第477話 帰ってきて (翔)
地球に帰ってきてから初めての登校。
なんだか新鮮だったぜ。
…アプリでリルと会話しすぎていつもより学校に行くのが遅れそうになっちまったけどな。
まあ…今日だけでたくさん思い返すこともあるが……無事に部活も終わり、俺は駅から徒歩2分半くらいにある自宅に帰ってきたぜ。
「ただいま、母さん」
「おかえり! えっと…久々で良いんだっけ? どうだった学校と部活は」
「んー…色々あったな。飯食いながら話すぜ」
「そうかい。あと15分くらいでできるからね。今日は父さんも帰ってきてるから、一緒に食べよう」
今日は父さんがちょっと早めに帰ってきてるんだ。
確かにそうだな、俺がアナズムに行く以前は有夢と美花が続けて死んじまったことが一番大きな事件として報道されてたもんな。それがないから早く帰ってこれたのかもしれねーな。
都合がいい。話しておきたいこともあったしよ。
「おう、じゃあちょっと荷物置いてくるぜ」
俺は2階にある自室に行き、学ランをしまう。
道着は洗うために持って帰るとき以外、うちの学校の柔道部は置いて行って良いことになってるから、学校にあるぜ。
…それにしても…今日の柔道の技のキレが半端じゃなかった。
顧問の先生(愛称はゴリセン)が驚いてたくらいだ。
やはり体術のスキルはこっちの世界にいくらか持ち越されてるみてーだな。
なんか実力じゃないみたいで嫌だが…。
かと行っていままでの努力が無駄になったと言うわけでもないし…そこまで嫌悪する必要はねーのかもしれねーけどな。
そういや、リルが来たら部活はどうするんだろうか。
リルも柔道部に入るんだろうか?
それともマネージャーか?
はたまた他の部活…いや、もしかしたらまんま帰宅部って可能性もあるな。
リルのことだから『ショーと一緒に帰るのさ!』とか言ってなんらかの方法で時間を合わせてきそうだ。
なんか…こう、健気にリルが俺のことを待ってくれてるってのも…グッとくるものがあるな。
なんて、いつの間にリルは俺にとっていなくてはならない存在になったんだろう。
寂しすぎる。隣にリルが居て『わふぅ』とか言う声が聞こえないと寂しい。
おかしなものだな。
本当に、最初は、ただただかわいそうだから助けただけだっつーのに、こんな感情を抱くなんて。
リルが死んじまった時には我を忘れて暴れ狂うぐらい好きになるなんて…最初は、告白される前は…いや、一緒に出歩くようになる前までは、思いもしなかったぜ。
今は多分…リルも寂しがってるんじゃないか?
アナズムですぐに会えるっていうのがなんだか素晴らしく感じるぞ。
ああ、有夢と美花もお互いにこんな感じなんだろーな。
結局、愛だとかは俺は知らなかったのかもしれない。
美花の有夢が死んじまった後の2週間のあの反応は、一見異常に見えて普通だったのかもしれない。
はは、そうそう。
今日の学校はあの二人が付き合い始めたことで話題が持ちきりだったな。
一瞬で校内中に広まったんだ、この町内に広まるのも時間の問題だな。
なんてったって芸能人でもないのにかなりの数の隠れファンがいるくらいあの二人は(可愛いということで)有名だからな。
柔道部内でガチで有夢に告白しようとしてた後輩(男)は哀しんでいた……いた? なんか百合だとかなんとか言って飄々としてた気がするな。
百合っぽいっつーのは全くもって否定しねーよ。
でも学校でも異常にいちゃついてたし、百合に見えてるとしてもいつか先生に注意されるかも。
「ご飯だよ!」
「「おう!」」
俺と親父がほぼ同時に返事をした。
なんか母さんが台所でニヤついてる…そんな気がする。
腹減ったから急いで1階のリビングへ降り、さっさと食卓へとついた。
今日の飯は親父も居るということで、鍋だ。
キムチ鍋。
ちなみに親父は見た目に反して鍋奉行家ではない。
「どうだった、久しぶりの学校は」
キムチ鍋をよそいながら、父さんはそう訊いてくる。
母さんも変わらず気になるようだ。
「いやぁ…なんつーか。いつも通りだったよ。ただ柔道でな、向こうの世界で色々と経験したからか、キレが半端じゃなかったんだ」
「……翔、あんた、ただでさえこの町で一番強いとか言われてるのにそれ以上強くなってどうする気? またインターハイ優勝する?」
「ははは、母さん! 男は強くなってナンボだよ!」
「それもそうだね」
いやー、この町で俺が一番強いったって、うちの高校に殴りこみにきたヤンキー数十人を一人で制圧したら、そいつがたまたまこの地域一帯で一番強い奴だったらしく、まんま俺がその称号をもらった(押し付けられた?)だけなんだがな。
ちなみにそん時、俺は全員素手で、しかも数人しか殴らずに取り押さえたから特に警察からお咎めもなんもなかったぜ。
逆に相手は釘バットとか持ってたし、そのヤンキーどもの方がしょっぴかれたぞ。
「ともかくまあ、強いて言えば有夢と美花が付き合い始めたことがスッゲェ話題になったくらいかな。それ以外の変わったことといえば」
「聞いたわ、すごくラブラブなんだってね」
「俺の耳にも届いたぞ」
は…はぇぇ…。
親父はともかく、母さんの耳にももう入ってるって、地域一帯にすでに広まってるんじゃないか?
「……ところで、あんたの彼女、リルちゃんって娘はいつ来るの?」
母さんがそう言いだした。
おう、どうやってリルの話題振ろうかタイミング伺ってたんだけどな、まさか母さんから言ってくるとは。
よし、ここからノルウェーの話題まで持って行ってしまおう。
「実はもう来ていてな」
「ほう、なら近々会えるか」
「いや…最低でも数週間かかるぜ。遠いところにいるんだよ」
「へぇ…どこにいるかわかるの?」
母さんのその問いに、俺は白菜を飲み込んでしまってから答える。
「ノルウェーだ」
「「……え?」」
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