第577話 サーカスへ行く -3
「インタビューへのご回答ありがとうございました!」
アナウンサーさんが浅めにお辞儀をしながらそう言った。ちなみに答えたのは今や有名人の叶がメインで、それにたまに誰かが二言ぐらい混じるだけ。
スタッフやカメラマンさん達の顔を見る限り、全シーン使われそうな気がしたから、変なこと言わないように気をつけたよ。
「やあやあ、久しぶりですぅ」
インタビューが終わり、数人が名残惜しそうにここを去ってから、1人、あの団体の中で一番偉そうな人がこちらにやって来た。
「あー……久しぶりです」
この人のことは俺と美花もよく知ってるし、翔も一度だけ巻き込まれたことあるし、叶と桜ちゃんの取材の一部もこの人だった。そんな取材ディレクターさんだ。
「ところで……」
「お断りしますよ」
「うん、ですよねぇ」
この人はスカウトマンでもないのにいっつも誘ってくるの。まあ断ったらすぐに引き下がってくれるから、だいぶマシな人なんだけど。
「いやぁ…正直6人全員がテレビ業界に入ってくれればこっちは大儲けできるんだけどなぁ。いや、僕自体じゃなくて上が、だけど」
「それより気になるのがさっきカメラマンさんとかアシスタントディレクターさん達が私達のことを『業界殺し』なんて言ってたんですが……」
俺も気になったことを美花がこの人に訊いてくれた。
「ああ、うん。ぶっちゃけると君達ってそこらへんのアイドルとかさ、俳優なんかより良い顔してるわけねぇ。まあネットで1万年に一度の美少女姉妹だとか、『1万年に一度の美少女、近所にもう1人居た』ってよく記事になっててぇ……」
「え、私もですか?」
「俺も!?」
「あれ、知らなかったのかぃ?」
なんだ、俺らは一度もテレビに出たことない…って言ったら嘘になるけど、インタビューだとか叶達に付き添って少しうつされたぐらいの一般人だぞ!
盗撮とかされてたのか知らん。まあそんなのいつでもあることが。俺たちに限っては。
「それに君達を業界人にしてしまえば数億…下手したら数兆単位で儲かるのは間違いない。でも断り続けるから『業界人殺し』なんて言われてるんだ。……あ、こんな時間だ。僕は仕事に戻るけどとりあえず考えておいてね。……名刺はもういらないよね。じゃあ」
ディレクターさんはさっきの取材陣一行の中へと戻っていった。俺と美花はため息をつき、叶と桜ちゃん、そして翔はいつも通りのことだろうと、当たり前のような表情をしてて特に驚いた様子もない。
でも、リルちゃんが……。
「わ、わふぅ…スカートだぁ!」
とっても初々しい反能をしてるよ。
「リル、お前も一応今、スカウトされてたんだぞ?」
「わわわわふぅ!!? まじかい!?」
「あはは…まじなんだよね、それが」
あの人は6人全員って確かに言ってたし。まあ翔はイケメンアクション俳優そのものみたいな顔してるし、リルちゃんは今や学校でナンバー2に食い込むような美人さんだからね(なぜか『有夢を除いて』ってのが前提らしいけど)。
「私、そんなに可愛くないっ…!」
「現実をみろ、現実を」
「わっ、わふぅん」
顔を真っ赤にして翔の胸元に飛び込んだ。そしてプルプル震えてる。怯えた仔犬みたいでなんか面白い…。
まあこの待ち時間の間、暇にならない程度の話題ができたから、今のインタビューは良かったものとするか。
「ははは…この調子だとサーカスの観客が参加する出し物とかで俺たち全員指名されそうだね」
「やだ…なんか本当になりそう」
叶がなんかマジになりそうなこと言ってるし、それ多分当たる。
「……あと2時間か、待ち時間」
「まだそんなにあるのね」
さっきのインタビューについてある程度リルちゃん以外が落ち着いた俺たちは、座敷を敷き、そこにお菓子を広げて食べ始めた。他にもそんなことしてる家族連れがたくさんいるからね。
「あー! ロングハートくんだー!」
後方で1人の幼い女の子がそう叫んだ。ロングハート君とはこのサーカスのマスコットキャラクターで、まあ、いわゆるピエロだよ。
めっちゃ厚い化粧だから元の顔はよくわからないけど、たまにテレビのお昼番組だとか、首都圏でサーカスやる時にゴールデン番組に出演し、一切喋らずにテロップだけで宣伝したりしてる結構アクティビティなピエロなの。
それどころか動画サイトやラブロングサーカス団の公式サイトに、『ラブロング君の日常』みたいなタイトルで動画投稿してたりする。全て再生数は120万を超えるのが基本らしい。
だからラブロングサーカス団のサーカスを観たことないけど、ロングハート君は知ってる…なんて人も多い。
「ああ、本当だ! ロングハート君だ!」
「ロングハートくぅん!」
第2部のお客さんを待たせてる間のサービスが何かなんだろうね。ロングハート君か出てきたの。
この長蛇の列より少し離れたところに立って、バク転を披露したりしてる。もちろん一挙一動するたびに拍手喝采。
現にそこまでファンじゃない俺たち6人も、全員がそれに魅入って、他の人たちと同じように拍手してしまう。
まるでスキルで惹きつけられてるみたい。すごいねこりゃ。
ロングハート君が簡単な簡単なお手玉を始めた。
上を向いて、ワザとだろうけど危なげにポンポンと投げてゆく。
……ん? そういえばロングハート君の中の人の顔、何処かで見たことあるような……。
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