第13話 小海兄妹、道也君と再会 ライバル登場!? もう一人の親友、道也君との再会(彼は覚えていないが)
彼は言葉幻悟、十三歳の中学二年生である。彼は生まれた時から不遇の人生を歩んできた。出生後から幼年期のしゃべり出した時に知った<<言葉力>>のせいだ。その言葉力によって、小学生のある時に嫌な思いを残しているのを覚えている。幻悟は自分の持っている<<言葉力>>で親友だった少年の妹を危険な目にあわせてしまったことを悔んでいるのだ。正確には事故が止められなかったことを気にしているのであるが。
「俺は孤独な人間、誰とも関わらず一生をすごした方が良い」
幻悟は心にもないことをつぶやいてしまう。すると、その言葉に反応して<<言葉力>>が彼を他人の目から見えづらくし始めてしまった。
「幻悟、そんな悲しいことを言うものじゃない。お前にもまた大切な友人が出来る、わかっているはずだよ」
幻悟は言葉力発動後、能力開発研究所という場所で育てられた。そこの主任である三田という人物に幻悟はいさめられた。更に三田は予言じみた言葉を発した。
「幻悟には三日以内に友人が出来る!!」
全く根拠のないことを白衣姿の三田は堂々と言い切る。そんな姿に呆れながらも幻悟は見つめていた。だが、三田にとっては確信があった。成人達小海兄妹が幻悟を忘れないように手を尽くした結果、成人達が幻悟を覚えているのを伝えていないだけだったから。
ふと幻悟は、また目覚めたときにこの場にいた驚きの心境を思い出した。あの時、幻悟は自分の存在なんて一生たっても生まれ変わることすら出来ず、永遠の苦しさを味わうのだろうと思っていた。しかし、 またこの世に戻ってきたので困惑したものだ。
幻悟はその時に優しく、研究所責任者の美奈子所長を筆頭とする三田・真田・沢本社員ら四人に事情を説明され、理解したのだ。幻悟はそのことを思い起こし、今を生きているという実感で研究所の全員に口には出さないものの、感謝したい気持ちでいっぱいになっている。
幻悟は今日がちょうど休日だったことを思い出し、外の空気を浴びに外に出てみる。空気のあまりの心地よさに思わず独り言が口から出たくらいだ。
「最初にこの世界に戻ってきた時は混乱のあまり暴れちゃったけど、やっぱり落ち着くな」
幻悟は快感を感じさせてくれている空気をもっと浴びていたいと散歩に出かけることにする。どこにでもありそうな銀行を通り過ぎようとすると、制服姿の道也が反対の路地から現れる。幻悟は反射的に電柱の後ろに身をひそめてしまった。
(何をやっているんだ、オレは? 彼は俺のことなんて覚えていないのに)
幻悟は自問自答していたが、彼の考えていた通り、幻悟と道也は目を合わせたが道也は幻悟のことなんて気にせず銀行に入っていったのだ。最も同年代の人物だとくらい思ったかもしれないが。
幻悟はむなしくなってきたのか、思い悩むのをやめ、銀行前を通り過ぎることにする。そして、幻悟が自動ドアの前を通り抜けようとして偶然自動ドアが開いた瞬間に銀行内からの怒声が外にまで漏れ聞こえてきた。
「俺らは銀行強盗だ! てめえら、手をあげろ!」
銀行にはまだ道也の姿もあった。両替していたらしく、両替機のお金を財布に入れている最中だったようだ。
「おい!! そこの両替している小僧! お前の金もこっちによこしな!!」
どこで入手したかわからないが、強盗は警官が持っているのと同タイプの銃で道也を威している。幻悟は無心で銀行内に飛び込んだ。
「ん? 新しい人質の登場か? また小僧じゃねえか、おとなしくここまで来な!」
強盗たちは嘲笑うかのように唇をつりあげて、語尾を強くして幻悟を呼びつける。
「おい、クソがき。早くこっちに来いって言っているんだよ」
幻悟はとりあえずおとなしく言われた通りにしているフリをする。
今の銀行内の状況を調べるためだそして人質にされているのは自分と道也の少年二人と子ども連れ一人・主婦二人と老人三人が捕まっているのかと幻悟は目だけで確認する。
「ちんたらやってんじゃねえ! 言っとくがそこの防犯装置は役に立たないぜ、昨日ここに兄貴と忍びこんでぶっ壊しといたからなっ」
銀行の行員を脅迫していた犯人はしびれを切らしたのか、銃砲を天井めがけて二・三発発砲した。その弾丸が照明に当たり、銀行内の一部が暗くなると人質達はざわめき出す。
「人質ども、黙ってろ! うるさくした奴は撃ち殺すからなっ」
強盗犯人達のドスが効いている野太い声で警告され、人質にされた人達はみんな血の気がひいたような顔になり、その場で震えている。道也も例外ではなかった。そこで初めて幻悟が動く。
「おいっ、そこの馬鹿な犯人ども!」
幻悟の人を小馬鹿にした態度に、目の前にいる犯人はもとより、銀行員にお金を袋の中に入れさせている犯人すらも激怒する。
「てめえ、口のきき方に気をつけな!」
「死にてえのか? 坊主!!」
犯人達を怒らせてしまうと命の危機にさらされてしまう恐れからであろう、人質たちは一斉に幻悟を止めようとする。
「犯人達を刺激しないで、謝って!!」
「そうよ、そうよ」
「なんまいだぶ、なんまいだぶ」
妙な場面で意見が合致している主婦達や、念仏すら唱え出し始めた老人さえいる人質の制止にあっても幻悟は態度を変えようとしない。
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