪に触るんだもの」

「……わふ? 私の両親はただのキコリじゃなかったの?」

「ああ、あいつらに5歳までしか育ててもらってないから知らないのね。クソの父親の方は確かにきこりよ。ただ…そう、すっごくずる賢かったわ」

「たった一人で策を考えて、山の地形を使って奴隷として捉えにきた兵団を返り討ちにするようなやつだった。母親の方は村一番の美人だったよ」

「あのブサイクのどこがいいって言うのよ!」



 あー、つまり頭の良さは父親譲り、見た目は母親譲りなんだなリルは。父親の5歳までの教育もリルの精神がこの年齢までしっかりと保たれたことに起因するんだろう。なるほど納得。



「で、魔物が大量に、それも予測できないような時に現れて死んじゃったでしょ?」

「二人とも狼族のくせに弱かったからな」

「まあ、目の前で死んでくれた時はスカッとしたけどね!」

「ああ、あれはね!」

「た、助けてくれなかった……の?」

「助けるはずないじゃない、何言ってるのよ……」



 んだと……?



「ッ!? なにこの魔力!!」



 おっといけない。怒りで我を忘れて魔力をそのまま放出するところだった。

 落ち着け落ち着け…落ち着け。



「た、多分、ショーがどこかで魔力を放出したんだよ。SSSランクだからこっちまで伝わってきたのかも」

【わるい、リル】

【大丈夫】



 俺が先に怒っち待ったせいでリルの怒るタイミングを失くしちまったみたいだ。悪いことをした。



「ああ、そう。それで……ま、なにか私たちがする前に死んじゃった。でもね、イライラとかは残ってるわけ」

「だから君を引き取って……地獄を味わってもらおうと思ってね。俺たち、そうでもしないと気が狂いそうなほどイライラしてたから」

「そうね……去年までは良いストレス発散になったわ。地下室で鞭打ちして、ろうそくを押し付けて……無理やり爪をはがしたりね! あの女の娘がボロボロになっていく様を見るだけでも最高だった」

「わ……ふ」



 リルは俺の手を強く握る。つまり、本当にただ単に自分たちの憂さ晴らしのためだけにリルをいたぶっていたのか。最低極まりないな。



「あなたが出て行ってからは家事とか難しくて大変だったのよ?」

「異様に器用で一度教えたことは一発で覚えてしまったから、それも俺たちを非常に苛立たせた」

「あなたが、私たちの言う通り本当にバカだったら……こんなことにもならなかったのにね。あの木偶の坊の娘がなにも考えないわけないわ……ねぇ?」



 ん……? 

 なんだか二人の様子が変だ。……つーか、奥さんの方は確実に俺のことを見ている。



「そこにいるんでしょ? ショー……って人」

「出てきなさい」



 ま、まじか!?

 リルも驚いたように俺を見ている。透明にしてるし臭いも感じないはずなんだが……。

 仕方ない、出るか。



「…………」

「ほらいた。……あのね、いい? 何年私たち、リルを隠して生きたと思ってるの? 人間観察だけで言えばリル、あなたの父親より上よ。目線や手の動きでわかるわ」

「そして、まずこの村にSSSランクの彼を連れてきた時点でその彼に自分の人生を話していることは明らかだった」

「実際、リルの名前を聞いた時点で、もう諦めてたわ」



 ずっとリルをいじめ抜いたが故に人を観察する目が育つとか……。逆にえらい根性だな、こりゃ。



「というか、もし死んでなかったからこうなることは大体予想ついてたし」

「はぁ……ほんとに、あんたら一家は最後まで私たちをコケにするのね……」



 二人がそう言った時、この家のドアが勢いよく開いた。無論、それは手伝いにきてくれていた4人だ。



「つまり、もう覚悟はできてるんだな?」

「あら、村長いたの。ええ、その通りよ」

「このまましらを通し続けて、SSSランクの彼が暴れてしまうよりはいいと考えた結果だけどね。……ははは」



 ゾムとウルフェルの二人は夫婦を捉えた。

 その顔は怒りに満ちている。



「この狼族の面汚しめ」

「テメェらだけは絶対許さないからな」

「わふ、会話の内容も全て、きちんと記録させていただきました!」

「……この二人の措置は後で決める。とりあえずは牢に放り込んでおけ」

「まって」

「なんだ?」



 奥さんの方が連れて行かれる最中に立ち止まり、リルの方を振り向いた。そしてニヤニヤ笑いながらこう言った。



「……そのうち貴方の目の前で踏み潰そうと思って、あの二人の食べカスから手に入れた骨のカケラ、残してあるの。そのタンスの奥にね。とっておきなさい」

「二人を恨んでいることには変わりないけどね、一応義理の親からの結婚祝いってことにしなさい」



 二人はそう言い残し、ゾムとウルフェルの二人に連れていかれた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る