#7「悪性鎌鼬後遺症」

 常人の理解を超える奇怪で異常な現象、人間はそれを妖の仕業だと言う。岐阜県飛騨地方では鎌鼬の言い伝えが残されている。三匹一組で一匹は人間を転ばし、一匹は切り付け、一匹は薬を塗り、ついた傷は薬によって出血や痛みがなく、人間が知らない間に切傷がついている。実際のところは赤ギレやヒビの類の正体なのではないかと言われている。現代でも気温が低く、乾燥した時季になると時々、鎌鼬の仕業で手先を赤くする人間が続出している。

 しかし、現代においては鎌鼬に似て非なる奇怪な現象が起こっている。ただ、一点だけ違う点は原因となる存在が妖怪ではなく、人間であるということだ。この現象は特に日本特有の習慣による風潮から起こっている。この国では『学校に行き、会社に通う』ルートが当たり前だとされている。皆、このルートに何の疑問も持たずにいた。しかし、この風潮こそが現象を引き起こす要因となっている。『学校に行き、会社に通う』。日本はこの当たり前のルートから外れてしまうと這い上がることが極端に難しくなり、必然的に格差が生まれ、上下関係が出来上がる。生物においても強者と弱者の二種類に分かれるが人間という生物は力のみの上下関係と違い、権力や性格といった純粋な力だけではない力によって上下関係が構築されている。その中で力とは別に優越感や劣等感という醜い感情が生まれてしまい、強者は弱者に対して優位な立場から言葉の暴力を発言してしまう。弱者は最初のうちは傷ついて塞ぎ込んでしまう。しかし、人間という生物はどんなに劣悪な環境下でも慣れていくもので暴言の嵐にも次第に耐性がついてしまう。どんなに暴言を吐かれたとしても気にならなくなっている。だが慣れてしまう代償に感情が奪われていき、最終的には自分という人格が崩壊してしまう。鎌鼬と違い、身体的にではなく、精神的に後遺症をもたらすこの現象は『悪性鎌鼬後遺症』というべきだろう。人間という生物は妖怪よりもよっぽどやっかいな存在だ。

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