第310話 二人のお休み (叶・桜)

「あれ、叶。今日はダンジョン行かなくていいの?」



 ソファの上で毛布にうずくまって、動こうとしないカナタにサクラはそう訊いた。



「んあ…いいのいいの。今日はお休み。鍛冶屋さん…おととい、あともう1日かかるって話てたから」

「なら、その分ダンジョンに行けば?」

「えーっ…疲れた~行きたくない~」



 カナタはたまにこうなることがある。

 普段、頭の中で先を見据えていく通りのパターンを考えながら行動、発言しているカナタには『丸1日休める』という日があった場合、その反動としてその日中、ダラけてしまうことがあるのだ。

 

 サクラはカナタのそれをよく理解していた。

 ダラけてしまうと言っても、遊びに誘えばのってくれる、いわゆる『働きたくない』というだけの状態であることも。


 なお、二人はすでに目標までの転生を13回終え、残りは1回と1周分だけとなっている。

 1周だけ残したのは、新しい武器の試しをその周回でするためだとカナタはサクラに説明している。



「そっか…今日はダラける日なのね」

「うにゃ…」

「ね、叶。朝ご飯できてるんだけど」

「……食べる」



 叶はのそりのそりと毛布からでて、テーブルに並べられたサクラのベーコンエッグやサラダを頬張る。



「うま~…」

「ありがと。今日はどうするの?」

「1日ダラダラしたい……何か付き合ってほしい事あるなら、言ってね」

「今のところないから…あとで考えるね」

「うにゃ…うまっ…」



 朝食を食べ終わったカナタは、また、ソファに戻る。



「ねむい」

「……お昼寝するの? まだお昼じゃないんだけど。ね、ね、遊ぼ」

「いいけど何するの?」

「紙とペンとハサミで将棋盤と駒を作るから、将棋」

「いいよ」



 サクラは器用と速さに補助魔法をかけてからカナタからもらった紙とペンで将棋盤と駒を描いた。



「じゃあやろう。私、先行ね」

「ん。じゃあどうぞ」



 二人は結局、10戦ほど将棋を行った。

 その結果。



「全敗…。叶って本当、オセロも将棋も強いよね。私、クラスで将棋で勝てないの、叶だけなんだけど」

「ふっふっふっ…まあね…。次にやりたいことある?」

「……じゃあお菓子作ろう。今日はお店じゃなくて」



 そのサクラの意見により、二人は果物のタルトを作ることにした。

 二人でその材料を買いに外に出かける。

 その外に出ている間は、カナタはいつも通りのしっかりものをしていた。


 帰ってきたころ、お昼時に近い時間になっているだろうと予測したカナタはいつもと違った昼食を作るための材料も買った。



「強力粉と薄力粉…? 何作るの?」

「中力粉にして、うどん作る。この世界には魚醤はあるし、汁も作れるから」

「久々の日本食かぁ…。いいかも」



 とうわけで、カナタとサクラはスキルを活かし、うどんを自作して食べた。

 3食3日はうどんで大丈夫なほど大量につくり、保存用も作ったようだ。



「うどんってこんなに美味しかったっけ?」

「スキルもあるし、久々に食べるからってのもある」

「確かに」



 この世界には蕎麦粉もあるので、そのうち、蕎麦も打とうという話をしたあと、しばらくしてから今度はフルーツタルトを作り出した。

 これも大成功した。


 3時になり、そのタルトを二人で半ホールずつ食べる。それにちょうどいい大きさに作ってあるのだ。



「おいしいっ! ね、叶! 明日からケーキとかも自作しない?」

「ごめん、それは流石にめんどくさい」

「むぅ…。ならたまには?」

「たまに…それなら良いよ」



 タルトを食べ終わった二人。

 今度はお昼寝をする事になった。

 本来のカナタであれば、ここでゲームをすることを選ぶのだが、電子ゲーム器がないこの世界ではお昼寝になったのだ。



「じゃあ桜、悪いけど…夕飯できたら起こして」

「ん、わかった。おやすみ」

「おやすみ~ぃ……」



 サクラはカナタが寝たことを確認すると、ペンと紙を取り出し、そのカナタの、よく見なければ女の子と見間違えてしまいそうな寝顔を丁寧に丁寧に描き始めた。

 


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「おはよう、叶。夕飯だよ。今日はビーフシチュー」

「ふぁぁ。おはよ。ありがと」



 サクラは今日の出来事を至福に感じた。

 存分に遊び、絶品のうどんやスイーツを食べ、カナタの寝顔を好きなだけ自分の満足のいく画力で描き続け、妻のように夕飯の支度や起床を手伝う。

 本当に楽しかった。


 カナタはビーフシチューを食べる。



「んーっ! おいしい」

「えへへ、良かったー! 1人1回だけならおかわりもできるからね」

「ん、わかった」



 おかわりもして、ビーフシチューを堪能したカナタは風呂に入る。

 そしてその間、サクラはいけないことだと思いながらも透視で覗いた。


 そして時間は流れ、就寝となると、サクラはカナタに抱きつきながら眠るのだ。


 カナタはその幼馴染が眠るまで、普通のその同年代の女子より少しより成長している身体を押し付けられてるのに対し、雑念を払いながら30分過ごす。


 サクラが眠ったのを確認すると、カナタは瞬間移動でソファまで移動し、やっと眠りにつくのだった。



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 翌日、午後3時頃、カナタとサクラは鍛冶屋に呼び出された。



「できたぜ…あいよっ!」



 鍛冶屋はその剣と槍を店の奥から持ってくる。


 まずは鑑定。

 その結果、国宝級だということがわかった。

 そして見た目…光の角度によって緑色に光る黒い柄の槍と剣。

 刃は二つとも銀色と共に淡い水色に輝いている。

 装飾も素晴らしかった。



「はぁ…っ! 我の気持ちが昂っていくのがわかる! ああ…あああっ! 最高の一品だ…すっばらっすぅいっ!」



 そう言いながらカナタはその『緑光黒蟻獅子の無双斬槍』を頬ずりしたり、つついたりしていたところ、刃の部分を触れてしまい血が出てしまう。



「あ…痛っ」

「ちょっと…もう…なにやってるのよ」



 すぐにサクラはカナタに回復魔法をかけて傷を治す。



「てへ。…とにかく、ありがとうございました」

「おうよ。またなんか作って欲しかったら言いな!」



 カナタは即金で鍛冶屋に、サクラが知らない間にダンジョンで手に入れた魔物の死体やアイテムを使って得た金のうちから計350万ベルを払い、店を出て瞬間移動でダンジョンへと向かった。

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