真実
第340話 真実 01
◆
革命歴 一七二年。
ルード国首都 カーヴァンクルでの戦闘から八年以上前。
――もっとも、正確な年数は後ほど知ったのだが。
クロード――いや、今はコンテニューである――は自身の状況を把握した。
やはりそうだった。
コンテニューはクロードであった、と。
他の誰でもない。
その為に生まれた存在。
それが彼だったのだ。
彼、というのも些かおかしい。
自分自身なのだから。
しかしながら、どちらが先に生じたのだろうか?
コンテニューという存在がいなければ、クロードは自身をコンテニューであることなんて気が付くことは勿論、過去に戻って他人として全てをやり直す、なんて発想は出来なかったはずだ。
この点は有名な「ニワトリが先か、卵が先か」という命題と似たようなモノであろう。
クロードが過去に至る存在としてコンテニューを生み出したのか。
それとも、コンテニューという存在が既にいて、それがクロードに影響を与えていたのか。
少なくとも自分の感触は前者である。
クロードが生み出した存在。
コンテニューなる人物は、この時以前に存在していなかったことは考えられる。
ならばクロードは転生したのか?
元の――カーヴァンクルで慟哭していたクロードはどうなっているのか?
しかしながら、そこについて考えていても拉致が明かない。
既に出来ていることや先のことについて、結局、これといった正解というものが存在しているか分からないし、誰も答え合わせをしてくれない。
ならば――今、やるべきことをやる。
何の為にコンテニューとなって過去に来たのか?
――皆の幸せを守る為、だ。
「さて、と」
コンテニュー少年はひどく冷静な様子で立ち上がると、自らの身体に積もっている汚れを右手で振り払う。全部は流石に落ちなかったので、ある程度の所までで叩くのを止めつつ、周囲をもう一度見回す。
恐らくは森林に囲まれた、長閑で平穏な村であっただろうに、背の低い建物や農作物が実っていたであろう木々が轟轟と燃え盛り、黒煙を上げ続けている。一番目立つ風車はその羽根を折られ、鈍色に変色させていった。
銃撃がパラパラと鳴り響いている。近くに着弾していないとはいえ、その音だけでも相当な恐怖を感じる。
と、そこで普通の銃撃とは違う音も若干混じっていることに気が付いた。
「……木々が薙ぎ倒される音?」
銃弾音と、パチパチ、という炎で木々が弾ける音とは別に、バキバキ、という明らかに折られる音が、段々と大きくなってきていた。
そういう音ならば戦車などでの蹂躙という可能性があるので、違和を覚えることは無かった。
だがそうであれば同時に聞こえるべき音が、一向に聞こえてこないのだ。
「エンジン音やキャタピラ音……駆動音が全く聞こえていないのはどういうことだろう……いや、ですかね?」
無理矢理敬語を使おうとしているような妙な言葉の言い回し――敬語はコンテニューが常に使っているイメージであったので、頭の中の声でさえ無理矢理にでも近づけさせた。
自分は既にコンテニューなのだから。
それはさておき、コンテニューは妙な現状に対して疑問を抱いた。
これだけ近くで音がしているのだ。更に木が薙ぎ倒されている様子が遠目にも分かってきているが、未だにその音がしないのはおかしい。
動力音がしないが木々を薙ぎ倒せるほどのパワーがある存在。
それが何か。
コンテニューは文字通り目の当たりにする。
――が、その前に分かっていた。
よく知っていた事象であったから。
バキリ、という目の前にあった大きな木が薙ぎ倒され、その存在が姿を現す。
漆黒のボディの、二足歩行型のロボット。
この時、知らなかった。
――クロードがジャスティスの歴史について不勉強であったのもそうだが、この襲来は表に出すことが出来なかったので、誰も知ることはなかったのだ。結果論ではあったが。
二足歩行型ロボット。
名称――『ジャスティス』。
初実戦は史実ではアドアニア侵攻の際であったのだが、テストとして導入されたこの村に対しての襲撃が、真の初実戦であったことを。
「……」
目の前に二足歩行型ロボットが突然現れたというのに、少年はひどく落ち着いた様子で見返していた。その碧色の瞳には驚きも動揺も何も浮かんでいない。
じっ、と。
微動だにせずそのジャスティスを観察するように眺めていた。
(……そんなにジャスティスの形状は変わっていないんですね)
自身の体型から大体八~九年前に来ているのは十二分に理解していたが、それでも変わらないモノに少しだけ自身の体型だけが変化したのでは、という不安が生じていた。
だけども、信じることとした。
自分はきちんと過去に――コンテニュー誕生の瞬間にいるのだ、と。
『何だ? まだ子供が残っていたのか?』
ジャスティスから意外だという声が聞こえてくる。
その言語で相手がどの国の人間か分かった。
あれはルード語だ。
故に目の前の相手はルード国の人間。
この村を襲撃したのはルード国ということだった。
それを理解した少年は、ゆっくりとジャスティスの顔面部へと視線を移す。
『って、金髪で碧い目って……おいおい。この村の人間じゃねえじゃねえか! まずいぞ、おい!』
焦った声が響く。
何がまずいのかは知らない。
だがしかし、言うなれば――ジャスティスに乗っていることがまずかった。
更には五メートル以内の距離にいたのが運のつきであった。
「……くたばれ」
ジャスティスを破壊する。
この根幹は変わっていない。
更には今の彼には、もう一つ、腹の虫がおさまらないことがあった。
マリーのことだった。
クロードが左胸に銃弾を放ち重傷人とさせていたマリーを、戦場に引っ張り出すような真似をしていたルード国に対して、かなりの憎悪を抱いていた。
だから彼は憎しみの対象を変化させていた。
今まではジャスティスと、それを破壊するのに邪魔をしていた存在。
だけども今は――ルード国そのものが憎い。
ルード国民も含め、戦闘に参加する者が、だ。
憎悪の炎は対象を増やしていた。
コンテニューは左手を翳す。
次の瞬間、目の前のジャスティスが崩壊した。
いつものように。
クロードの時に破壊していたのと同じように、目の前のジャスティスが崩れ落ちていくのをこの目で見た。
ということは、能力についてもそのままあるということだ。ただいつものようについしてしまった行為であり実験しようとは微塵も考えていたなかったので、思わぬ副産物であった。
――が。
「……え?」
次の瞬間、コンテニューは当惑した。
何故ならば――
「ジャスティスが……消えた……?」
先程まで目の前にあった――目の前で破壊したジャスティスが、影も形も無くなっていたのだ。欠片すらない。
瞬きすらしていないはず。
何が起こったのか? ――と疑問を口にしそうになった、その時だった。
バキバキ、という音が聞こえて来た。
木が薙ぎ倒されている音だ。
そのように断言出来るのは理由がある。
何故ならばその光景は――つい先程見たことがあったからだ。
バキリ、という目の前にあった大きな木が薙ぎ倒された。
現れたのは――ジャスティスだった。
驚くべきことはそれだけではない。
『何だ? まだ子供が残っていたのか?』
聞こえてきた声。
それは先程のものから、一言一句どころか――声すら同じであった。
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