第620話 柔道の県大会 -3
「はー、あいつほんとにやっちまいやがった」
一年生の星野君はたった一人で初戦の敵を先鋒から大将まで全滅させてしまった。
会場がひどくざわめいている。
「す、すご…」
「ああ、これで県大会であれをやり遂げた奴は二人目だ」
「え、ゴリセン、それ誰ですか?」
「翔だよ」
あ、そういえば翔もそんなことやってたっけ。アナズムでまだ弱い時に大会に出たからこういうのがどれだけ異常かよくわかるよ。
「星野…あいつはもともとムラっ気があってな」
「翔、ムラっ気ってなんだい? なんか響きがえっちだよ?」
「ち、ちげーよ…。簡単に言や、時と場合でやる気と実力が違うやつのことだな」
「へー」
翔とリルちゃんの会話に一切入り込むことなくゴリセンは話を続けるの。
「幼稚園からずっと柔道をやってるらしいんだが、芽が伸びなかったらしい。自分は弱いと、コンプレックスをズルズルと引きずったまま高校生になったわけだ。しかしそれは違った」
「まあ、簡単にいうとゴリセンがあいつの特性をすぐに理解して褒めちぎってやったらあんな実力になったってわけだぜ」
やっぱりゴリセンってすごいんだね、指導力がすごい先生だって度々聞くけど。
「ゴリセンすごいですね!」
「そうか? 教師がやれることをしてやるのは当然だろう」
「ほへー」
やばい、うちの学校で一番かっこいい先生かもしれないこの人。ゴリラみたいだけど、ゴリラみたいだけど!
そんな話をしてた中、星野君が満面の笑みを浮かべながら戻って来た。
「みんな見たっすか?」
「ああ、すげーじゃねーか」
「すごいよ、星野君! よく頑張ったね!」
なるほど、褒めてやると強くなるならもっと褒めてやろう。人の扱いはアナズムで得意になった。
「い、いやぁ…はは」
「すごいねー! 強いねー!」
「そそそ、そんなことねーっすよ…ふへへ、アザス」
とても嬉しそうにしながら彼は控えに戻っていった。
翔が俺をジト目で見てくる。
「お前、そういうのお手の物になったな」
「今だったら銀座でナンバーワンのキャバ嬢になれる気がするよ」
「……キャバ"嬢"なんだな……」
「うん」
________
_____
__
『優勝は、________高校。主将、火野翔選手にお話を________』
うん、まあ結局残り2戦も副部長に行く前にみんな片付けちゃったよね。ちらほらと周囲から化け物高校って呼ばれてるのに気がついたよ?
特に翔と、まさかの俺を指差して言ってる人も居たんだけど、なんで俺が化け物なのかな? むー、わかんないや。
『は、話つっても、俺、団体ではまだなんもしてねーから何も言えないんですけど________」
団体でまだ何もしてないのにインタビュー受けてる翔が不憫だ。試合に出て思いっきり活躍してきた三人、とくに二山と中川はニヤニヤしてるよ。
『個人戦の戦績も我々は把握して居ます。どうしてこんなに優秀な選手ばかりが育っているのでしょうか?』
『それは間違いなく、顧問のゴリセ______あ、違___』
自分の名前が出されたゴリセンは照れてる。そう、ゴリラが照れてる。よく考えたら酷い言い草だね。
『それでは、最後に地方大会への意気込みをお願いします』
『まあ、同じです。まだ団体戦で1試合もして居ない俺がいうのもなんですが、全力で頑張ります』
『はい、ありがとうございました! では、今回一番の注目の選手である、________高校先鋒、一年の星野選手にお話を________』
翔のインタビューが終わって、こいつだけこちらに戻ってきた。
「……はぁぁぁ」
「どうしたの」
「いや、なんもしてねーのにあんな風にインタビューされてもなぁ…って思ってよ」
「それね」
俺は翔の背中をポンポンと叩いてあげた。
うーん、全然汗で湿ってない。翔はやっぱり頑張ってるのが一番かっこいいからね。
「わるいな、せっかく来てもらったのに」
「いやいや、優勝できたんだからいいでしょ。活躍を見せてくれるんだってなら明日にしてよ」
「おう、まかせろ」
「あ、私も期待してる!」
翔が親指を立てた。
俺も親指を立てる。
そこに加わった美花も同じことをした。
「なあ、火野ってやっぱり正妻がフエンさんで愛人があゆちゃんと曲木さんだよな?」
「それな」
なんが変な言葉が聞こえたような気がするけど気の所為だろう。うん、きっとそうだ。
「あれ、三人もグー! なんてしちゃって何してるの? 私もグー!」
部員であるリルちゃんが少し興奮気味にこの話に混じって来た。うん、これがいつものメンバーって気がするよ……。あれ、弟と未来の儀妹はどうしたんだろ?
俺は二人のいたはずの方を振り向いた。
「……め、目が見えるようになってよがっだでずねっ…」
「あ、ありがとうございます…」
なんかテレビを見たであろうたくさんの人に囲まれて大変なことになってるわ。
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