第586話 道化のこれから
「俺は…俺はこれからは普通にこっちでこのサーカス団の団長として生きて行くつもりですよ。皆さんが心配しているように犯罪行為などしないのでご安心ください」
普段なら叶は『口だけならなんとでも言える』みたいなこと言って追い討ちをかけるんだけど、あえてそうしなかったみたい。ただ黙って光夫さんを見続けている。
「……まあ、俺は当事者ではないので何も言えませんが……にいちゃんはどうなの?」
「お、俺?」
「いや、この人と一番関わりあるのにいちゃんでしょ」
まあそうなんだけど。
俺は光夫さんの目を見る。…当たり前だけどメフィストファレスを名乗っていた頃とは全然違う目をしてるね。
じゃあ、俺の気持ちを話そうかな。
「……まあ送り返しちゃった以上、どうも言えるものじゃない。サーカスだって楽しめたし、お詫びも一応は貰った」
俺はカードを取り出し、それに目を移す。
生涯無料でVIP扱いされるカード…。美花を殺されたり、俺自身殺されかけたりした分には全く見合わないけれど。
まあ、人が思いつく限りの詫びだったらこんなものかと考えたりしちゃうよ。
「アナズムでは死刑にされて罰は受けたけど、それでも人は今まで何人殺したかはわからない。俺達やあの国にしたことは絶対に許されないし、俺も許すつもりはないよ」
光夫さんの目が陰る。
これで許すほど俺は聖人じゃないし、許しちゃったら美花を殺されたことはどうでもいいってことになっちゃう。
だから許さない。許さないけれど_________
「こっちでその分人をたくさん笑顔にしてください。無論、犯罪行為なんて絶対にしないように、もししたら_____」
俺は翔の方をちらりとみる。
翔は頷いた。
「すぐに、警察が来ると思ってください。…また、こっちにいる間は警戒するように伝えます」
「貴方は…警戒の関係者か何か?」
「……そんなところです」
そう訊くと、光夫さんは何故だかホッとした顔をするの。その意味はわからないけれど、もしかしたら、自分が迷惑をかけたからすぐに制圧してくれることに安堵したのかな? こういうのは叶じゃないから分析できないや。
「えーっと、美花さんでしたか」
「は、はい」
「…アナズムでは…本当に申し訳ありませんでした」
「……はい」
次の公演の間にやりたいことがあるのか、光夫さんは時計をちらりとみると、美花にそう述べた。
この中で実質一番被害者の美花は唐突に話しかけられたことに驚きながらも平静を装って返事をするの。
「……俺はこれから有夢さんの言う通りに、サーカスで人を笑わせることに専念しますよ」
ピエロの顔のままだから真面目なこと言ってるのに真面目に受け取れないのが難点だけど、確かにそう覚悟してくれてるような声色だ。
俺は立ち上がった。叶も空気を読んで立ち上がった。
あとの4人ともそれに続くの。
「わかりました。是非そうして下さい……またいつか、このカードを使いにサーカスを観に来ますよ」
「……はい、いつでもお待ちしております」
「ではお邪魔しました」
俺らは団長の部屋を出た。
そしてそのままサーカス団が借り切ってる土地も出て、お昼ご飯を食べるつもりだった公園に着くの。
「にいちゃん、これからも笑顔にして下さいって…」
公園のベンチと椅子がセットになっている場所に座った時に、叶がニヤニヤしながら見てきた。
「な、なんだよぅ! いいじゃんかそう言うことたまには言っても!」
「いやぁ…にいちゃんでもそんなラノベの主人公みたいなこと言うんだなぁ…なんて思っただけ」
「むーっ! ぷくー!」
思わずほっぺたを膨らませちゃった。すかさず美花が潰してくる。
「まあいいや、お弁当食べよっ、お弁当!」
「それぞれ机に広げるんじゃなくて、個々にお弁当用意してるんでしょ?」
叶のその言葉に女子3人は頷いた。
「わふ、そうだよ! 私はショーに作ったし…」
「私は有夢に作ったし…」
「わ……私はその…かにゃたに…作ったよ?」
反応を見るからに、美花が桜ちゃんに作らせたような気がする。叶は嬉しそうに自分の頬を掻いた。
机と椅子は広めで、両方側に3人ずつ余裕で座れるから、そこに男女で別れて、それぞれの想いの相手と対面になるように座るの。
「みてみて、あの男やばくなーい?」
「えぇ、めっちゃハーレムじゃん! なにあれ? なんかの撮影?」
「さあ…でもあんな可愛い子ばっかでさ、男1人はやばいよねー」
通りすがりのギャルの声。
それに一番反応したのは翔ではなく、叶だった。
「これ、やっぱり俺も女の子に…!」
「諦めて。お前は俺の弟だ」
「ぷ…ぷくー!」
俺のマネをしてほっぺを膨らませた叶は、その膨らませたものを桜ちゃんに潰された。
……え、そのあと?
もちろん食べさせあい大会になったよ。
まあこの面子だしそうなるのはわかりきっていたことだけどね。…唐揚げ美味しい。
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