第187話 戦争後の帰宅 m-2

 私は慌てて有夢に続いてベッドを降りて、後ろから抱きついた。

 有夢の動きは驚いたようにピタッと止まった。



「やだ……どこ…行くの?」



 私は涙を流しながら、有夢にたずねる。

 


「俺…ちょっと調子のっちゃったみたい。ミカ、驚かせてごめんね」



 それは至極穏やかな声だった。でも、有夢は私から離れようとしている。

 やだ、どこにも行かせない。有夢は私のもの。

 私から離れちゃダメ。



「嫌……じゃ、なかった……もん。嬉しかった……よ?」

「………無理しなくていい」



 有夢の優しい言葉…私の心には刺さらない。

 違うから、無理なんかじゃ…ないから。



「無理じゃない、このわからずや! ちょっと驚いただけっ」



 私は体撃スキルの力を使って、有夢をベッドの上に投げ飛ばした。

 そして、上から力を込めて覆いかぶさる。

 こうでもしないと、有夢はどっか行っちゃう。

 いっそのこと、手錠や拘束具をどこからかでも用意して動けないようにしてもいいかもしれない。

 


「ミカ………?」

「バーカ、バーカ、バーーカ! 私の気も知らないで、嫌がってるんだろうって勝手に勘違いしちゃって、ほんとバカ」



 有夢はキョトンとした顔をしている。

 私の顔はきっと、涙でくしゃくしゃなはず。

 あんまり見てほしくはないけれど、今は仕方ない。



「えっと…その…」

「本当にさ、アリムじゃ無くなった途端に女心わからなくなるのなんなの!? 私がどれだけあんたの事が好きか……わかんないの?」



 私はつい、本音を言ってしまった。

 好きだってこと自体は何回も言ってると思うんだけどね。


 そうすると有夢は私の身体を抱きしめ、ベッドの上で半回転した。攻守が逆転。私がさっきまでしたみたいに、腕も抑えられてる。口から心臓が飛び出そう。



「じゃあ、こうしてもいいんだな?」



 すると有夢はまた、私の唇に唇を重ね、舌を入れてきた。

 腕を腰と後頭部に回され、さっきよりも強く重なっている。


 私の口の中で音を立てながら有夢の舌が動いてる。


 私は上に居る有夢に抱きついて、さらに有夢の舌に自分の舌を絡めてみた。

 そして、私と有夢は互いに目を見る。

 恥ずかしさ?

 そんなもの…残ってはいるけど……どっか引っ込んじゃった。


 

「っ………………」



 しばらくして…体感じゃかなり長かったかな。アリムは私の口から舌と唇を離した。でも、有夢の口と私の口は糸が繋がっていた。ふふ…幸せ…。

 これで有夢は私のもの。私も有夢のもの。



「ミカっ……!」



 有夢は私をギュッと抱きしめる。

 私もそれに応えてあげる。

 


「有夢っ……大好きっ…」

「あぁ、俺も大好きだ。ミカ…だからもう、どこにも行かないでくれ」



 私が…どこかに行く…の?

 それはない、それはありえない。

 だって地球にも帰らないって決めたし、地球に帰る以外で私が有夢の元を離れるなんてことは想像できない。



「私は……どこにも行かないよ? 行ってもいないよ…どうしたの?」

「あ、あぁ、実は」



 有夢は話し出した。

 私がハルマゲドン……? とかいうなんか聞いたことあるような名前の技で殺されたときの心境を。


 自分がどう思ったか…復活させれるとわかっていても、私が死んだことに対してどれほど悲しんだかを教えてくれた。

 そして、私が有夢が死んだ時の気持ちを理解できたと言ってくれた……。


 

「俺は…あんな体験二度としたくない、それに、この世界は何があるかわからない。死ぬ以上の別れがあるかもしれない。そんな時に…俺は後悔したくないんだ」



 有夢は私を抱きしめるのをやめ、立ち膝をした。

 そして私の寝巻きに手をかける。



「だから…な。ミカさ、浴場で_______って言ってたよね?」

「う…うんっ__!」



 覚えてたんだ、その言葉。

 すっかりアリムはウブすぎて、その言葉を聞いただけでショックを起こして、忘れたと思ってた。違うんだ。忘れたフリだったのかな?


 とにかく私と有夢は___



_____

____

__



 朝だ。

 外で鳥が数羽、チュンチュンと、元気にさえずっている。


 ベッドの上がすごいことになってるなぁ…。

 私もアリムも寝相がいいから、こんな事には普段、ならないんだけど。


 結局昨夜は楽しかった……じゃなくて、一線は越えなかった。

 さすがは有夢と言ったところか。

 有夢はそういうのに厳しいからねぇ…不純な行為とかさ、実は嫌いなの。


 じゃあこれはなんなんだって言いたくなるけど。

 

 私達の見た目が12歳っていう子供だから…って理由じゃないんだよ、有夢はきっと、私達が16歳のままでも最後まではしなかったと思う。


 うーん……これは私を大切にしてくれてるって見ても良いんだろうか?

 ていうか、よく考えると私達がいつもイチャイチャしてるのの延長線上でしかない?

 いや流石にそれはないよね…あんな事とかこんな事とかされたし、12歳がやるようなことじゃないことも結構したし…。


 時計をふと見ると、朝の8時20分。

 ちょっと急いで準備しなきゃ。

 今日もお城に行かないと。


 私は寝間着を着なおしてから、普段はしない朝シャワーを浴びる。


 シャワーからあがったら朝ご飯の準備もする。ご飯と…お魚と…お味噌汁と…卵焼き。あと焼き海苔。

 そして、私は有夢を起こすため、身体を揺すってみた。



「ん……うぅ」



 起きない。

 というわけで、私は昨夜、散々したにもかかわらず、有夢の唇にキスをした。


 有夢は目を覚ました。



「うぁ!? ミカっ………おおおおおはよっ!」

「うん、おはようアナタっ! ご飯出来てるよ」



 有夢の顔は途端に赤くなる。

 私もつられて、赤くなった気がする。



「あ…アナタ…って」

「だってそうでしょ? 私とずっと一緒にいてくれるんだもんね! 昨日そう言ってたもん」

「ん、あぁ、そうだよ」



 照れ隠しに乱れた髪をいじり、寝間着を着なおしながら、有夢はそう言ってくれた。



「えへへへ、あ、ご飯……」

「待ってて、着替えたら食べるから」

「あ、じゃあ私も」



 私と有夢は着替えた。瞬速で。

 私は有夢が用意してくれた秋用の服の中でさらにちょっとお高く見える奴を。

 有夢は勇者宣言の時に着た服を。


 そして有夢は…アリムになっていた。



「有夢…アリムに戻ったの?」

「うん、そうだよ。普段はこのまま。これがボクの基本形態」

「じゃあ有夢に戻るのは何時なのよ」

「気が向いた時…かな?」

「もぉ…ほとんど性別逆転してんじゃないの? まぁ、アリムも可愛いから好きだし私は構わないけれど」



 そうして、私達は朝食を食べ、主に髪などの容姿を整え、普段はやらない朝シャワーを浴びたりする。



「そう言えば…昨日…なんでお風呂では何もしなかったの?」

「まぁ…それはお風呂はゆっくりしたかったから」

「………はぁ」


 

 何はともあれ、準備を終えた私達は、ゾーンを展開して急いでメフィラド城へと向かった。

 今日は…国王様が国民たちに大事な話をするんだ。


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