第5話 波乱の場に救いの女神? 過去編4
しかし、彼の親類たちは説得の言葉に耳を貸すどころか、全員素知らぬ顔で無視を決め込んできた。中には文句を言ってくるひどい人物もいる有様である。
「冗談ではない、私の家では到底無理だ!」
どう見ても
「私の家でもそんな余裕はないぞ」
今、発言してきた宝石を身に付けたスーツを身にまとっている初老の男性も同様である。幻悟を邪魔者扱いしているようにしか感じ取れない。
「どこも私の家に押し付ける気!? やめてよね」
どこにでもいそうなありふれた中年女性も露骨な叫び声をあげた。親類一同の視線が自分に向けられていると勝手に思い込んだからである。これでは話がまとまるはずもなく、気まずい沈黙ちんもくだけがこの場を包む形になる。
その沈黙に耐えかねてか「余裕がない」と言っていた初老の男性が声をあげる。
「しかし、どこかの家が引き取らねばっ」
「そういったあんたの家が引き取れよ」
「馬鹿を言うでない! あんな化け物じみた子どもは養えんわ、お主がやればよい!」
この口げんかは恰幅の良い中年男性と派手なスーツを身にまとっている初老の男性のモノであった。 それに呆れてか、彼の親類一同の中にいた三十代後半くらいの年の男性が初めて意見を口にする。
「おいおい、勘弁だぜ。多分あいつが自分の両親をどうにかしたんだろ!」
それをきっかけに彼の親類たちが我先にとばかりに言い争いを激化してきたせいで、誠実さがウリの警官はその場の収拾に精一杯になってしまった。その言い争いは止めることができず、延々と続く。そこへ別の警官から別にこんな報告が届いた。
「琴葉家の少年の里親になりたいとの女性が」
彼の親類たちの身勝手さに困り果てていた誠実な警官はあっさりとそれを受け入れる。
「よしっ、お通ししてくれ」
「かしこまりました」
そして、この会議室に『能力開発研究所』からやってきたという女性が現れた。その女性は途中から話を聞いていたのか彼の親類たちに非難の声を浴びせる。
「さっきから外にまで響く声でひどいことばかり言って。何ですか? その物言いは!! 早く私にその子を育てる許可がほしくなりましたわ。あなた方! この子を保護できない理由をお金にモノをいわせてどうにでもするのですか?」
女性はこめかみに手を当てて頭を振った。
「好きにして頂いて良いですわ。でもこの子の養育費くらい出してもらえるはずよね?」
いきなり現れたこの女性の言葉に彼の親類一同は黙り込むしかなかった。全員が図星をつかれたようだ。
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