第326話 クリア報告後 (叶・桜)
「帰ってきたね」
「……うん」
城から帰ってきたカナタとサクラはいかにも不機嫌そうであった。
「なんなの、あのローキスって人っ!」
「まあ、俺達を強制的にこの世界に呼びつける上に、願いを叶えなかったら帰らせないとか言う人だから、そもそも」
「むぅ……叶、信用できないってずっと言ってたし、翔さんもいい噂聞かないって言ってたもんね! 顔は外国のイケメンって感じなのに性格は____」
「悪い王様だよね。それに前々から思ってたけど、ここの国の政治がなり立ってるのも、やっぱり周りの人が頑張ってるからだと推測するよ、俺は」
「絶対そうよね」
二人はさらにしばらく、クルーセルとキリアンが心配であることやローキスの信用できない点を話し合った。
「もぉ…ね、本当、ね」
「ローキスさん…いや、あの愚王の話はまた今度にするとして…今日は何をするか?」
「あれ? 叶があの人のことそんな風に言うなんて、初めてだね」
「まあね…鑑定使って盗聴器は全部外したから」
そう言いながらサクラに向けて差し出した手には、大量のシールのようなものが握られていた。
全て半分に破いてある。
「…本当に盗聴されてたの…こわぁ…」
「プライバシーも何もあったもんじゃないよ。……で、何する?」
「うーん、叶、お昼寝してていいよ」
サクラは少し考えたような振りをしてからそう言った。
「んえ? いいの?」
「うん。私、ちょっとやりたいことあるから。あ、そうだ、エンチャントの紙って使っちゃいけないのある?」
「ううん、ないよ。なんか作るの?」
「えへへ、そうなの。趣味でね」
「そっかー、じゃあ寝させてもらうね」
「おやすみ、お昼ご飯できたら一旦、呼ぶからね」
カナタは寝室へと戻って行った。
それを見届けると、サクラは自分にファイナルサポートというスキルのうちから器用と素早さが上がる補助魔法をできるだけかけた。
そしていつの間にか買った裁縫セットやダンジョンで手に入れたアイテム、魔物の死体、その他諸々を自分とカナタのマジックバックから取り出し、何かを作り始めた。
_____
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「叶、起きて。ご飯よ」
「うん…起きる」
カナタは愛する彼女に起こされ、食卓についた。
この日の昼食は魚のムニエルがメインだ。
「ん、美味しい。ここ数日毎日作って貰っちゃって、悪いね。ありがとね」
「ふええ!? あ…い、いいのよ! 料理作るの楽しいし、スキルのおかげかわかんないけど、とりあえず苦じゃないし…!」
「んふふー、そっか」
二人は昼食をすませると、午後の予定について相談し始めた。
「どうする? 公園とかみたいな場所、散歩する?」
「散歩かぁ…」
「他には…お菓子作りだね。アイスでも作る? 作れるでしょ」
「アイス…! 私、アイス食べたい! 大量に作って大量に食べたい」
目をキラキラと輝かせながら、興奮気味にサクラはそう言った。
「まあ…気持ちはわかるけどお腹壊すし…」
「私には回復魔法がある」
「冷たいから、頭がキーンって…」
「私には回復魔法がある」
「じゃあ沢山作ろうか」
二人はアイスクリームを作った。
普通のアイスクリームに、ココアを混ぜたアイス、ラズベリーやブルーベリー、イチゴを粉々にしたり液化させて混ぜたアイスなどだった。
それをそれぞれ大きめのボウル2つずつ。
そして普通の食料保管庫に大量の魔法で作り出した氷と共にいれて冷やした。
「あとはかき混ぜたて、待つだけだねー! 私と叶でボウル3個ずつだからね」
「食べられるのは夜になるかもね。……言っておくけど、1日1個だからね? 一気に全部は食べちゃダメだよ」
「むぅ……。まあ、勿論そうするつもりだけどね。ところで叶」
先程までアイスクリームを食べられる嬉しさでハイテンションだったサクラは急にモジモジと恥ずかしがりだした。
「なぁに? どうしたの」
「あの…これ。作ったんだけど……。あ、あげるわ!」
そう言ってマジックバックから1つの良くできた眼帯を取り出し、カナタに手渡した。
「眼帯…だとっ!?」
「そ、そうよ。この世界に合わせて作ってみたの。だってほら、今、叶が良くつけてるのって、何の力も無いでしょ?」
「んー? でも、桜の愛が詰まって____」
「ば…馬鹿っ! 何言ってるのよ…ああぁ…愛情なららら…しょ、しょれにも入れたかりゃっ!」
サクラは顔を真っ赤にし、ベシリと軽くカナタを叩いた。
「あはは、うん。ありがと」
「と、とりあえず鑑定してみてよ」
「うん」
