第595話 過去の導き


申し訳ございません、一話抜かしてしまいました。この話が最新話となりますが、先に進んでいるのは前日の方です。誠に申し訳ありませんでした。

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「本来ならばここは重臣以外は絶対に入らせない。ま、アリムちゃんとミカちゃんは特別だ」



 ラーマ国王の書斎。

 城の中に入ってる図書室とは別の、ラーマ国王のプライベート空間だ。なんか…年上の男の人の空間に入るってドキドキする。

 書斎に入ってから俺は本棚の一つに目を向けた。

 ……『アリム・ナリウェイとミニスカート』

 ……『特装版 天使・ジ・アースの二人』

 ……『限定版 アリム・ナリウェイとエプロン』


 これは俺とミカの写実集だよな。今のはざっと見ただけだけど、これ以外にも沢山ある。しかもめっちゃレアなのが多数。

 『限定版アリム・ナリウェイとエプロン』なんか撮影陣スタッフの一人に裸エプロンやれとか言い出す阿保が居たやつじゃん。もちろんやらなかったけどさ。


 ミニスカートのやつもやけに太ももが強調されて描かれたっけ。実際、靴下とかもやけに拘られてた気がする。別にムチムチしてるとかってわけじゃないのにね。

 男の人っていうのはわからないよ。

 翔みたいにわかりやすい場所が好きなら、わかりやすくて楽なんだけど。


 …でも俺も男にもどったらそういう性癖みたいなのが必ずあるわけで。なんか複雑だなぁ。



「ああ、アリムちゃんとミカちゃんの写実集だよ。…この部屋には今まで出版されたものほぼ全てが保存してある。特装版や限定版なども含めてな」



 はぁ、ほぼ全部あるんですか、そうですか。

 お金持ちのアイドルオタクなんて何やらかすかわからないもんね。写実集を集めてるだけでとどめてるならまだマシか。



「ただ、『戦うアリムちゃん』の限定版だけ手に入らなかったのが残念だ。あれは発売期間が短く、需要が高すぎた」



 とても残念そうにいうラーマ国王。

 とりあえずこういうことがあるかもしれないから、全て念のために常にポーチの中に入ってるけど…。

 数日ずつ。



「えっと…今手元にあるんですけどそれ、要ります?」

「なぁにぃ!? なら、ならばだ、サインとやらを施してから余に売ってくれないか? 10万ベル払う!」

「そ、そんなにいらないですよ。普通に売ってるだけのお金でいいです…」



 大事そうな話の途中だけど喜んでくれるしいいよね。もしかしたら今後の関係もすごく良好になると思うの。

 俺は『限定版戦うアリムちゃん』の表紙の指定された場所にサインをしてラーマ国王に手渡した。



「これは家宝にする!」

「家宝にするなら金剛杵にしてくださいね」

「…それは国の宝だ。家宝とは別だ」



 ラーマ国王は大事そうに且つ嬉しそうに俺の写実集を本棚にしまい込んだ。

 そしてすぐに真面目そうな表情を作り、話を続けてきた。



「……それでこの日記の内容の方だが」

「どうでした?」

「なんでも、この国出身ではない者に『導者』を渡したらしい」

「そ、そうなんですか」



 狼族の忠誠の誓いのよつに、人生に1回だけできる、ラーマ国王の血筋の導者の指名。

 ここ数百年間、それぞれの世代の国王は誰も指名しなかったはずなのに、なぜかラーマ国王の曽祖父だけ指名していた……という話がこの日記でわかった。

 しかし肝心のその人物がわからなかったために俺に日記の修正を依頼。そして治ってこの場にある。

 んて、ラーマ国王は俺にその導者が誰かを教えてくれるんだけど、まさか外部の人間とはね。



「どんな人に?」

「特別なアイテムもスキルも一切使わずに不思議なことをする男だった…と書いてあったな。内なる強さを感じたため、生涯使うことのないであろう『導者の指名』をこの男に使ってしまおうと……」



 ラーマ国王はそこまで言ったところで顔をしかめた。



「余の祖父から、曽祖父はいい加減な方だったとよく聞かされていたが、ここまでだったとはな」

「あははは」

「余なら絶対にアリムちゃんを指名するのに」



 この日記を読んだ後なら、自分もいいだろうと本当に俺を指名しかねないな。話しをそらさせてもらおう。



「それで、その男はどうしたんですか?」

「しばらくこの国で曽祖父の元で働くと、唐突にメフィラド王国に向かったそうだ。……ずっと『祖国に帰りたい』と呟いていたらしい。普段は人を笑わせるのに非常に長けており、曽祖父はそこが気に入ったらしいが、その帰りたいと漏らすときだけは本当に寂しそうな顔をしていたらしいな」


 

 へぇ……祖国にねぇ。

 アナズムは地球よりあからさまに小さいけれど、それでもかなりの広さがあるからなかなか帰り辛かったんだろうね。メフィラド王国にその帰る方法があった…とかなのかな。



「やはり余もアリムちゃんに指名したいな」

「ダメですよー。ボクもう勇者ですから!」

「だよな。はぁ」



 ラーマ国王は寂しそうにしょぼくれた。

 また話が長引くとめんどくさそうだから、逸らしてしまおう。



「ところで他に何かわかったことはあるんですか?」

「いや、今のところはこれだけだ」



 ……だとしたらそんなに進んでないのか。

 まあ、まだ前に来た時から三日しか経ってないし仕方ないのかもね。

 

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