第24話 ライバルの屈折した考え・苦悩 3
こんな不可思議な現象を見せられても、幻悟は驚きもせず冷静である。その後で宣言する。
「いくらやっても無駄だぞ、玉野。その理由は俺が勝ってから教えてやるよ」
「減らず口をたたくのもそれで終わりだ、これなら避けられまい」
玉野は水の塊の他にも、幻悟を殺す気で言霊を使って周囲を全体的に焼きつくさんばかりに燃え広がっていく炎を出したり、凍死する程冷たく大きな氷柱を造り出したりする。
それでも念のためとばかりに、全身に穴をあけんばかりの無数に飛ぶ機関銃の弾だけを具現化するなどして、そのすべてを使って幻悟を狙い撃ちの標的にする。そこまでの力が集約された影響で、地面は温度の変化等についていけずに大きな亀裂のみを残した。幻後もここまで徹底的にやられてしまっては、存在すらも無になっていただろう。当たっていたらの話であるが、
しかし、幻悟はどこに行ったのか? さっき幻悟がいた地面があった場所はすでに謎の大穴へと姿を変えているというのに。その答えはすぐに幻悟の言葉によって明らかにしてもらえるだろう。
「琴葉幻悟、俺様をなめすぎたな。むっ、そ……そんな馬鹿なっ」
玉野は冷静に分析したつもりだった。そのはずが、いるはずもない人物を見つけて口を大きく開ける。その原因はどういう訳か、近場の岩陰から幻悟が現れたからである。玉野は声を震わせて幻悟に訊ねるのがやっとだった。
「おっ、お前は跡形も残さずこの世から消滅させたはず…………!」
玉野の言葉に、幻悟はもの凄く心外そうな顔をして答える。
「その考えに根拠でもあるのかい? 忘れていたのか、玉野君。俺の言葉力の事を」
「そ、それでも確かにお前が攻撃の雨を受けて跡形も残らなくなっていく様を見ていた気がするんだが」
幻悟は玉野のうろたえようをとても楽しんでいるように見える。実際に楽しんでいるようであるが。彼は玉野の為にと、説明をし始める。
「俺はさっき、言葉力で全ての攻撃を遮断したのさ。その方法を解説するために攻撃の三大柱を教えてやるよ」
幻悟は三本の指を立てる事で表現し、そして話を続ける。
「攻撃という物は第一に威力が大事だ。それがなければ何の意味もなさない。そして第二に効果があがる。無かったとしたら、直接手や足で攻撃するのと大差ないと思わないか? そして最後には範囲(または射程)の問題がある。届かなかったらいくら威力や効果がある物でも全く使い物にならないと考えられるだろう」
「き、貴様は何が言いたい?」
幻悟の回りくどい説明の仕方に、玉野はイライラする気持ちが増加してくる。
遂に説明でわからない事が出てきてしまった事で玉野市斗は怒鳴ってしまう。幻悟はそんな声を無視するかのように、何事もなかったのかのごとく終わりまで説明を続けていた。
「おや、玉野君。俺の今まで説明してきたことだけじゃ、わかりづらかったかな? 文面通りの意味でいいんだぜ。じゃあ特別にゆっくりと言葉力の使い方を見せてあげるよ」
幻悟は玉野に自分の手の内を見せ始める。彼と対等に小細工なしで、勝負したいがための行動だ。幻悟は木材にライターで火を付けて、木材を燃え上がらせる。すると、火は木材を一瞬のうちに飲みこみ、勢いを増していく。その時間毎に大きさを肥大させていく炎を幻悟は言葉力使用で鎮火を成功させた。火に向かって幻悟が
「ここは無酸素状態が続く空間」だとつぶやいただけで火が少しずつ確実に消えていったのだ。
「言葉力、実に奇っ怪だ。言葉一つで使う道具もなく、火の勢いを無に出来るなんて」
忘れられていたわけではないが、この時になってようやく人質の小海成人の妹である奈美が意識を取り戻す。それで奈美が偶然、戦闘中の玉野の方に目を動かしてみると、蛇に睨まれた蛙みたいに身体を震わせることしかできなかった。それは玉野の目に憎悪が秘められているように感じられたからに他ならない。でも、希望もその時に感じていた。
幻悟が玉野との戦いで優勢に立っていたからだ。
「玉野、今までの説明で理解したはずだ。どうして俺が傷一つなく、この場にいる事が出来ているのか分かったよな? つまりは、氷柱の効果(凍結する温度の変更で常温=気体)に変えたり、範囲を変化させたりしたということだ。あの飛び道具も同様に考えてみるといい。射程を短くしただけなんだからね」
幻悟は自分が無傷な理由を隠す事なく説明し、今度は幻悟の方から攻撃を仕掛けようとする。だが、その前に幻悟は奈美に対して安心感を持たせるのを忘れなかった。
「奈美ちゃん、心配することは無いよ。すぐ終わらせるからね。玉野! 今度は俺の番だ」
幻悟が奈美に優しい言い回しの口調で彼女に囁きかけると、それだけで彼女は安心して待っていられる気持ちになった。
「くっ。待……待て、琴葉幻悟」
玉野は表情こそ努めて変化させないように気を配っていたが、内心ではかなりあせっていることが彼の妙な行動でありありとわかる状態だった。それ程に気が動転しているように見えたのだ。そこで玉野は何とか自分を優位に立たせようとあたりを見渡す。そして近くの草影に人の気配を見つけると、それが広長道也と小海成人だということが姿を確認した事でわかった。
「お前にいい事を教えてやろう、琴葉幻悟。この話は攻守交替する程に重大な話だ」
幻悟は当然何も知らないので、玉野が苦しまぎれの言い訳をしているとしか思わない。
「馬鹿な事を言ってるんじゃないぜ、玉野。俺の気を散らそうとしているなら無駄な事だ。おとなしく勝敗を決めさせてもらうぜ!」
玉野は幻悟の注意をそらそうと必死で、幻悟を動転させるような話を思わせぶりな口調で話し始める。
「すぐそばで広長と小海が隠れていると言ったらどうする? 俺は勝つためなら手段を選ぶことは無いぞ。どんな行為にだって手を汚してやるさ」
しかし、そんな驚き発言をされたにも関わらず、幻悟はまったく動じる素振りすら見せない。幻悟に自分が嘘をついていると思われていると感じた玉野は、勘違いしたまま逆上して道也と成人が隠れている草陰を狙って攻撃する。もちろん言霊を使った攻撃だ。
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