第685話 超高級洋菓子食べ放題 (叶・桜)

「まあ、とにかく喜んでもらえたみたいで嬉しいよ」

「ケーキ…クッキー…結婚…! かにゃたと…えへへ」


 

 桜ががっしりと腕に抱きつき、二人は歩き出していた。

 


「でもアナズムでもっと高いもの沢山買ったよね?」

「買ったかどうかじゃないの、どれだけ私のことを考えてくれてるかが本当に嬉しくて仕方ないのっ」

「こう言うのもなんだけど、昔の桜からは考えられないね。撫でないでとかキツめなこと色々言ってたのに。今はこんなに…」

「……ご、ごめんね? 私のきつい口調はてっ…照れ隠しなのよっ…」

「うん、知ってる」

「むぅ…」



 付き合ってるんだからデレててもいいよね、と、言わんばかりに桜はギュっと腕に抱きついている。  

 いつも、毎日そんな感じでデレてはいるが、今日は一段と思いと熱がこもっている。



「でもこんな格好でお店に入っていいのかな? 場違いじゃない?」

「まあ場違いなら中学生二人だけでそんな店に入るってこと自体おかしいからね。何も気にする必要ないさ」

「そう…かなぁ」

「それに桜は可愛いから、場違いなんてことはないよ」

「あうぅ…」



 そんな熱愛を表した絡みのまま、いつのまにか電車に乗り、中央街につく。

 叶は腕に抱きついている桜を誘導しながら歩き、やがて一つの高級そうなビルにたどり着く。



「ここだよ…」

「すでにいい匂いが立ち込めてる…っ! お店でクリスマスケーキ買ってる人も多いね」



 そのためか周りにカップルが多く、二人の惚気具合もそこまで目立ってはいない。

 二人は店の中へと入った。

 


「……あれ? そう言えば、セレブ御用達のケーキ食べ放題、テレビでどんなものかまでは見たけど、入り方とかはトップシークレットって…」

「ああ、それなら簡単だよ」



 叶は一人の店員に近づいた。

 そしてチケットを取り出す。

 


「すいません、これ」

「これ…あ、あああ! はい、今店長を呼んできますね!」



 慌ててその若い店員は店長を呼んできた。

 店長はいかにも外国から来た、金髪碧眼のダンディな男性。



「……オゥ、チケットを入手したのデスネ」

「はい、使えますよね?」

「もちろんデス。…会場はあそこから階段で1階だけ上がり、そのフロアの突き当たりにあるエレベーターにのって、15階に行けば係りの者が誘導してくれまーす」

「ありがとうございます。いこ、桜!」

「う、うん!」

「ドーゾ、ごゆるりとー」



 二人は店長に言われた通りの道順で進み、エレベーターに乗り15階へと辿り着いた。

 エレベーターから出た瞬間、受付が見える。

 叶はその前に立った。



「ようこそいらっしゃいました。チケットを確認いたします」



 叶は再び懐からチケットを取り出し、手渡す。



「はい。僕とこの娘の分です」

「……はい、確かに。お名前は叶様と桜様ですね。ではご案内いたします」



 受付の者は『席を外しております、しばらくお待ちください』と書かれた看板を受け付け台の下から取り出し、置くと、二人を案内し始めた。

 


「当店は全席個室となっており、備え付けられているメニュー表からオーダーをする形式となっております。時間制限は本日午後10時までならばございません」

「わかりました」



 やがて3人は空室[3番]と書かれた一部屋の目の前で止まった。



「この3番の部屋を、叶様、桜様のお部屋とさせていただきます。では、ごゆるりと」



 二人が部屋に入ると扉が閉めれる。

 部屋の中に完全に二人っきり。



「すごい、高級感が溢れるお部屋…」

「実際高級だからね。ほら見て、ここから外が見える」

「わぁ…!」



 なかなか良い景色。

 幸いにもここは大きな公園が見え、夕方近くになるとイルミネーションがよく見えそうであった。

 少し遠くで街とテレビ局が協力して行なっているイベントの一風も見える。



「素敵…ありがとね」

「まだ何も食べてないでしょ、とりあえずなにか頼もうよ」

「うんっ」



 机に備え付けてあったメニュ表を開いた。

 ケーキ、タルト、シュークリーム、パフェ、クレープ、チョコレート、飴、ドリンク、お酒、カットフルーツなどなど、様々なものが書いてある。



「わぁ…いいのかな、こんなのに! 全部食べ放題なんでしょ?」

「好きなだけ食べな」



 叶はメニュー表を見ながらついつい、どれだけ食べたら元が取れるかの考えをしてしまう。

 チケットは1枚12万円。ペアチケットで22万円。


 この洋菓子屋のスイーツはケーキワンホール、安いもので2500円。最高級は6万円。

 しかしそれ以上に高いものがタルトなどにもあるようで、少し無理して食べれば普通に個々で買って食べるくらいの元は取れると判断した。



「なるべく高いもの頼みなよ。写真相手でも確か、鑑定スキルは使えたよね」

「……か、鑑定スキルを使いながら食べるの…? なんかせこいっ」

「ご、ごめん」

「ふふ、なんてね。食べ放題なら元を取りたいって気持ちはよくわかるわよ。……じゃあ、早速頼んじゃおうかな」

「ああ、どんどん頼みな」

 

 

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