第9話 言葉の能力の正しい使い方と未熟さ故の失敗 特殊能力練習時期 2
そしていつもの帰宅路にある別れ道でさっきの話の約束をする。翌日の事、彼は気分的に早く成人と約束した待ち合わせ場所に来ていた。そこへ成人が自分の妹を連れてやってくる。
「やぁ、早かったね。もしや時間を伝え間違えたりしちゃったかな?」
「いや、それはないよ。ボクが気分的に早く来ようと思って来ていただけだから」
「そうだったんだ。それなら早速話をさせてもらって構わないかい?」
幻悟は今日の成人の様子をなんだかせわしなく感じた。でも、それはきっと気のせいだろうと一人ごちたりもする。成人がそれとほぼ同時に妹の紹介をしてくれた。
「幻悟君、紹介がまだだったね。この子がボクの妹で奈美っていうんだ。ごめん、あまりゆっくりできないんだ。外出許可をもらうのも苦労したし、外出時間も決められているから」
その奈美という名の少女は成人を手探りで確認して、すばやく彼の背後に隠れておどおどしている。
幻悟が何も見えない状態で相手の声のみの判断をするしかないその少女に警戒されてしまうのも無理はない。
「ねぇ、ナル兄ちゃん。誰とお話しているの? 新しいお医者さんではないみたいだけど」
幻悟はゆっくりとした足どりで成人の妹に近づいていき、やさしく問いかける。
「まずは初めましてだね。ボクはお兄さんの親友で幻悟っていうんだ、よろしくね。もしかして奈美ちゃんは目が見えないのかい?」
幻悟の雰囲気の感じから彼を信頼できると判断したその少女は、彼の質問にみるみると悲しみを
「うん、そうなの。私だってナル兄ちゃんの顔とか見てみたい! それに、どこまでも続く青い空や月明かりで
幻悟は奈美の告白してくれたおかしな点を指摘しつつ語気を強める。
「本当にあきらめる気かい? 奈美ちゃん。君の気の持ちようで道は開かれるはずさ。自分でそれを否定して道を閉ざしちゃいけないよ」
彼が成人の妹にちょっときつい口調で問いかけると、彼女が悲しみと怒りが混じり合ったかのような複雑な表情で応じてきた。
「もちろん私だって目の回復方法はあるはずだって信じ続けたい。でも目の専門家の人達でさえ、この目が視力を取り戻すことは不可能だって断言して来られ続けたんだもん! あきらめ出してもおかしくないって思わない?」
成人は幻悟に妹のことを託そうと決めていたのである。
しかし、彼の行っている方法で自分の目をどうにかしてもらえるのか不安になり、口を挟はさんでしまう。
「幻悟君、それで本当に奈美の目を回復とか出来るのかい?」
「成人、悪いけど黙っていてくれ。もう少しで奈美ちゃん自身の力を活用して回復の兆しが具体化するように出来るからな」
彼は親友の成人に自分を信じてほしいと念を押し、それから親友の妹を数秒間見つめた。そして幻悟は彼女が落ち着いた時を見計らって今までの非礼を詫びる。
「今まできつい物言いで
幻悟が成人の妹、奈美をプラス思考にしようとしたのは前向きな気持ちを思い起こさせるのに効果的だと思ったからだ。それからも幻悟が彼女の信頼を得るための努力をした結果、彼女が『病気に勝ちたい』との気持ちを再び強く持てたのも事実である。
「君の外への
幻悟の言葉を奈美は信じきれずにいたが、勇気を振り絞っておそるおそるゆっくりと目を開けようとして見た。すると、彼女にとって最高潮の感極まりを実感できるほど嬉しいことに、彼女の目線の先に二人の人物がはっきりと映し出される。
「見える、見えるよ。さわやかな感じの人がナル兄ちゃんで、その隣の頭が良さそうな人が幻悟さんなのかな?」
「奈美!? 本当に目が見えるようになったんだな? 正解だよ。それなら奈美がずっと知りたがっていた太陽や空の色も分かるんだな?」
「うん。私がずっと頭の中でイメージしていた光景とそっくり。ナル兄ちゃんの姿も私のイメージ通りよ。私が生まれたこの町はイメージ以上に景色が良いわ!!」
幻悟の<<言葉力>>によって彼女の目は完治した。彼は、特殊能力の使用によって奈美の持つ潜在的な自己治癒能力をひきだして【増幅】・フル活動させたのである。それは彼女の病気に対抗する組織を急激に増加させたり、調整したりして病気を治すことにつながるというわけだ。そんな中で、奈美が何をしているかというと、暗闇の世界しか知らなかったので明るい世界のすべてに感動していた。幻悟は彼女に今の心境を聞く。
「どうだい? 奈美ちゃん。気持ちが考えにも影響するってわかっただろう? これからは思いっきり楽しむといいよ」
成人の妹、奈美は幻悟に言われるまでもなく、あちこち動き回っては目の視力が回復して見える景色などの
「へぇ~っ、雲って色んな形をしているのね。遠くに見えるあの黒い雲・・アレが雨雲なのね。これが匂いしかわからなかった花ね、きれいだな。この花の色は私が初めて見る色として考えてもよさそう。それでこういうのが家ってやつなの? 大きさや種類だけでさまざまあるわ。本当に不思議な気分」
幻悟は、奈美が疑問に思っていることはすぐ教えてあげた。そうする理由は彼女が満面の笑みを浮かべて嬉しそうに何にでも興味を示すからだ。そこで自分の妹があまりにもはしゃぎすぎだと感じ始めた成人は奈美を注意する。
「目が見えなかったときは暗闇しかわからなくて大変だったはずだぞ? 今一度、車とかの怖さを思い出すんだよ。はしゃぎたい気持ちはわかる、でも気をつけるんだぞ!」
「は----い」
そんな成人の注意を彼女はいかにも理解したかのように返事をしたまでは良いものの、油断していたのか注意が散漫になっていた。
「色とりどりのキレイな花が反対側にある! 行ってみようっと」
奈美は反対側の道にある花畑を近くで見ようと自分の兄と幻悟が見ている前で道路に飛び出す。その時に運悪くトラックが曲がり角から現れて事故が起きてしまう。
「奈美ちゃん、危ない! 早く戻ってくるんだ!」
「え?」
彼女は幻悟の叫び声を聞いて声の方向に振り返ったが、目前まで迫っているトラックを見たときには悲鳴を上げる時間くらいしか残っていなかった。
「きゃあああ――!!」
「奈美~~~~~~っ」
成人は妹に危機が迫っていることを知った時、自らの防衛本能より先に自然と妹の救出のために体が動く。幻悟は少しの間のみ思考が停止していたが、自らの持つ<<言葉力>>の事を思い出し、それの使用で彼らを助けようとする。
「そのトラック、何でもいいから止まれー!!」
幻悟は<<言葉力>>の使用で事故を食い止めることに必死だった。この<<言葉力>>はもっと具体的に小海兄妹の安全を優先しなくては何が起こるかわからなくなってしまうのであるが、今の彼はそこまで頭が回っていなかったのである。結局、その<<言葉力>>はトラックの前輪タイヤの謎なパンクという形で現れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます