第717話 それぞれの説得 (美花・翔)

(side.美花)



 アナズムから戻ってきた。

 これからお母さんとお父さんをアナズムに誘わなくちゃいけない。今はまだお正月休みがあるけれど、普段は二人とも忙しいから、アナズムでゆっくり過ごしてもらいたいの。



「お姉ちゃーん」

「はいはい……ん?」



 私の部屋に桜が来た。なぜか口をもぐもぐさせてる。

 これは何かを食べてる証拠ね。

 ……なんて見たらわかるか。



「何食べてるの?」

「チューイングキャンディー」

「…自分で作ったんだ」

「うん。我慢できなくて」

「食べ過ぎて太ったり、病気になったりしたらダメよ? いちばん不快に思うのは誰かをよく考えて。虫歯で叶君とキスしたい?」

「……うっ…控える」



 そう言って本当に控えられたら良いんだけど。

 私と桜はリビングへと向かった。お父さんとお母さんはそこでのんびりテレビを見てるみたい。



「おはよ」

「おはよー」

「ああ、二人ともおはよう」

「朝ごはんこれから作るけど、パンがいい? ご飯がいい? それとも美花が作る?」

「私が作るよ」



 私は台所に立ち、ベーコンとスクランブルエッグ、簡単なスープにサラダを作って朝食とした。

 一度食べさせて見てからお母さん、結構頻繁に料理を作るようにねだってくるの。



「おお、美味しそうだ。いつでも有夢君のところに嫁いで行けるね…」

「当たり前じゃない!」



 と、言っても今は有夢の方がご飯美味しいんだけどね。

 アイテムマエストロは所詮劣化版。マスターには勝てないの。別に気にしてないけど。



「その…ところでお父さんとお母さんに提案があるの」

「ん、どうしたの桜」

「アナズム…向こうの世界に二人とも連れて行けるようになったんだけど、来る?」



 桜が食べてる最中にど直球でそう提案した。

 二人は顔を見合わせる。

 ちょっと私も付け加えを。



「あの…有夢のところも、翔のところも両親を誘ってアナズムに連れて行くようにしてるんだけど…」

「私達だけじゃないのね。…ね、どうする?」

「少なくとも娘達がどんな治安のところで暮らしてるかは見る必要があると思う。行こう」

「そうね」



 なんかバカンスのつもりで来て欲しかったんだけど……来てくれるならそれでいいや。



「じゃあ、行く日はまた教えるからね。あ、日にちは気にしなくていいよ。行ってる間はこっちの時間止まるし。会社の心配しなくていいからね」

「うん」



 お父さんはカフェの経営者。

 自営業と言ったらそうなのかな? 全国チェーンの大手カフェの一つの設立者ね。

 お母さんはお花屋さんの経営者。

 だから私たちが花を主にした名前なの。


 ともかく連れてくことには成功したわね。

 アナズムに行ったらどういう反応してくれるかな。



________

_____

__


 

(side.翔)



 母さんは二つ返事でオーケーするだろう。リルが本当は獣耳だと話したら興味示してたし。

 問題は親父だ。

 あの親父をどう誘えばいいんだか。



「わふ、ここは私に任せてよ」

「ん…? リルが誘うか」

「うん。元からアナズムの住民の私ならうまく誘えると思うよ」



 確かにそうだ。ここはリルに頼っちまうか。



「わかった。じゃあ頼んだ」

「わふ!」



 俺とリルはまず母さんを誘うことにした。

 親父は今、書斎でここ数日ぶんの新聞を一気に読んでいるからな。



「ママ、少しお話しあるんだけどいいかな?」

「いいよリルちゃん。なに?」

「実はアナズムと地球を誰でも行き来できるようになったんだけど、私の本当の故郷に来る?」

「本当? いいの?」

「あと、時間とかは問題ねーんだよ。向こうに行ってる間はこっちの時間は止まる」

「そうなんだ。じゃあなにも心配いらないね。行こうかな」



 ほら、母さんは簡単に説得できた。

 唐突に母さんはリルの頭を触り始める。



「うん、向こう行ったら獣耳触らして見てくれない?」

「もちろんいいよ!」



 次に俺たちは書斎へ移動した。

 ノックをして、良いと言われるのを待ってから入る。



「どうしたんだ、二人揃って」

「パパ、実は一つお話があるんだ」

「……まさか子供ができたとかか? いや、そんな深刻な話じゃなさそうだな。なんだ」



 もし俺とリルが淫行しまくって子供ができたならめっちゃ慌ててるって。そこらへんの管理はちゃんとしてるから大丈夫だが。


 だが万が一、そうなったらこえーぞ。

 親父の仕事…警視長という職業柄、とんでも無いことになるだろう。ちなみに来年あたりに警視監に昇進する見込みがあるらしい。その話がされたという日は、若干スキップしながら帰ってきた。

 ちなみに母さんはは女性用護身術教室の講師だ。

 たまに警察の方に行って若い婦警に教えたりもしてる。

 


「まさか子供だなんて…えへへ。でも違う要件なんだ。実は、アナズムに私達が許可すれば自由に誰でも行き来できるようになったんだけどね」

「ふむ。つまりそれで誘いにきたわけだな。いいだろう、時間ががあれば行こう。うちで預かっている娘の故郷を知るのは大切だ。だが…仕事が」



 俺は母さんに言った事と同じことを説明した。



「となればなにも問題はない。行く」

「よかった! ママも誘ってあるからみんなで行こうね!」

「ああ」

「あと……子供はあと六年くらい待っててよ」

「わかった」



 リルのおかげですんなり済んだぜ…。

 さすがだ。

 

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