第397話 ミカの謝罪

 俺はリルちゃんに自分が向こうで女である事にして、翔との関係、ミカとの関係を言った。

 そして叶とは姉弟であることも。

 年齢に関しては正直に、本来の年齢が16であると言うことを伝えてある。



「わふ…! こういうことってあるんだね……!」



 こっちの世界の人にとっても、やっぱりすごいことなんだね。奇跡なんだよ、うん、運命の赤い糸はある。

 ふと見ると、リルちゃんは首を傾げていた。



「単純な疑問なんだけど、どうして髪の毛の色まで変わってるのかな?」

「それは多分、ボクとミカは賢者としてこっちに来たわけじゃないからだとは思うんだけど……正直、詳しくはわからない」

「そうなんだ…」


 

 うん、リルちゃんはちゃんと答えてあげられなくて悪いと思う。でも本当に知らないんだし仕方ない。…これでこの件について話さなきゃいけないことは全部話せたかな。

 ……あ、そうだ! 

 翔達に俺がみんなをなんて呼ぶか伝えてなかった…!

 急いでメッセージで伝えなきゃ。



【ゴメン、一つ言い忘れたことある! 俺のみんなの呼び方についてなんだけど】

【ん? なんだ】

【カタカナの方で呼ぶからね! 逆にさっきも言ったけど、俺のことはアリムって呼んでよ!】

【……まあ、それは好きにしろよ】

【翔さんに同じく。姉ちゃん】

【わ、私も同じく! アリ姉】



 納得してもらったから、今後は翔はショー、叶はカナタ、桜ちゃんはサクラちゃんと呼ぼう。

 翔以外、何が変わってるかわからないけど。

 

 んで…次の話は…どうするかな。

 やっぱり……帰れることについて話すべきか。

 俺はミカの方をちらりと見る。それだけで何をこれから話すかを察したのか、ミカは覚悟を決めたような顔つきとなった。



「よし、じゃあ思い出話はここまでだね! ……話の連続で申し訳ないんだけど、他のまた、大事な話をするよ。……みんなの帰る方法についてなんだけど」



 俺以外の全員がその言葉に過剰に反応を示した。

 おそらく、カナタとサクラちゃんは、帰れるかもしれないけど、俺らがこっちにいるから悩んでるんだろう。

 ショーはやっぱりリルちゃんのことで悩み、リルちゃんはショーが帰ってしまうかもしれないから悩む。

 ミカは、本当は帰れるのに帰れなかったことをサクラちゃんに謝らなくちゃ。

 そう言うわけで、みんなそれぞれ、帰る事に関しては何かを引きずってるんだ。

 なんにせよ俺は帰れないけど。


 俺は、マジックバッグから幻転地蔵様を取り出して、この食堂の地面にそっと置いた。

 いきなりこれを出したことでみんな驚く。



「……なんで、それを出したんだ?」


 

 さっきより元気が無くなった声のトーンで、案の定、ショーは俺にそう訊いてきた。



「これは魔神を封じ込めるのと同時に、時空を繋げる(?)装置でもあるんだよ」

「その中に魔神が入ってるんでしょ? 大丈夫なの?」

「それは大丈夫」



 だと思う。誰も使ってないから実際のところわからないけど。

 


「………そんなもんがあるのになんで地球に帰ってこなかった?」



 ショーは目を見開いきながら顰めっ面をするという器用なことをしつつ、俺にちょっと強めに尋ねてくる。



「えっと……うん、これ、何故かわかんないけど、ボクは使えないんだ。いや、使用を拒否されるって言っほうがいいかもしれない。だから帰ってきたくても来れなかった」



 そうか、と、ショーは呟いて納得してくれたみたいどけど、カナタがもう一つのことに気がついたようで。



「姉ちゃんが使えない……それはわかった。でも、"ボクは?"  美花姉はどうなの?」

「あっ……」



 3人とも、ミカの方を見る。

 と、同時にこの時を待っていたかのように素早く腰を折るミカ。



「……ごめんなさい!!」



 ミカの全力の謝罪が食堂に響く。

 ギョッとした顔で俺以外全員がミカのことを見つめていた。

 うーん、でも、謝罪って言ったって何が罪なんだろうか。



「えっと……お姉ちゃん?」

「ごめんなさい、私、帰れるの。その気になれば、地球に、日本に……っ」



 ミカは顔を上げずにそう言った。

 誰にも返事をさせる余裕や合間はなく、その話は続く。



「でも…でも、どうしてもアリムと一緒に居たかったから! どうしても……っ! 離れたくなかったの…ごめんなさい」

「………お姉ちゃん………」



 しばしの静寂。

 俺と居たかったからって理由をサクラちゃんは怒るだろうか。

 ……その時は俺はミカをかばう。ていうか、俺にも原因があるわけだから…。

 静かに、俺も頭を下げた。



「……ミカを引き止めた。サクラちゃんがお姉ちゃんっ子なのを知ってたし、家族も悲しんでるなんて知ってた。でも止めちゃった……ごめんなさい」

「ふ…二人とも、顔を上げて、ね?」



 サクラちゃんのその言葉に、俺とミカは顔を上げた。



「私…別に怒らないよ? お姉ちゃんがあゆ……アリ姉大好きなの知ってたから。…私と叶がお姉ちゃん達立場だったとしても、そっちを選んだと思う」

「うん…ごめん、ごめんね…桜っ…!」



 サクラちゃんはミカのもとに駆け寄り、ミカもサクラちゃんの元に駆け、ヒシと抱きつきあった。

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