自覚
第13話 自覚 01
◆
クロードは家に戻ると、就寝せずに思考を続けた。
まずはこれからのこと。
ルード軍がこのような強硬策に出たということは、今後も狙われる可能性は限りなく高い。さらに送り込んだジャスティスが戻ってこないことから、本格的な家への侵攻が始まるかもしれない。いや、かもではなくて確実にそうなる。
そのために、明日は学校を休む必要があった。
命を考えればこのまま逃げた方がいいが、逃げきれるとは思わない。
それならば、このまま居座る方が生き残る可能性が高いのでは、とクロードは考えた。
ただの一般人がジャスティスに襲われた。
その情報を隠すために、ルード軍は即座に交渉をするだろう。――『このことは間違いだ。だから、申し訳ないが黙っていてほしい。金銭的な保証もするから』――恐らくはそれらの項目を挙げられるだろう。
しかしそれはあくまで、ルード軍がクロードを『一般人』として扱う場合である。
そうなった場合、ジャスティスが破壊された、という事実から、何かの兵器を使用してジャスティスを迎撃した、と判断されるかもしれない。もしかしたら、ジャスティスを盗んだ、などとという濡れ衣を着せて来るかもしれない。もともと無理矢理に攻め込んできたのである。これくらいの裏工作はするであろう。
思考の結果、ルード軍に対し直接怒鳴り込みに行くのは、身柄を拘束され、弁明の機会も与えられないまま処刑される可能性が非常に高いとの結論だ。被害者はクロードにも関わらず。
そういう意味での『本格的な侵攻』である。
だが、ここでもし、クロードが堂々と家にいたらどうだろう。
命の危機に晒されたのにも拘らず残っているということは、ジャスティスを何らかの方法で破壊していて余裕を見せていると思われるだろう。そうしたら相手はクロードに対し、恐怖を受けない訳がない。また、どうやって破壊したのか、方法を聞き出そうとするかもしれない。そうなれば、まだ隙は生まれる可能性はある。
「……まあ、方法なんて俺も知らないんだけどね」
クロードはベッドに横になりながら、掌を電灯にかざす。
「俺が魔法で……なんて有り得ないしな。どこのSFなんだって。妄想の世界に浸る中学生の考えだな。それに、そうだったら俺は本当に……」
そこで一瞬言葉を止め、
「……阿呆らしい」
ゴロンと横向きになる。
口にすると認めてしまいそうで怖かった。
自分は違う。
そう思っていても、あの状況が突拍子もないその考えをどんどん後押ししてくる。
違う、とクロードが否定する。
すぐさま、あれは何だと疑問の声が湧き上がる。
――何もなしに、お前の思った通りにことが進むはずがないだろう。
――故にあれはお前の――
「……脳内会議が激しくなってきたな」
頭を掻きむしり、クロードは起き上がる。汚れた服を着替えるのが面倒臭かったので上半身裸で寝ていた彼は、台所で水を直接喉に流し込む。
「……ふう」
一息ついて、思考を再び開始する。
(さて、そろそろ軍部に教えてやろうか? ……いや、敢えてしないでおこう)
大きく息を吐いて、クロードは水を注ぐ。
(こちらが警戒しているということを態度で見せようか。あと、ルード軍が気が付くまで黙ってて、あわよくば他の人達がこの惨状を知る時間を貰おう。そうすればもう余程のことがない限り、しばらく命は狙われないと思う)
すぐにクロードが殺害されたり行方不明になったりしたら、確実に軍部の所為だと判明し、世論が舞い踊って折角の反ウルジスが反ルードに寝返るだろう。
(……いや、メディアが報道しない可能性は大きいな)
すぐ様その考えを切り捨てる。メディアは、ルードに握られていると言っても過言ではない。これは明らかに軍の失墜を招く出来事なので、考えてみれば報道される訳がない。一つメリットが減った。
(じゃあ通報してもしなくても変わらないかもな。さて、どうしよう……)
少し悩んだ末に彼は、
「……面倒くさいからいいか」
うつ伏せになり、眼を閉じた。
(もう寝よう……明日になったら、これらは全て夢になる。ジャスティスなんて来なかった。俺は攻撃なんてされなかった。死にそうになんてならなかった――)
「死……」
ふと、そこで思考が止まる。
思ってしまったのだ。
自分は、本当は死んでしまっているのではないか、と。
あの時、ジャスティスに潰されて、既にクロードの命は消えているのではないか。
だからこそ、彼が思った通りにことが進んでいるのではないか。
そう思考したクロードは、即座に自分の頬をつねった。
「……痛い」
二、三度、確認した。
痛覚がある。
きちんと、つねった時だけ痛い。
「生きている」
口に出して、認識する。
これは夢じゃない。
自分はまだ生きている。
「だから寝る。明日考えよう」
クロードはシーツを被る。
もう考えるのも飽きた。
明日のことは明日考えよう。
どうにでもなる。
どうにもならなかったら、その時は――
「……また考えよう」
そう呟いた彼の口から、瞬く間に寝息が聞こえて来る。
あれだけ胸騒ぎがして眠れなかったのに。
その表情は心なしか安堵感に包まれたようで、他者から見ても熟睡していると一目で判った。
そして何事もなかったかのように、静かに夜は更けていく。
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