第278話 デートもどき -1- (叶・桜)

「(…見られた…こんな露出が多い格好、叶に見られてた…。この肩出してるのは露出してない方だったんだ…。このくらいだと思ってたのに…。通りでやけにスースーすると思ったのよ。…見られたの恥ずかしすぎてちょっと強くあたっちゃった。叶は変態なんかじゃないのにぃ…。あぅぅ…謝んなきゃ…。許してくれるかな? 怒ってるよね、きっと…)」



 自分が先ほどまで来てた服に顔を埋めながら、下着姿のままサクラは独り言を呟いていた。



「桜…遅いけど、どうかしたの? 何かあった? 目が見えるのは久しぶりだから…クラッとしてるとか…」

「あっ…な、なんでもない! ちょっとお風呂とか見てただけ!」

「そうなんだ、良かった」


  

 脱衣所の扉の前でカナタは一人、ホッとしていた。

 一方、サクラはさらに罪悪感が湧き上がる。



「(どうしよ…私、最低だ…。そもそも叶は私が何を言っても特に怒ったことは無い。いつも一方的に私が酷いこと言うの…! どうしよ…どうしよ…仮に顔が良かったとしても、こんな性格じゃ…私…。一瞬でも叶と付き合っても良いんじゃないかって思っちゃったのが恥ずかしいよ…。やっぱり叶には私なんかじゃなくて、もっと相応しい、顔も性格も良い人がそのうち……)」



 再びサクラは服に顔を埋め、独り言をしだした。

 カナタはサクラの安否を確認してから数分経ったのにまだ出てこないことを心配している。



「桜…? 本当に何にもない? 大丈夫?」

「えっ………ああ、うん、大丈夫だから…もう少し待ってて?」

「わかった、でも何かあったら言ってね」



 カナタをこれ以上心配させてはならないと、サクラはさっさと元の服に着替え、脱衣場を出た。

 出てきたばかりのサクラの涙と真っ赤な目を見て、カナタは驚いた。



「ど、どうしたの!? 本当に何も無かったの?」

「う、うん…大丈夫、大丈夫だから…。その…目が見えるようになったのが嬉しくて…」

「なんだそうか…。ショックでとかじゃないんだ。…でも一応ゴメンね、桜」

「ふえっ…?」



 突然謝り出したカナタにサクラは困惑した。

 悪いのは自分だとサクラは考えていたゆえに尚更、驚きが増す。



「えっと…デリカシー無かったかも、俺」

「あ…う、ううん。いいのよもう別に。よく考えたら見た人が叶くらいで良かったわ。だって、そもそもお互い

の裸だって何回か…」

「それって10年近く前の事だよね?」

「まあ、そうね。…とにかく、この事についてはおしまい。変態は言い過ぎちゃった、こちらこそゴメンね」



 サクラはなんとか謝れたことに安堵した。

 裸で一緒に過ごしたことがあるという話は蛇足だったかもしれないと考えたが、なんとかなったので良しとするようである。



「じゃあローキスさんの所に挨拶に行こうか。それから街を一緒に見て回ろう」

「あ…まって!」



 サクラは自分の手を軽く握り、瞬間移動しようとしたカナタをとめた。



「どうしたの?」

「あのね、先に街を見るのじゃダメかな?」

「ん…まあ良いよ、そうしようか」



 サクラの考えはこうだった。

 先に城に寄ると、この街を見て回るのにも兵隊等がついてくる。ならば、どうせなら叶と二人だけで一緒に、叶と居てもいいこの期間にデートみたいな事をしてみたい…と。

 彼女にとっては、ちょっとした我儘な贅沢だった。



「カフェとかもあるからね…。どうせなら、昼食や夕飯を外食ですませるのも良いかも。となると城に行くのは明日でいいかな」

「あっ…あの、叶。夕飯は今日は私が作りたい! ほら、昨日は目が悪かったせいで作り損ねたし」



 サクラはチャンスを逃さない。

 本気でこの叶と一緒に居られている間を充実させたいと考えたのだ。

 サクラの頭の中には、地球に戻れたらそれ以降、叶には近づかない方が良いのだと考え始めていた。

 だから、今のうち…と。



「そうだね。そっかぁ…ふふ、楽しみにして良い?」

「うん! 楽しみにしてて。ずっとお世話してもらった御礼と言ってはなんだけど……全力で張り切って作るから」

「わかったよ。じゃあそろそろ外に行こう。本当に日本とは全然違うんだぜ? 海外旅行した気分になるはず」

「そうね」



 二人は瞬間移動を使わずに外に出る事にした。

 その際、目はもう見えてるはずのサクラが何故か腕を絡ませてきたため、カナタは驚く。



「桜? 目はもう見えてるよ?」

「えーっと、そうね。でもこれに慣れちゃって…。しばらくはこんな感じだと思う。あっ……嫌ならすぐに離すわよ」



 サクラは慌ててカナタから腕を解いたが、しかし、その手は今後はカナタから掴まれた。

 端から見たらイチャイチャしているようにしか見えない。



「まあ、こういう感じで少しずつ慣らしてこう」

「そ…そうね! 少しずつ慣らしてこう、ね…」



 お互いに顔を直視していないために、お互いが顔が赤くなっている事に気がついていない。

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