第316話 ダンジョン帰りの残りの時間 (叶・桜)

「はぁ…か…帰ってきたわね」

「そうだね」



 二人は顔を真っ赤にしながら、自室に戻ってきた。

 手は強く握られている。



「き…今日はあとどうするの? ステータスの管理?」

「ごめん…今日はもう何もやりたくない…。お菓子作りはいいけどさ」

「わかった…じゃあステータスは明日で…その、今日は一緒にお菓子作ったり…? お、お昼寝したり?」

「まあ、そうなるねぇ…」



 カナタは休みだと感じた途端にダラけるモードに入っていた。一方、サクラは未だに『カナタからのベタ褒め』と『ハグ』が残っており、まともに喋れていない。

 今日はずっと、こうだと予想される。



「でも…ふぁぁ…まずはお昼ご飯…」

「ね…ね、叶。疲れてるなら昼食も夕飯も私が作ろうか? お菓子は一緒に作りたいんだけど…」

「ごめん…お願いできるぅ?」

「ま、まかせなさぁい!」



 サクラは昼食を、おそらく今まで作った中で一番の愛情を込めて作り、カナタに食べさせた。

 器用にもこの世界にある食材で糸こんにゃく無しの肉じゃがを作ったようだ。



「どう?」

「すごいね、ちゃんと肉じゃがだね。おいしいよ」

「そ…そうでしょ! 結構苦労したんだからね」



 米がないのが相当キツかったようだが、それでも二人は美味しくお昼ご飯を食べた。



「ねぇ、ダンジョンをクリアしたっていう報告はどうするの?」

「明日…いや、面倒だから明後日でいいかな。『ダンジョンが終わり次第、何か頼もう』って向こうさんは考えてる可能性もあるし…。ごちそうさま。美味しかったよ」

「ありがと。……そうね。ところでお菓子作るのは…今から1時間後くらいでいいとして、その間、何する?」

「桜のリクエストに応えるよー」



 と、カナタは昼食を食べ終えて早々、ベットの上に寝転び、そう言った。

 

 だから、サクラは自分は今、何をしたいか考えに考えた。その結果、ある妙案を思いつくりカナタとデートができるかもしれないという考えだ。

 


「じゃあさ、今からお菓子作ってさ、その後…服買うの手伝ってくれない?」

「えっ? ……ローキスさんに貰ったのがある……まあ、桜がそうしたいってなら良いよ」

「ありがと。露出は少ないけど、この首飾りに合うっていう服が欲しくなっちゃって」

「へぇ…。いいよ。じゃあお菓子作りしてから行こうか。それにしても桜が服を買いたいって言うなんて珍しいね」

「そ…そうかしらね?」



 サクラはお菓子作りの準備をすると言って台所に消えた。その先でガッツポーズを思わずしてしまう。

 そして本当にお菓子作りの道具の準備を終え、カナタを台所に呼んだ。



「今日は何作る?」

「アップルパイ…ケーキ…シュークリームも作れるし、ロールケーキとかも良いかも」

「じゃあ…ドーナツにしようか」

「もっともっと甘いのがいい」



 サクラはドーナツを買ってきても結局ハチミツをかけてしまう。なお、ホットケーキなども物凄い量のハチミツや砂糖をかけるのだ。



「ふふ、本当に甘いの好きだね。…プリンは?」

「プリン!」

「じゃあプリンで」



 二人はプリンを作った。

 この世界はプリンは作れはするが、広く知られてはいない。…アリムとミカがパフェなどに使用するまで知られなかったのだ。そんなことはカナタとサクラは知る由もなきが。


 

「よし、じゃあ後は冷やせば完成ね」

「ん。冷やして時間は1時間…かかるか、かからないかだけど…もう買い物行く?」

「そうね…食べられる時間になったら叶の瞬間移動で帰ってこればいいんだもんね。そうする」



 二人は外に出かけた。

 未だにサクラはカナタの腕にしがみついている。

 そろそろ、カナタの方が慣れつつあるようだ。


 街をしばらく二人で歩いていたが、カナタはある店の前で足を止めた。服屋ではない。



「サクラ、服屋寄る前にちょっと」

「んー? そこって素材売ったりする店よね? 」

「そうそう。まずはお金をね」



 二人は魔物専門店に入った。

 そこでカナタは宝箱から出てきたSランクの魔物の素材を幾つか売った。

 占めて約412万ベル程度になった。


 Sランクの魔物を売った商売相手…ということで、店にはかなり強く会員登録するように迫られたが、カナタはキッパリと断る。



「さて4120万円手に入れたからね!」

「そ、そうね…」

「桜、好きな服買おうよ。1着100万円とか、テレビで見るやつみたいなの! いくら高くても大丈夫だよ」

「そんな高いのは…」

「そう? でもすっごく魔物の素材あるし…。無駄にならない好きな物を買う…くらいの豪遊しても大丈夫だと思うけど?」

「うーん…うん」



 そういうことで、サクラとカナタはこの国で一番高級な服屋へ来た。

 どれを鑑定してみても高級~超高級、一番高い服では宝級のもある。もっともその服は1着67万ベルというとんでもない値段だった。


 なお、この店は普通ならサクラとカナタのような子供は保護者を連れずの入店を拒否している。

 また、一見してお金が無さそうな人も丁寧にやんわりと追い出すような店だった。

 しかし、この二人は追い出されない。

 この店の店員、皆、サクラの付けている首飾りを即座に鑑定したのだ(鑑定名人以上の者が居ないため、伝説級ということまではわからなかったようだが)。


 

「桜、欲しい服見つかった?」

「ううん。…そう簡単に決まるものじゃないわ。女の子の服選びは長いんだよ?」

「知ってるよ。でも桜って今までおばさんに服買ってきてもらうタイプの人だったじゃん。自分で選べる?」

「あぅぅ…ちょっと…店員さんに頼っていい…かな?」

「はは、そうしようか」



 カナタは、入店した時からずっと付いてきてた店員さんに尋ねる。



「あの、この娘に合う服を選んで貰えることってできますか?」

「はい、お任せ下さい! えーっと…お客様、少々、お顔などをよく見せてください…」

「あっ…はい!」



 サクラはその店員さんの方を向く。

 その瞬間、そのエルフの店員さんは数秒の間、何か雷が落ちてきたような顔をしてから止まってしまった。


 すぐにハッと意識を取り戻すと、二人にこう言った。



「あっ…あの! 今、当店一のアドバイザーを呼んできますので、少々お待ちください!」



 それは何処か、まるで宝石を見るような目であった。

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