第316話 カズマ 03

「……っ、うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 カッと目を見開いた。

 完全に目が覚めた。

 カズマは醒めた。

 諦めに閉じようとした自分から戻ってきた。


 何をしているんだ自分は?

 何故簡単に諦めた?

 何故最後まで足掻かないんだ?

 口だけか?

 お前は口だけなのか?

 ピエールは命を張った。

 魂を掛けた。

 なのにダメージで頭が鈍ったのか?

 機体性能差が何だ?

 そんなもの、どうとでもなるだろう!


 ふざけるな!

 一番諦めちゃいけないことを諦めるな!


 お前は何の為に戦っているんだ、カズマ!?

 お前は――


 僕は――彼女と生きる未来の為に戦っているんだろうがっ!!!



「ああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」



 咆哮。

 先程までの苦痛に負けて楽になろうとしていた彼は、もうそこにいなかった。

 今の彼は先の彼とは違う。

 絶対強者の『正義の破壊者』のエースパイロットではない。

 妹を失った悲しき復讐者でもない。



 魂の全てを掛けて生に足掻く、一人の男であった。



「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」



 駆けた。

 彼に呼応するように獣型ジャスティスも信じられないようなスピードで敵ジャスティスに迫って行く。


『なっ!?』


 あまりの勢いと突然の復活に、今度こそ敵ジャスティスは面食らったようだ。

 だが、機体性能差はある。

 先のように攻撃をしても。砕かれるのはカズマのジャスティスのはず。

 そう見込んだようで、相手は先と同じように両手でガードする。


 バキリ。


 だが今度の破壊は――敵ジャスティスの方であった。


 緑色のジャスティスの左前脚が吹き飛んだ。


『があああああああああああああああああああああ!!』


 今度は相手ジャスティスのパイロットの悲鳴が響く。

 悲痛な女性の甲高い声。

 相手の感情に訴えるような痛々しい声。


 だけどカズマは容赦はしなかった。


 カズマは相手のジャスティスの腹部を思い切り蹴り飛ばす。

 相手のジャスティスは錐もみで吹き飛んでいく。

 そこに上空から圧し掛かるように再び襲い掛かる。


『ふざけるんじゃないわよおおおおおおおおおおおおお!』


 バキリ。

 カウンターを食らう形で繰り出された相手の左脚によって、今度は爪が無くなっていたカズマの右腕が根元から吹き飛ばされた。


 それでもカズマは怯まない。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 カズマはジャスティスを片腕で掴み、地面と挟む形で押し潰す様に力を入れる。

 メキメキ、という音がして相手のジャスティスの胸部にひびが入って行く。


『ふざけるなふざけるなふざけるなああああああああああああ!!』


 相手のジャスティスもただでは終わらない。

 残った右腕でカズマのジャスティスのコクピット部を引きはがす様に殴り続ける。ボロボロと蓄積するダメージによって外装が剥がれてくる。

 それでも、カズマが敵ジャスティスの胸部を押し潰す力は緩まない。


『このまま終わるわけにはいかないわああああああああああああああ!!』


 相手の殴る力が強くなる。


『私はアリエッタ! アリエッタなのよ! 何もかも無くした私にはもう何も恐れることなんてないのよおおおおおおおおおおおおおお!!』

「――だからだよ」


 そこで、ずっと絶叫していたカズマが、静かな声で告げた。



「何も無い人が勝てるわけがないじゃないですか――



 その声と共に。

 カズマのコクピットの外装が剥がれ――



 敵ジャスティス――元陸軍元帥アリエッタが操作するジャスティスの胸部が破裂した。

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