カナタがその眼帯を鑑定した結果、本当に凄く多量のエンチャントがかけられていることがわかった。
価値は国宝級で、この眼帯自体の名前は『カナタ専用のサクラからの愛が詰まった手作りの亜黒魔眼帯』である。
さらに、ダンジョンで手に入れた魔物の素材を豊富に使っているため、光の角度で緑色に輝く。
「鑑定した?」
「う…うん、国宝級か、凄いね」
「えへへ…つけてみてよ」
「うん」
カナタはその眼帯を左目につけた。
つけたはずだが、その先が透けて見えている。
ちょうど、片目だけメガネをしているようだった。
「透けてるね…」
「うん、そういうエンチャントがあったから。ほら、叶ってばボスの所でも眼帯つけて、視界が悪そうだったから…」
「ありがとう! 本当に、これ大事にするよ」
「そ…そう! 喜んでもらえたなら作った甲斐があったわ! えへへぇ…」
「あ、そうだ」
今度はカナタがマジックバックから眼帯を取り出した。
そして、それを右目につけた。
「どう?」
カッコつけながらサクラの方を向くカナタ。
両目とも眼帯である。
サクラは笑い出した。
「そ…それっはっ…そそ…うふふ…おかしいっ…笑うしかないって…っ!」
「そんなに可笑しいのか? 我が姿は…」
「鏡見てきなさいよっ…ふふ」
カナタは洗面台の鏡をのぞく。
そして自分の顔が、目隠しされてるだけのような感じになっているのを見た。
右目につけていた方の眼帯をすぐに外し、マジックバックにしまった。
「ぷー」
「ね、おかしかったでしょっ」
「我には似合わぬようだな…あれは控えることにしようぞ」
「そうね、それが良いわ。……で、いつまで眼帯つけてるの?」
「透けて見えるしお風呂とか以外ではずっとつけるけど?」
「えー、叶の顔が良く見えない…」
「ん? ああ、なら外すよ…」
カナタはもう片方の眼帯も外した。
「とにかくありがとね」
「いいの。私なりの御礼よ、御礼」
「え? でもこの間はキスが御礼だって…」
「あ…あぅ…。なんかそれだけじゃあ今までしてきたもらったことに釣り合わないかりゃ…」
サクラは顔を赤らめながそう言った。
カナタはそんなサクラの頭を撫でる。
「そんなこと気にする必要ないってば。あれで十分…」
「あう。むぅ……叶はそう言うけれど、やってもらいっぱなしってのもなんか癪だもの」
「…まあ、でも。桜が気が付いてないだけで俺は色々貰ってるから。気にする必要ないよ」
カナタがそう言いながら頭を撫でるのをやめた。
サクラはハッとした表情を見せた後、少し動揺し始めた。
「ま…まさか私が寝てる間に…せ…セクハラを…」
「そんな事しないって! 桜が嫌がることはしないよ」
「……い、嫌だなんて…そんな…。じ、じゃあ私が何あげたっていうのよ」
「んーとね。例えばさっきのアイス作ってる時の嬉しそうな笑顔とか…? 見ているだけで癒されるというか…。なんかこう言うのは恥ずかしいけどさ」
カナタは照れ臭そうに笑う。
なお、サクラはもっと顔が赤くなる。
「か…叶ってさ…この世界に来てからなんか…そういう少女漫画の男の人みたいにゃさ…。そういうこと言うよね…」
「そう? でも、ほら、一回、桜に『可愛い』って本音を言っちゃった時あったでしょ。あれからさ、もう別に本音喋っちゃってもいいかなーって。いわゆる吹っ切れたって…言えばいいのかな」
「あぅぅ…そ…そそ…そうなん…だ。ふ…ふーん…えへ」
その後、二人はそういう話を繰り返した後、それに飽きると、遊び始めた。
もはや、ローキスから指示がない現在、カナタはともかくサクラにはこれ以外にする事がないのだ。
この日はいつも将棋かオセロでは飽きてしまうため、新しく二人で中々に出来の良いトランプを作り、スピードや7並べをした。
やはり2人では限界があるため、今度、ショーを誘うかという話にもなった。
「……だいぶ遊んだと思ったけど、まだ夕飯にはちょっと早いわね」
「そうだねー。ローキスさんからは何も言われないし、明日と明後日はどこか行こうか」
「で…デートよね? どこかそこらへんぶらつくだけでも別に…嬉しい…ケド」
そんな話をしてまた数十分時間を潰し、夕飯を作って食べるのに良い時間となった。
勿論、夕飯も桜が作るのだ。
出来た料理を食卓に並べ、食べる。
「ふぅ、ごちそうさま」
「うん。……ふふ、じゃあ次はアイスね…! アイスアイスーっ!」
その後、桜が頭が痛くなったり、トイレに込もらなくてはいけない事になったのは別の話だろう。
アイスも食べたら風呂に入って二人は、よそよそしさを残しながらも抱き合って寝た。
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