第617話 なんなんだろうね
「そいつ昨日、俺のところにも出た」
「……そうなんだ、翔のところにも」
昨日は叶の言っていた黒いフードを被った男をみた。
それがどうやら俺と美花だけじゃなくて、夜遅くには翔とリルちゃんまで遭遇したようなんだ。
今は学校で、翔にそのことを報告したところなの。
「そっちはなんて言ってたんだ?」
「んー、なんか俺らのことを知ってる風なことを言ってたよ。あと、いつかまた会うだろうって」
「そっか。俺もなんか叶君の時と同じで、子供の頃のことを知ってたような素ぶりだったぜ。リルについては容姿と特徴で何族か当てやがった」
「……リルちゃんを除いた俺たちのことを知っていて、なおかつ、獣人の種類を耳も尻尾もないのに当てちゃうくらいのアナズムっぷりか……」
ぐむむ、全く知り合いに見当がつかないよ。そもそもお腹の中のことまで覚えてると言われてるほど記憶力がいい叶がその人なことを覚えてない時点で俺たちが知ってるはずもないんだよね。
「あ、リルちゃん達も…」
「わふん、そーなんだよ」
どうやら女子は女子でお互いに昨日あった出来事を報告しているようだ。
「でね、でね、有夢ったら怪しい人の前で私を庇うように立っててカッコよかったの!」
「わふ、ショーもだよ! ショーもね、私に何かあったら逃げるようにって…」
どうやらあの時の俺たちの態度についてワイワイしているようだ。
「あ、当たり前だよね」
「ああ、当たり前だな」
大切な人を守ろうとするなんて当たり前だよね! ま、あの黒い人はこちらに攻撃してくる気配なんてのは全然なかったけどさ。
「……ところで私、今思ったんだけど、あのフードの人ってさ」
「わふわふ?」
「幻転地蔵様…とかじゃないよね?」
「わふっ!」
その考えがあったか、どうなんだろう。
「今さ美花達から…」
「聞いていた。たしかにその線は濃いよな。有夢と美花をアナズムに送ったのはあの神様…でいいのか、とにかくあのお地蔵様だ。んで、もしこっちでも俺たちのことを見てたとしたら幼少期から知ってるのは頷ける」
「だよね、だよね! そだ、叶に連絡するね!」
今、弟に連絡を取ってもこちらもあちらもホームルームすら始まってないから大丈夫。俺は通信アプリで叶に先ほどの美花の考えを、翔達も遭遇したという報告とともに送って見た。
割とすぐに返信が来る。
『俺もそれは考えたんだけどね』
『考えてたんだ』
そりゃそうか。天才の叶がこんな簡単なことすぐに思いつかないはずがない。こりゃお兄ちゃん、失敗したよ。
それにしても、その相談を叶からしてこないってことは…。
『うん。でもやっぱり違うかなって』
『違うんだね』
やっぱり違うのか。
美花の推理も結構いいと思ったんだけどなぁ…なんでだろうね。
『にゃんでにゃん?』
『にゃんでって言われてもねー。ほら、大きくなったなだとか成長してることに感心してる節がなかった?』
『あー、あったにゃん』
『…もうそれやめようよ』
『ごめん』
ちょっとふざけたら叶に怒られてしまった。ぷくー。
とにかく続きを聞かなければ。
『俺たちさ、今年ももう何回もあのお地蔵様見に行ってるんだよ? 兄ちゃん達がアナズムに送られる前から。もし向こうがこちらを見れるとして……その言い草はおかしくない?』
『むむ、そう言われればそうかも』
そんなことに気がつくなんて叶はやっぱり頭がいいな。
『となると…?』
『いや、そこから先はまだわからないよ』
『そっかぁ…突然連絡してきてごめんね!』
『にゃ、大丈夫だにゃん』
兄弟でも見た目が女の子みたいだとこんなやり取りするんだよ? 少なくとも俺たちは。
いや、それはさておき、予想がすかだったからまた1から考えなおさなきゃいけないね。
「叶君、なんて?」
「最近もお参りしてるのに俺らの成長した姿を初めて見るような口ぶりだったし、多分違うって」
「はあ、そっかぁ。美花の考えはなかなか窓を得ていると思ったんたんだがな」
「あの未来予知に近い勘の美花が外すなんて珍しいね。とりあえず今の話題で二人で盛り上がってるみたいだし教えてあげよっか」
「お、おう」
俺と翔は美花とリルちゃんに答えのない答えを教えてあげた。はしゃいでた二人はしょんぼりしてる。
「……まあ、たしかによく考えたら叶君がすでに考えてるはずよね…」
「わふん。なら、なんなんだろね?」
「……さぁ?」
本当にわからないな。見当もつかないよ。
だってほんとに条件に当てはまるのは幻転地蔵様だけだからね……。
「すわれー、ホームルーム始まるぞー。今日も4時間授業だ」
時間になって先生が教室に入ってきた。
俺らは元の席に着き、各々で考えるしかなくなっちゃったよ。……でも、ま、いつか叶が解決してくれるでしょ。
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