第2話 プロローグ 過去編1

 その噂を流した張本人の何者かは素知らぬ顔で彼をおとしいれようとしてくる。

「君が有名な言葉力というものを持っている子だね? 私にもその恩恵を授けてくれるか」

 幻悟少年は疑うことをしたくないので素直にその人物に返事をした。その人物も心の奥底にあるどす黒い陰謀いんぼう微塵みじんも見せないようにして、大人の見本礼儀を披露ひろうするフリで彼を信用させる。

「まぁ、いいですけど……。あなたは僕に何をしてほしいのですか?

「そうだな、このかわらとかを言葉の力とやらで割れるところをみせてもらえるか!?」


 彼はただ、その人物の前で言葉による特殊能力をみせただけなのだ。だからこそ彼に非があるってことは考えられないはずであった。幻悟少年は何者かに「町一番の権力者の家の瓦を割った」と噂を悪どく広められたので悪者に仕立て上げられたにすぎない(彼は被害者)


 何者かは町一番の権力者の家から瓦や物を盗んできた上に、犯人を幻悟少年の一家のしわざとうそをつき、疎そ外させるたくらみを成功させたようである。同じ町内の家庭は彼ら一家と疎遠になるしかなかった。それでも彼の性格を知っている町内の家庭の人物たちは彼がこんな真似をする子ではないとわかるので陰ながら支援してくれていたりしていたのであるが。


 騒ぎが沈静化するのを見計らったかのように幻悟少年にとって最悪な彼が関与する事件が重なる。


「明日は雨が降りそうな嫌な天気だなぁ」

 彼がつぶやいていた通り、この日は三日月が雨雲に半分以上隠された薄暗い夜であった。彼は家族との時間を過ごしている合間にちょっと外の景色を眺めに来ていたのである。なぜそんなことをしていたのかというと、なにかのきっかけでさっきまで幸せな家庭だったはずの雰囲気が台無しになる自分の両親のケンカが急に始まったからだ。


 そのケンカは壮絶で外にまで大声が響きわたっているほどであった。原因はこうだ。

「あなた、幻悟なんかどこかへ捨ててしまいましょう」

「何を馬鹿な……! 苦しい思いをしてまで生まれさせた子どもだろ。君と私にとって最愛の息子じゃなかったのかい?」

「確かに生まれてきた時はそう思っていたわ。でも、何? この子がこんな異形な子供だという事実は。 これじゃとても愛せないわ」


幻悟少年の母親は、父親の意見に耳を貸すことすらせず、必死の形相で烈火のごとく彼の父親を一方的に責め続けていた。

「あなたは近所の人達から我が家を化け物一家だなんて噂されてどう思っているの? 私は積極的に近所付き合いをしようとしていただけ。なのにあの子のせいで私までさけられているのはどういうことなの?」

「我が最愛の妻よ、落ち着いて考えてごらん。それに今は本人だっているんだよ! その話は二人きりの時に腰をえて話さないか?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る