第15話 幻悟君と中学校

(さっきまで道也君と話していた人物、幻悟君にそっくりだったな。もしそうだったら奈美にも教えてやらないとっ)

 幻悟・小海兄妹・道也の三人ともがそれぞれに今日の出来事を胸に秘めて一夜を過ごした。すっかり春めいた陽気になってきた次の日、幻悟はかなり久しぶりに学校に行く予定を研究所社員の人達に好意で学校にて書類作成してもらった。幻悟にとっては中学校への初登校だ。


「研究所の皆さん、期待せずに学校を楽しんできます」

「ええ、気をつけてね。あなたは病気で長期入院していたとの作り話を巧妙に、先生方にお話しして久しぶりに学校へ来たという設定にしてあるから」

 幻悟は研究所最高責任者の美奈子所長に見送ってもらい、ついでに中学校までの地図を手渡されたのでそれを片手に出かけることにする。

「俺の身に何か有りそうな事故やけがをする可能性のあるハプニングがあったとしたら、俺を避けるようにしてくれ!」


 幻悟は言葉力を発動させるために小声で自動危機回避ができるようにする。これは使い方によっては良い方法だ。それによって、幻悟が通る道には車一台も通れなくなる。幻悟の≪言葉力≫でその道を通ろうとした運転手は得体のしれない不安感に襲われたり、特に見えない力で通れない・最初からここに道はなかったと思わせるなどさまざまだ。


 そのおかげで幻悟は遊歩道のど真ん中であろうと堂々と地図を広げて歩いていられるのである。だからといって、道路を一人占めしたりしないが。そんな時、幻悟が幻悟がこれから通うことになる学校の女生徒の制服着用の女の子が横道から現れた。突然の事で幻悟はまったく対処できずに女の子ともろにぶつかる。

(しまった! こんな思いがけない事故は予想外だった。予想外の出来事には『言葉力の効果』は発揮されない。俺は力の使い方もまだまだだな)


 ぶつかってしまった女の子は小海成人の妹、小海奈美であった。幻悟は思わず顔を隠す。

(この子は奈美ちゃん!? まずい、記憶はないだろうが俺は悲観的な表情になってしまう)

 幻悟はまだ事実を知らされていないが、小海兄妹には幻悟のことを忘れないためのお守りを渡されているため、彼を忘れていることはなかった。奈美は目の前に現れた恩人を見ながら葛藤かっとうする。


(恩人の幻悟さんじゃない。あのときのお礼を言いたいけど今は我慢ね)

 幻悟・奈美の二人ともがそれぞれの思いを胸に、しどろもどろになりながらその場を去ろうとする。

「ごっ、ごめんなさい。ちょっと急いでいたものだから」

「いやっ、こっちこそ。前方不注意だったのは俺のせいだし」

 幻悟と奈美、二人は気まずい雰囲気から逃げるようにそれぞれ違う道に進む。



 もちろん違う道を通ることにしたのは幻悟の方だ。それでもこの道から通う道がないわけではない。ただ遠回りなだけなのだ。前を歩いている男生徒の一人であろう人物の一人が幻悟と同じ制服を着ているという事がそれを物語っている。


 さて、その頃には奈美がすでに中学校に到着していた。そして兄である成人に幻悟が学校へ来ようとしていることを伝える。

「お兄ちゃん。私、幻悟さんに会っちゃった」


「何だって!? 僕達が彼を覚えているとわかる素振りなんてしていないよね?」


「うん、それは大丈夫だと思うよ」


「それなら良かった。本当は僕だって幻悟君とまた気の合う友人として接したい衝動に駆られるけど研究所の真田雪さんから何の連絡もないし、社員の真田さんとの約束を破りたくないしね」


 成人は残念そうな気持ちを前面に押し出したかのようにうなだれる。奈美にも気持ちはわかる、自分も同じ思いだからだ。

「奈美、悪かったな。わざわざ教えてくれて」

「昔からこの日が来たら教えあおうって言いあったでしょ、気にしないで」


 小海兄妹=成人と奈美は小声で話し合い、とりあえず話がまとまったところで奈美は自分の教室に戻っていった。 成人がその後で一人たそがれる感じで幻悟に対する物思いにふけっていると、同じクラスの広長道也が声をかけてくる。

「よう、聞いたか? うちのクラスに転校生の男生徒が来るんだってよ」

 成人は物思いにふけるのもそこそこに、道也の話に耳を傾ける。

「へぇっ、そうなんだ。こんな時期にめずらしいね」


 教室で生徒達がだいたい席の近い数人の級友とざわついていると、担任の先生が現れて、手を叩いただけで教室内を静まりかえらせる。もうホームルームの時間になったようだ。それにしても手叩きのこれがベテランの技なのか、いや、むしろこのとても三十代後半に見えない生き生きとして若々しい女性の担任教師がこのクラスをうまくまとめあげているとも、生徒の大半から信頼されている裏付けになっているとさえいえるだろう。


「はい! みんな静かに。知っている人もいるかもしれないけど今日は転校生を紹介するわね」

 幻悟は担任の先生が話を終わらせたタイミングのいいところでドアを開ける。

「琴葉幻悟です、よろしく。皆さんに注意を一つ、俺を怒らせないようにっ。詳しい自己紹介は俺といい友達になってくれる人だけに話すよ」

 幻悟が自己紹介を終えると、担任の先生がわざわざ幻悟の経緯を生徒全員に向かって説明する。


「あら、意味深発言があったわね。それはおいとくとして、幻悟君はしばらく病院生活で学校に来れなかったの。彼も不安でしょうから皆も手助けお願いね」

 さて、この後2週間ほどは幻悟の勉強面→研究所で中学校の予習をすました。先生の重要点の話と雑談以外は退屈。休み時間も誰かと話しているという感じ。


 ちなみに初日~三日目位まで

休み時間には成人や道也もいるクラスで幻悟は他の一般生徒達の質問に答えていた。



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