第250話 開発 15

    ◆



「……」


 足早に廊下を歩くコンテニュー。

 その彼の顔色は悪かった。

 気分も優れなかった。


(……どうすればいい、どうすればいい、どうすればいい……?)


 彼は考えていた。

 考えながらひどく憔悴していた。

 彼にとって失敗は許されない。

 彼の行動一つで色々な人の運命が変わる。

 変わってしまう。

 それだけの立場にいる。

 そのことを自覚している。

 自覚させられている。

 その対象は手の先にいる少女も含まれていて――


「……あ、ごめん」


 コンテニューは謝罪を口にする。

 ずっと早足で歩いていたら、彼女にとっては引き摺られているのと同義だ。少なくとも良い方向ではなかっただろう。

 彼は歩行速度を落とす。

 しかし決して離さなかった。

 その手は離さなかった。


「大丈夫。ありガトウ」


 無表情。

 だが彼女はそう答えた。

 それがコンテニューの胸に来た。

 散々、ルード軍――というよりもセイレンと言っても過言ではないが――に酷い目に遭わされてきたはずだ。

 なのに内心では反逆心を持っているとはいえ立場上は軍のトップの方に位置しているコンテニューに対し、感謝の意を述べられている。

 ただ考えなしに口にしたのかもしれない。しかし、それでもコンテニューには衝撃的だった。


「……」


 立ち止まって、彼は決意する。

 自分が突き進む道。

 自分が突き進みたかった道。

 自分が突き進むべき道。

 その先を見据えるために――


「……唐突で申し訳ありませんが、マリーさん。これを貴方に差し上げます」


 そう言ってコンテニューはポケットからあるモノを取り出し、繋いでいない方の彼女の手に握らせる。


「こレは……」

「お守りです。僕のお手製ですが、効果のほどは保証します。ぜひ受け取ってください。そして肌身離さず持っていてください。絶対です。絶対ですよ?」

「……? 分カッタわ」


 かなり強い口調で半ば押し付けるように渡したが故に困惑した様に眉を歪めながらも、彼女はそれをきちんと受け取り、自分の胸元に仕舞い込んだ。パイロットスーツにポケットが無い故にそこにしか仕舞う所が無いのだから必然なのだが、そこに少しドキリとしてしまう。


「……? どうシタの?」

「いえ、何でもありません」


 にっこりと笑顔を見せる。

 これは仮面だ。

 内心を見透かされない為の。


「あ、ここに入りましょう」


 近くにあった会議室の一つを開け、誰も中にいないことなど色々確認してから入室し、扉も鍵も閉める。


「適当に座ってください。――さて」


 近くの椅子に座る様に促し、彼は真正面から見つめてくる瞳を見つめ返しながら言葉を紡ぎ始める。



「僕が知っているクロード・ディエルについて教えましょう。少し時間は掛かりますが、どうかご清聴のほどよろしくお願いいたします」

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