第488話 リルの翔への思い (翔)

「…………母さん、買い物行くぞ」

「…うん、そうね。翔とリルちゃんはちょっとお留守番しててね」



 数分が経ったのち、親父と母さんはそう言って出かけてしまった。俺とリルだけがこの場に残される。



「そういえば…何回も言ってたね」



 リルが表情を全く変えないまま呟いた。



「私が私のことを悪く言うたびに、私がショーからの愛を疑うようなことを言うたびに、ショーは私の良いところを、私が好きだってことを何回も話してくれた。そしてその度に私は喜んでいたよね?」

「ああ」



 リルは近くにあったティシュを『借りるよ』とひと言いってから一枚引き抜くと、鼻をかんだ。

 それから話を続け出す。



「そうだよね。私は…何を言っていたんだろうね、さっきまで。ショーは私のことを本気で好いてくれてると言うのに。もう、これからは不安や不満があったら、正直に言う。その度にショーは慰めてくれるんだろう? ふふ、考えるだけでも幸せだよ」



 いつも…普段と変わらぬように、一見すると賢く見えるような顔立ちでリルはクスリと笑う。



「ショー…抱きしめてくれないかい?」



 ぱっと見では冷静さを保ったまま、リルはそのように言った。俺は黙って頷き、リルの背中に片手を回し、もう片手は後頭部を撫でるように添え、強く抱きしめた。


 わかる。感覚がわかる。

 心臓の音がわかる。震えているのがわかる。

 女の子らしくて、まるで石鹸のような匂いがするのがわかる。痩せているのがわかる。胸の大きさがわかる。吐息がわかる。俺と比べて冷たい体温がわかる。

 ……リルが、感情を爆発させたいのがわかる。



「好きに泣けよ」

「うん」



 これでリルの枷は外した。



「あぁああああ、あああああああっ…はぁぅ…うぁあああああああああああ!! ショーっ……ショーーーーっ。あああああああ、ひっぅっ、うぁあ、ああああ…。あ、ああああああああああああっうぅぁ….ぅうああああああああ__________________

____________

______

___

_




 

「拭けよ。落ち着いたか?」

「ん」



 リルは俺が手渡したティシュペーパー3枚を受け取ると、1枚で鼻をかみ、2枚で涙を拭いた。



「ショーにこうやって泣いてるところを見られるのも何回目だろうね」

「泣きたかったら何回でも泣けよ」

「わふふ、ショーが優しいこと言ってくれたりしてくれたりするからつい泣いちゃうんだよ? 改めて、ショーと出会えて心から嬉しいよ。もう流石の私でもここまで泣いておいて夢だなんて思わないしさ」



 そうか、そりゃよかった。

 これで俺も大々的に大告白したからな。

 よりリルを幸せにできるように考えなくちゃな。



「私の全てを好きだって言ってくれたショーが私は大好きだよ。…ここまで来てしまったんだ。もう一生執着しちゃうけど…構わないかな?」

「おうおう。周囲に迷惑かけないならいくらでも俺に執着しろよ」

「………うんっ」



 リルはもう一度俺に抱きついてきた。

 俺はそんな思いっきり甘えてくるリルをおもいっきりまた抱きしめる。



「ただいま」

「帰ってきたぞ。…どうだ」



 母さんと親父がスーパーの買い物袋を手に下げながら帰ってきた。

 それを見るなり母さんはニヤリとにやける。

 ……まさかの親父まで一緒に。



「まあ…とやかく私達が言うことではないよな。こうして翔がなんとかできているわけだし」

「そうだね。なんやかんやいって翔はしっかりしてるし、私達は何も心配いらない」



 俺は…とりあえずリルを抱くのをやめ、俺から降りさせた。母さんと親父が帰ってきた時まで彼女といちゃついてるのは良くないからな。

 リルが俺から離れたのを見ると、母さんと親父はすぐにリルを囲む。



「今まで、辛わかったわね。……なんて、ごめんね。私にはそれしか言えない」

「…………はい」

「でも…そうね、どうせそのうち、うちの娘になっちゃうんだし、今から私達のこと好きに呼んで? 本当の両親だと思って」



 う、うちの娘になるって…。

 ま、まあそのつもりだし。リルとはそうなるつもりだし! なんの問題もねーんだけど、うん。



「えっと…パパさん…ママさん…」

「そこを?」

「パ…パパ、ママ……?」

「そう、それでいい」



 リルは顔を赤くしながら俺の両親のことを呼んだ。

 なんだか恥ずかしがってるみたいだな。



「……これから何かあったら、リル。園長や翔や有夢君たちだけでなく、私や母さんにも相談しなさい。やれることは全力でやるから。これから私達もリルの味方だよ」

「……うんっ!」



 リルは元気よく頷いた。

 


「んー、じゃあまだ時間もあるし、お昼ご飯食べたら荷物整理とかしなきゃねー」



 そう言って母さんは台所に立ち、親父は仕事をしに自室兼書斎に戻ると言い、その場を去った。



「…好きだよ」

「おう」



 リルはだめ押しとばかりにもう一度俺に抱きつき、ニッコリと、幸せそうに笑った。

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