第739話 旅行 兼 帰郷 2 (翔)
「わふん」
「どうだった?」
「ジャパニーズアニメはやっぱりいいねっ!」
ある子供の姉妹が森の中で妖精か怪獣かよくわからないものに出会い、不思議な体験をするという内容のアニメ映画だった。
親世代がよく見てたとかいう代物で、何年も前のものなのにその人気は今でも高く、金曜日に放送されたりしている。
このアニメ会社のアニメは国内国外全てから高評価らしい。
「まあ、私、これ見るの10回目ぐらいだけど」
「あー、そうなのか。地球の方のリルが」
「うんうん」
そう言えば元々日本好きだったって設定だったな。そりゃ見てるに決まってるか。
「……次はどうしようか?」
「そろそろ街からだいぶ遠くに来てるだろ。景色でも見ようぜ」
身を寄せ合って景色を眺めた。
今は森の中のようで、道に張られている結界用のアイテムより外に、低ランクの魔物などが見える。
「……なんにも変わりばえしないね」
「そうか?」
ああ、そういやリルはずっと森の中に住んでたのか。そりゃこの程度の景色は飽き飽きして当然だわな。
もう一度映画を観る気にもならねーしなぁ。
ゲーム…も気分じゃない。
「寝るかぁ…」
「わふん、寝るの? わかった! シャワー浴びてくるね!」
嬉々とした顔でリルは食いつきてきた。
ちがう、そういう意味じゃない。
「単なる昼寝だぞ?」
「……あ、あああ、そ、そうだよね。まだ昼間だしね。うん」
リルはがっくりと肩を落とした。俺のことを横目で見つつ、涙目になっている。
「ショー……私っていわゆるビッチじゃないかい?」
「はっ……? だ、誰か他の男と寝てるのか!?」
ま、まさか。
嘘だろ、いつの間に…! 四六時中一緒に居るのにそんな暇あったのか!?
「え、ち、ちがうよ! 私の身体はショーだけのものだよ! そういう本来の意味じゃないんだけど……ほら、自分の言動や行動を振り返ってみると、私ってすぐ事に持ち込むような話を…」
びっくりした。心臓が止まるかと思った。
今更自分の日々言ってることを恥ずかしがっているだけか。別にリルを束縛する気は無いが、寝取られるのは死ぬほど嫌だからな。
「日本語…じゃないけど、まあ言葉は正しく使おうな。今まで通りでやっていけてるんだし、これでいいだろ」
「わふ、ごめんなさい」
「とにかく、俺は昼寝する。リルはどうする?」
「添い寝するよ」
________
_____
_
「もう夜か」
ちょっとばかし昼寝しすぎたようだ。スタッフが用意した夕飯が置き手紙と一緒に机の上に置いてある。
起きねーから、夕飯を持ってくるのと共に昼飯はさげてしまったらしい。
「おーい、リル、起きろ」
「わふぇ…朝かい? あ、お昼寝中だったね」
「もう夜だぞ。夕飯食って寝なきゃ」
「お昼寝したばかりなのにまた寝るのかい!? ……仕方ないかぁ」
着るものがはだけ、色っぽさが増しているリルと共に半分寝ぼけたまま夕飯をとった。さすがは超高級馬車。
飯のランクもそこそこ高い。
「ごちそうさま。シャワー浴びてねよ……でも、ねれない気がするなぁ」
「仕方ねーよな」
と、いうわけでさっさと風呂に入っちまった。俺が先に入った。特に意味はない。
……そして寝るんだぜ? なんという堕落した一日だろうな。
「わふん、じ、じゃあ寝ようか」
「……おい」
リルがバスローブを羽織ったままベッドに潜ってきた。言わずもがな、いろんなところを見ちまうが……昼に反省したばかりじゃなかったのか?
「リル、お前自分でなんて昼に言った?」
「わふぅ…。は、反省はしたけど、否定はされなかったから…いいかなって」
うーん、リルは半ば俺のことを思ってやってるしな。怒るのもなんだし。
いや、怒るってか、注意ばっかりすることもないか。
ミカあたりに告げ口されたら逆に俺が怒られそうだしな。
「だ、ダメだったかなぁ。わ、私ってやっぱりがっつきすぎてるよね?」
「否定はしないが」
やべ、つい言っちまった! 今反省したばかりなのに。
「ごめんなさい……もうやめるよ。結婚するまでやめる……!」
リルはしょんぼりとしてそう言った。完全に言葉を間違えたよな俺。
逆に困るんだが。
いや、もう、いっそそれくらいの意気込みでも良いんじゃないのか? 生殺しみたいな生活をお互いに数年間送るだけになるんだし。
……やっぱり無理だわ。
「別にそんな極端にしなくて良いと思うぜ」
「そう? じゃあ年に一回とか?」
「同じだろほとんど。仕方ねーから、ほら、こいよ」
「……し、仕方なしに抱かれたくない。ごめんなさい、わがままで」
おっと。
今までになかった展開と不穏な空気だ。やばい、旅行初日なのにこの空気はマズイって。
どうしたらいいんだろう。
これ、誰かに相談したら怒られるよな。リルも珍しくムッとしてるみたいだし。
俺が悪い……よな?
どうしようか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます