第324.5話 その後 (翔)

 俺は上半身を起こす。

 窓から射す日の光が眩しい。


 チュンチュンチュン…と、何の鳥かはわかんねーけど、鳥のさえずりも聞こえて爽やかな朝…何だよな。

 ああ…。


 俺は今…何も着けてない。

 そして間隣、ほぼ身体が触れ合っているという近さで幸せそうな顔をして、リルが眠っている…。

 布団は掛けてはいるが、その布団の中は素っ裸なのを俺は知っている。


 床には俺の寝巻や下着と、リルの黒くてきわどい下着。

 この下着、買う時に勇気が必要だったらしい……そう聞いた。


 うん…どうしよう。

 何とも言えない気分だ。

 

 そもそもダブルベットしかない部屋を選んでしまったのが間違いだったのか? 

 いや、まずリルと恋愛関係になったから…? 

 冷静になると……うーむ…。

 

 お互い了承の上だし…効果はちょっと不安だが、この世界のそういう為の用具もきちんと使用したが……なんだろう、この気持ちは。

 形容しがたい焦燥感というか…。


 そのとき、隣がモゾッと起き上がった。



「ふぁ………ん。あっ…お…おはよ。おはよう、ショー…。えへ…わふぅわふわふ…」



 リルが起きた。

 昨日とはまた違ったり存在に思えてくる。

 布団がはだけ、胸が見えるがそれを気にする様子は無いみたいだ。まあ、事の後だし。


 

「ん…ショー…昨夜は…わふ」



 少し寝ぼけた様子のまま、リルは俺に抱きついてきた。

 とりあえず、俺はリルの頭を撫でる。

 すると、俺に向かってニッコリと笑い、耳は嬉しそうに立つ。なんというか、可愛い。



「お…おはよう、リル」

「ショー……っ! あ、呼び方はこのまま、ショーのままでいいかい?」

「あ、ああ。好きに呼んでくれ」

「わふふ…じゃあ、ダーリンっ! えへへ、冗談だよ」



 本当に嬉しそうな表情をしている。

 


「リル…そろそろ起きようぜ」

「わふ…もうちょっとだけ添い寝して欲しい。だめ? 余韻を求めている」

「お……おう」



 その言葉を了承とられ、リルと俺はこのまま布団にくるまって10分。

 その間にリルは俺の腕にしがみついたり、抱きついてきたり、頬にキスをしてきたり、顔を舐めたりしてきた。


 ところで1つ、疑問に思うことがある。

 何で俺はこんなに冷静なんだろうか。不思議だ。



「満足したか?」



 そう訊いてみる。



「わふー。まあまあかな」

「そうか。……んーと、まずは風呂入るか…リルが先か? 俺が先か?」

「一緒…!」

「それは……意味が無いっつーか、ダメな気がするんだ。…リルが先だな」

「わふぅ…わかったよ」



 リルはベットのもう一方の端から、降りようとした。



「ぎゃふっ!?」



 転んでしまったようだ。

 そのあと、何度も何度も立とうとするが、足に力が入らねーみたいだった。



「大丈夫か?」

「……歩けない」

「…ん…ちょっと回復魔法かけてみっか」


 

 俺は回復魔法をリルにかけてみた。

 その結果、リルは立てた。 



「背負ってお風呂に連れて行って欲しかった自分がいるよ」

「そうか」

「…お願い」

「……ああ、わかった」



 俺はリルを背負って風呂場まで行く。

 こうすると、初めて出会った時を思い出すな。

 あの時は…ガリガリだったな。


 風呂場でゆっくりと、リルを降ろした。



「じゃあな」

「わふ…やっぱり一緒に…」

「それだと風呂の意味無ねーから。じゃ、またあとでな」



 俺はリルを風呂場に残し、ベットへ。


 大変、汗やらで汚れているはずだと思ったのだが、どうやらベットの効果でずーっと綺麗な状態を保つらしい。

 洗濯しようと思ったんだが、その必要はねーみてーだな。


 とりあえず落ちている寝巻と下着を掴み……リルのに触れるのに躊躇はしたが、洗濯機に入れた。


 しばらくしてリルは風呂から出てくる。

 すでにちゃんとした服への着替えは終わってるみたいだ。



「ショー、次どうぞ」

「ああ」

「朝ごはん作っておくよ」



 俺も風呂に入り、相変わらずの烏の行水。

 早く出た。

 早く出たにもかかわらず、既に朝ごはんは用意されていたのな。



「ショーは早く出ると思ってね。間に合わせたよ」

「お、う。ありがとな。……えーっと、いただきます」

「召し上がれ」



 御主人って呼ばれないのに違和感を覚えてきたが、リルがショーと呼びたいんだから、別に良いだろう。

 目玉焼きうまい。



「ショー、今日は何するんだい?」

「またどっか行こうぜ。そうだな…劇でも見るか」

「わふ! それが良いね! 実に楽しみだよ」



 リルは微笑む。

 日の光の当たり具合のせいか、リルが輝いて見えるぞ。

 とりあえず、その頭を撫でてみた。



「わふっ。えへへ」



 ………やっぱり、これで良かったのかもしれない。

 

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