閑話 魔法少女サクラ☆ 第3話
「ついたチェリ。あ、言い忘れてたけど、オハナミー国では人間は普通の姿でいられないチェリ。魔力? みたいなのに耐えられないから魔法少女のような姿に……チェリ?」
「何も変わらないわよ?」
「ははは! 念のため、眼帯そうちゃーく!」
ランボーの心配はよそに、二人は寝間着のままだった。叶はテンションが上がっているようで、いつのまにか手にしていた眼帯を着けている。
「なんで大丈夫なんチェリか?」
「ここはアナズムと同じような魔力が流れてるみたいだよ桜」
「なるほど、だから姿が変わらなかったのね」
「それより着替えようよ一回。ラスボスに殴り込みに行くのに寝間着じゃしまらないよ」
「それもそうね」
二人の服装はランボーの目の前で一瞬で変わった。有夢からもらったダークマタークリエイトでうまい具合に寝間着を作り変えたのだ。
「……もうよくわかんねーや。……とりあえず案内するチェリよ。というかここから見えるチェリ? あの浮島チェリ」
今、叶が立っているのは、生えている木が桜しかないこと以外は普通の森である。空には禍々しい紫色をした浮島が、このお花見の最中のような素晴らしいムードをかき消して存在している。
「あそこに元凶がいるのだな? ランボーよ」
「そ、そうだチェリ。なんなんだチェリか、その喋り方は」
「ごめんね、気にしないで。俗に言う中二病ってやつなの」
「サクラはよく付き合いきれるでチェリね」
「叶ってものすごく耳がいいからこっそり言うけど……あのね、そこも含めて好きだから」
顔を赤らめ、自分の小さな耳に叶への愛を囁く桜の行動を、ランボーは内心イラついていた。
それはとりあえず置いておき、空中の島をもう一度見上げる。
「じゃあ……向かうでチェリけど、強力なバリアーが……」
「え、そんなのあるの? ごめん、ついちゃった」
3人は既に叶の瞬間移動により空島内部に来ていた。
「いいんでチェリ。瞬間移動だもんね、関係ないよね」
「じゃあ進もっか! ……学校あるし早く終わらせたい」
「そうか、今日平日だ。これ終わったらデートしようとか考えてたのに」
「じゃあ放課後ねっ。ケーキでも食べに行こ」
「……ケッ、隙ありゃノロケやがって。……ん、なんか揺れてないチェリか!?」
ランボーが地面の揺れを感じたと同時に、空島の地中から細長い触手が幾本も出現した。
それらはためらいもなく桜を集中して狙って来る。
「え、なになに、なんで全部こっち来るの!?」
「もう止めたよ、大丈夫」
しかし、全て3人より3メートルに近くまでに、叶の念術によって動きが止まった。
叶は続けざまにアイスマーチレスを唱え、全ての触手を氷漬けにする。
「す、すごい…! でもまだ地面が揺れてるチェリ!」
しばらくして地面は割れてしまった。触手のそばから、人間の頭部をベースにタコと虫が融合したような非常に気持ち悪い生き物が出てくる。
「んああああ、なんだこりゃ! 四天王の一人、インセクトパスヒューマノイド様の触手が凍らされタァ! せーっかく人間の娘が来たというのに!」
「……ねぇ、その触手で人間の娘に何しようとしてたの?」
「そりゃあお前、触手で女の子にやることと言ったら一つしか……ぶげぇ」
インセクトパスヒューマノイドと名乗った生き物は、修羅のような表情を浮かべた叶の手によって跡形もなく消されてしまった。闇魔法を使ったらしい。
「……ね、叶。こいつ私に何しようとしてたの?」
「知らなくていいよ。大丈夫、この調子で守ってあげるからね」
「……うん? まあ、ありがと?」
「怒らせちゃダメなタイプ……特に桜に何かしようとしちゃいけないんだな……覚えたチェリ」
3人はそのまま進んで行く。
この空島は建物はひとつしかない。それは巨大な禍々しい城。なんかやけに重装備をした門兵を叶が軽くあしらい、その城の中に侵入することに成功した。
そんな順調な3人の前に、下半身が蜘蛛、上半身が人、頭が猫という非常に奇妙な化け物が立ちはだかった。
「侵入者……まさか、魔法少女が二人現れ、さらに直接この城に攻めてくるとは。既にロースもヒューマノイドがやられたか。我が名は司令官ベル。くっ……あの二人で魔法少女の身も心もズタボロにするつもりだったのにしくじりおって」
「……へぇ、どうやって?」
「そりゃあもう、エロ同人みたいに。そして私の子を宿……ぎゃああああ!」
叶が放った無数の槍にベルと名乗った怪物は体を貫かれ、まるでウニのようになった。
「ちょっと……やりすぎじゃない?」
「あはは、ごめん。このくらいしないと気が済まないこと言ってたから」
「こえーよ…こえーよ……」
叶がキレてることに疑問を抱きながらも、叶の手を握り、桜は前に進んだ。
ランボーは桜の肩の上で震えている。
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