第582話 VIPサービス
「第二幕が始まりまーす!」
お姉さんの声が響く。やっと入れるんだね。
「やっとかぁ」
「待ってた時間が長いというより、このサーカスの団長がアナズムの関係者だったことが驚き。待ってる時間あまり気にならなかったよ」
「ほんとだぜ」
とにかくブツブツ5人が何かしら文句みたいなの言いってるけど、とりあえず俺たちはテントの中に入り、自由席で一番いい席を探すの。
「ここがいいね」
「さすが一番乗りだな。一般の自由席でもこんなとこ座れるなんて」
他の人に取られないように、俺たちは素早く座る。
自由席と指定席は別れており、全部それなりに後方にあるんだけど、その中でもステージ真正面の真ん中に近いところをとれたんだ。
もうすぐ冬だから外は寒かったけれど、テントの中は絶妙な空調で暖かい。2時間この中で過ごすには丁度いいくらい。
俺たちはジャケットなどを脱いで席の下に備えつけてある籠に放り込む。
「……あとでアイス買おうかなー」
「桜、さっきキャンディ食べてたじゃない。アイスも食べるの? それにもう少しで冬よ?」
「むー、いいの。食べたいの!」
途中で売り子さんがアイスを売り歩くらしい。そんなサービスもある。
「ん? 誰かこっちに近づいてこないか?」
「え?」
翔のいうとおり、舞台から団員の1人がこちらに駆けてきている気がする。というより、思いっきり俺らの方をニコニコしながら見て向かってきてる。
あの人は…あれだ、俺を光夫さんの事務所まで案内してくれた外国の人だ。
しばらくして俺らのすぐ真横、椅子の間の通路で立ち止まったの。
翔や叶達みんなはもちろん、周りの他の人も何事かとその人の方を凝視してる。理由をわかってるのは俺だけで。
「あの…どうされましたか?」
「ここの6人は1組でスカ?」
「え、ええ、そうですけど…」
いつも通りに一番大人な叶が対応してる。
俺の方を見ると、さらににっこりと笑ったきた。
「ダンチョーから話は聞いてマス。カードのテージをお願いできますか?」
「え、カード…? 誰かそんなの…」
「あ、はい。…これですね」
もらったものの1枚を差し出すの。それをじっと見て確認すると、コクリと頷いた。
周りの5人はまた驚いてくれてるよ!
サプライズしようと思ってVIP席のことは黙っておいたんだ。ふふふ。
「オゥ! 確かにコレでス! では6名様ともご案内シマース」
「ご、ご案内?」
「うん、この人がVIP席まで連れてってくれるって。色々と特典があるカードを、向こうでのお詫びとして貰ったわけなんだよ」
「んだよそれ! もう少し早く言えよ!?」
「あははー、驚かせようと思ってね」
せっかく手に入れた一般席で一番いい席を、俺らは…とくに叶が渋々立ち離れた。なんか文句言ってる。ごめんねー。
この団員さんは指定席のエリアまで入って行く。
無論、俺らはそれについていき、団員さんが立ち止まったところでそれにならったの。
「ココでーす」
「わふぅ! いい席だね!」
おそらくそこは指定席で一番いい席。
どうやって空けたのかわからないけれど、とにかく一番いいっていうのはわかるんだ。そもそも他と椅子の色違うし。
「ここがVIP席でーす。ダンチョーが昨日、命を救って貰ったと聞きまシータ! ベリグー! ありがとー! ここはこのサーカスができた当初からあり、初期に多額の融資をしてくれた人などが座れるVIPな席…らしいでーす!」
「多額の融資した人が座れる専用席ね…いいじゃない」
俺らは団員さんに勧められるまま、その席に座る。
叶も何が気に入ったのかわかんないけどご機嫌だ。
ここだけなんだか椅子が柔らかいし、やっぱり違うんだよ!
「お飲物を団員がお持ちしますが、何がよろしいですか? メニューの中から選んでください。サイズもね。度々、団員がここにサービスしに来まスヨ! その時に、またそのメニューの中からポップコーンとかアイスとか選んで好きなだけ注文してくださーい! そういうタイグーです!」
「わぁ、ほんと!?」
甘い物好きな桜ちゃんはメニュー表をもらい、今の話を聞くなりめっちゃ喜んだ。キャラメルポップコーンとかを頼むつもりなんだろうね。
それにしても俺が光夫さんの命を助けたことになってるのか。こっちでは。まあ間違ってはないからいいかな。
「まさかこんなことになるなんてね」
「あはは、でもよくない? こういうのも」
「んー、まあね」
美花も色々言いたげではあるけど、とりあえずは納得してくれるみたい。
それはそうと、早速桜ちゃんがメロンソーダLLサイズとキャラメルポップコーンLサイズを頼んでる。
美花が急いでそちらを振り向き注意すると、それぞれのサイズを1つずつ下げたよ。
叶はそんな光景をニヤニヤしながら見てるの。
翔とリルちゃんは何かビーフジャーキーみたいなのを選んでるみたいだね。
……さて、俺は何にしようかな?
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